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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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リッドの実演

「それでは実演しますね」


「うむ……」


シアが用意し、カペラが『とある処置』を施した白魔蝶貝と黒魔蝶貝。


まず、白魔蝶貝を手に取って『魔力』を流し込んでいく。


ただ、普通の魔力じゃなくて、特定の属性に変化させた魔力だ。


注目を浴びる中、僕を中心に軽い魔波が起き、白魔蝶貝が小さく震え始める。


これ、結構な魔力量が必要になるんだよなぁ。


机の上に予め置いておいた懐中時計で時間を計り、一定時間過ぎたところで魔力を流し込むのをやめて息を吐いた。


「ふぅ……。これ、結構な魔力量と集中が必要になるんですよね。さぁ、確かめてみてください」


白魔蝶貝を手渡すと、シアは貝の裏表を念入りに確かめる。


「……特に大きさも変わっておらんな。リッド殿、本当に今ので真珠ができたのか?」


「はい。中身を開けてみてください」


「わかった。確認させてもらおう」


シアは訝しみながら机の上に用意していた小さなナイフを手に取り、切っ先を貝の隙間に入れてこじ開けた。


次いで、貝の身を丁寧に調べていくと「こ、これは……⁉」と目を丸くする。


実の中から『真っ白で小さな真珠』が出てきたからだ。


「俺も海で見せてもらったけどよ。何度見てもすげぇよなぁ」


椅子に腰掛けていたヴェネが感嘆の声を漏らした。


実は海の視察中、条件に合った海が見つかった時点で彼女にはシアにしている提案の内容は事前に伝え、実演も披露している。


『処置』や『魔力』の秘密は語っていないけど、もともと友好的だったヴェネをこちら側に引き込む根拠としては十分だった。


「……あれを見る度、商会にリッド様が一人はほしくなるのよね」


「そうですよねぇ。リッド様がクリスティ商会にいれば帝国はおろか、大陸全土の商圏を支配できそうです」


「あはは……。お二人が言うと、あんまり冗談に聞こえませんね」


クリスとエマがおもむろに呟くと、アモンが苦笑しながら頬を掻いた。


その様子を見ていたティンクが「ふふ」と笑みを吹き出す。


「リッド様が帝国に属するバルディア家にお生まれになって良かったです。もし、トーガに生まれていたら『神子』扱いで各国を回って、ミスティナ教の信者が爆増していたかもしれません。ねぇ、カペラさんもそう思いますよね」


「確かに言い得て妙ですが、リッド様はどこの国に生まれても必ず権力者の目に止まったというべきでしょう。良くて軟禁、最悪は監禁といったところでしょうか。おそらく、一人で外に出ることもままならなかったかと」


