牢宮・第二階層
フェイが慈愛と冠した一階層の次は、尊重を冠する二階層。
果たしてどんな階層なのかと、扉を開けて足を踏み入れた先に見渡す限りの草原が広がり、近くには大きな川があって水の音が聞こえてくる。
空を見上げれば、僕達の危機的状況を嘲笑うかのようにこれでもかという綺麗な青空が広がっていた。
一階層は色とりどりの花が咲き乱れる花畑、二階層は大草原と大河が広がる空間か。
初めて体感する牢宮【ダンジョン】の規模に圧倒されるも、イビがすぐにその場で飛び上がって空から状況の確認を行った。
降りて来た彼女曰く一階層同様、目印になるようなものは見当たらなかったそうだ。
フェイは『遊戯【ゲーム】』と言っていたから、必ず門番のところに辿り着く条件があるはずだと、僕は仮説を立ててイビとマルバスに説明する。
前世でやった数々のゲーム経験も大きいのは言うまでもない。
道の目印がないなら一定以上の距離を進むか、もしくは一定数の魔物を倒すことが門番出現の条件ではないか、と提案した。
イビとマルバスは多少懐疑的だったけど『どちらにしても前に進むしかない』ということで、出現した魔物を可能な限り倒しながら進むことが決定する。
二階層の草原を僕達が歩き始めて程なく、魔物達が地中から這い出てきた。
一階層は骸骨兵ばかりだったけど、二階層の魔物は皮と骨だけとなった人型で武具を纏った木乃伊の大軍だ。
さしずめ木乃伊【ミイラ】兵と言ったところだろうか。
でも、確か木乃伊って乾燥しているから水分が極端に少ないし、屍蝋もあるから燃えやすいとか。
どのゲームでも木乃伊の弱点って大抵が火だったもんなぁ、そう思って迫り来る木乃伊兵達に『火槍』を放ってみたら、これが大正解。
「ヴォォオオオオオ⁉」
木乃伊兵達は声にならない叫びを上げ、次々と燃え上がってその場に倒れ込み、焼失してしまう。
ただし、数が多かったので草原は瞬く間に木乃伊が激しく燃え上がる火で赤く染まってしまった。
「はは、見ろよ。木乃伊がゴミのようだぜ。さすが悪役主人公【ダークヒーロー】。汚物は浄火ってか」
「一体ずつ倒す手間が省けたな。褒めてやるぞ、木偶」
イビは燃え盛る木乃伊兵達を見て高笑いをし、マルバスは眼鏡の山をくいっとして鼻を鳴らした。
「いや、そこまで意図してやったわけじゃないんだけどね……」
効果覿面すぎて若干引きながら頬を掻いていると、燃え盛る炎の後ろから狼や虎の木乃伊を模した魔物達が飛びかかってきた。
足が愚鈍で多頭を組んだ木乃伊兵達とは違い、単体で襲ってくるから一気に倒すことはできない。
「大軍だと燃やされるから、単独で来たってか。舐めんじゃねぇよ」
イビは勝ち気な口調で吐き捨てると、木乃伊兵達が消滅して残した戦利品から槍を拾いあげ、牙を剥いて襲いくる木乃伊化した狼や虎の魔物達を次から次に蹴散らしていく。
マルバスは彼女の動きを見つめつつ、心底嫌そうに舌打ちしてこちらを見やった。
「聞け、不本意だが私は鶏頭の死角からくる魔物を倒す。木偶、貴様は得意の魔法で蹴散らした敵を燃やして止めを刺せ。木乃伊【アンデッド】化して動いている以上、倒しても復活する可能性もあるからな」
「わかった。それでいこう」
こうして僕達は次々に襲いくる木乃伊化した魔物達を打ち払いながら先に進んでいった。
暫く進むと、遠目に石柱のような明らかに人工物のようなものが見えてくる。
僕達は先を目指して進み、辿り着くとそこは等間隔で石柱が並び立ち、その中心には円形状の大きな舞台が造られていた。
「……こういうのって、大抵舞台に上がったら敵が出てくるよね」
僕が切り出すと、イビがこくりと頷いた。
「まぁ、十中八九そうだろうな」
「あの蝶からすれば、遊戯を面白おかしくする演出のつもりなのだろう。実に下らん」
「あ、あはは……」
マルバスの身も蓋もない言葉に苦笑しつつ、僕達は互いの装備や状態を確認してから揃って舞台上に足を踏み入れた。
何も起きない……?
警戒しながら僕達が顔を見合わせたその時、舞台を囲んでいた石柱から透き通った紫色の魔力障壁が雷鳴を発して現れて繋がっていき、瞬く間に丸天井を造った。
僕は牢宮内で拾った短剣を手に取り、透き通った紫色の魔力障壁に向かって放り投げる。
間もなく魔力障壁と短剣の切っ先が接触し、硝子と鉄が打つかりあったような甲高い音が響きわたって短剣は舞台上に力なく転がった。
逃げられないし、逃がさない仕掛けということだろう。
「あはは、君達三人は本当に凄いよ。ここまでの最短記録を大幅更新だ」
上から聞こえてきた底抜けに明るい声に反応して見上げれば、蝶の羽を持つ妖精が心から楽しそうに満面の笑みを浮かべていた。
「やぁ、フェイ。君が出てくるということは、二階層の門番が居る場所はここで間違いないみたいだね」
僕が微笑み掛けると、彼はにやりと不敵に口元を歪めた。
「正解。でも、一階層の門番みたく楽に倒せるとは思わないことだね」