「はは、ちげぇねぇ。リッドがもし平民なら、俺でも攫っちまうぜ」


ティンク、カペラ、ヴェネの三人が何やら物騒な話をしているような気がする。


クリスから『商会に一人はほしい』って言われるのは嬉しいけど、お金を生み出す金のガチョウという意味ならあんまり嬉しくない。


トーガのミスティナ教で『神子』扱いなんてのも、まっぴら御免だ。


そもそも、ミスティナ教に入信は父上から『絶対だめだ』と釘を刺されているからね。


「皆、この場であんまり好き勝手なことは言わないでね」


にこりと目を細めて一瞥すると、皆はびくりと肩をふるわせて「あ、あはは。申し訳ありません」と決まり悪そうに苦笑した。


まったく、何をやってるんだか。


小さく肩を竦めると、僕は畏まってシアを見据えた。


ちなみに彼はずっと真珠を驚嘆した様子で見つめている。


「どうでしょうか、シア殿。細かい仕組みはまだお伝えできませんが、そちらは本物の真珠ですよ」


「に、にわかには信じられん。いや、しかし、一個だけでは偶然ということもありえる。リッド殿、申し訳ないが『黒魔蝶貝』でも実演してもらえぬだろうか」


「お安いご用ですよ。ただ、さっきもお伝えしたとおり、結構疲れるので実演は二回までにさせてもらいますね」


「う、うむ。わかった」


シアが頷くと、カペラが机の上に置いてあった黒魔蝶貝を取って渡してくれた。


彼にお礼を告げると、僕は深呼吸をして集中力を高めていく。


「……では、もう一度実演いたしますね」


そう告げると、僕は再び特定の属性に変化させた魔力を貝に流し込んでいく。


実はこれ、水属性もしくは氷属性に変化させた魔力なんだよね。


カペラが事前に行ったとある処置というのは『母貝の生殖巣に切れ込みを入れ、淡水で育つ他貝の貝殻を球形に加工したもの』だ。


真珠ができる仕組みは、貝が内部に入り込んだ異物を外敵と認識することから始まる。


外敵と認識した異物を外に排出できない場合、貝は『貝殻』と同じ成分で覆うことで異物を無力化させるという自己防衛機能を発揮。


そして、長い時をかけて体内に入り込んだ異物(外敵)を貝殻と同じほぼ成分で包み込んだものが『真珠』として重宝されるというわけだ。


ただし、この貝が体内に入って外敵として認識させる異物を調べて選別するには、膨大な時間をかける必要がある。


加えて『異物を母貝の生殖巣に入れる』には、手早く短時間で処置を終える高度な技術が要求され、下手な者が行えばたちまち貝は死んでしまう。


この辺りの仕組みは、毎度お馴染みメモリーに前世の記憶から引っ張り出して資料にまとめてサンドラとエレン達に渡すことで、この世界でも通じる知識であることはすぐに把握できたけど、問題は時間だった。


真珠というのは長い年月、具体的には母貝で二年程度の時間を掛けてゆっくりと真珠を育てる。


稚貝からとなれば母貝になるまで約二年、真珠を育てるのに約二年という、合計でおよそ四~五年程度の時間がかかってしまうのだ。


付け加えると、正しい処置をして二年寝かせたとしても母貝の健康状態次第で一~二割は失敗する。


まぁ、それでも天然の真珠を探すよりも、段違いの効率だけどね。


この問題を何とかできないかと考えた時、僕はふと思い出した。


『そう言えば、ときレラで白魔蝶貝と黒魔蝶貝が敵で出てきた時、水と氷属性の攻撃すると回復してたな。それに、この世界の真珠には多少なりとも魔力が含まれている……もしかして、水と氷属性の魔力を注ぎ込んだら真珠が早くできたりして』


思ったが吉日、サンドラに『ときレラ』のことは伏せて仮説を告げたところ、『面白いですね。やってみましょう』ということになった。


そして、何度も魔力を貝に注ぎ込んだ結果がこれだ。


「ふぅ……。出来ました。確認してください」


「わかった。改めてさせてもらう」


魔力を込めた『黒魔蝶貝』はカペラを通じて、シアに届けられる。


さっきと同様、彼は母貝を丹念に調べていく。


「……やはり、これも見た目は何も変わらんな」


彼はそう呟くと、小さなナイフを手に取って貝をこじ開けた。


間もなく、シアの目が大きく見開かれる。


「……素晴らしい。見事な黒真珠だ」


シアは目を爛々とさせ、手に取った黒真珠を天に掲げる。


喜んでくれたようで何よりだ。


そう思ったら、彼はすぐにハッとしてこちらを見つめてきた。


「これ一つだけでも相当な利益を生み出す産物だというのに、これには目もくれずにもっと莫大な利益を生み出す仕組みを見据えた提案をしてきたというのか。なんと末恐ろしい風雲児だ」


「あはは……。お褒めいただき恐縮です」


バルディアとクリスティ商会だけで売れば相当な利益を生み出すだろうけど、何も考えずに売れば絶対に周囲の横やりが入るし、いらぬやっかみも買うことにもなるはずだ。


莫大な利益を生み出すからこそ、有力者の協力を得て行った方が良いこともある。


シアとヴェネにはまだ伝えていないけど、貝に魔力を注ぎ込むと言っても多すぎても少なすぎても失敗するんだよね。


少なすぎると、気付かないうちに貝がひっそりと死んでしまう。


逆に魔力注入が多すぎた場合は要注意だ。


何せ、貝の外殻全体に罅が出来て震え始めたかと思ったら、いきなり弾けて細かい貝殻が爆散するという大惨事を引き起こすのである。


天然の手榴弾と言えば、その危険性が伝わるだろう。


あの時は魔障壁がなければ、本当に危なかった。


脳裏に蘇る過去の出来事に苦笑しながら頬を掻くと、僕は咳払いをして畏まった。


「さて、シア殿。これで、私とバルディアを信じていただけますか?」


目を細めて問い掛けると、シアは真顔になった。


「貝を千個開けて一個出るかどうかの真珠が、リッド殿がした処置で二個も連続で出たとなれば疑いようもあるまい。貝の養殖に必要な海の情報、豪族達の説得、必要なことは全て任されよう」


シアはそう言うと席を立ち、僕の傍に立つと右手を差し出した。


「リッド殿。改めて、これからよろしく頼む」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


その場で席を立つと、僕は彼の手を力強く握り返した。


これで兎人族領との関係性はぐっと縮まったはずだから、この後の会談も友好的で互いによりよい結果にできるだろう。


そして、未来に向けた新たな計画も始動したとも言える。


会談の成功を確信し、もう何も問題は発生しないだろうと僕は安堵するのであった。






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