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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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シアとの問答

「ヴェネ、お前は部族長なんだぞ。手紙一つ置いて関所に出向くとは一体何を考えているんだ」


「うるせぇなぁ。そんなに大声出さなくたって聞こえているよ、親父」


兎人族の部族長屋敷に到着して早々、ヴェネの実父で前部族長シア・ノーモスの怒号が轟いた。


彼の黒い髪は怒りで逆立ち、鋭い目付きの奥にある茶色の瞳は古強者らしい独特の眼光を放っている。


ヴェネは怒号が轟くと口を尖らせ、面倒臭そうに頭にピンと立っていた耳を折った。


人族で言うところの耳を塞ぐ行為だ。


でも、その動きを見たシアはさらに顔が真っ赤になっていく……怒っている人の前でそんなことしたら当然だよ。


「お、お前という奴は……⁉」


ほら、彼がわなわなと怒りに震えちゃったじゃないか。


僕は心の中で深いため息を吐くと、この場を収めるべく恐る恐る二人の間に入った。


「あの、シア殿。私から少しよろしいでしょうか」


「……なんでしょうかな、リッド殿」


怒りを抑えて必死に笑顔を作っているんだろうけど、シアのこめかみには青筋が走ったままで怖い。


僕は咳払いをすると、ヴェネをちらりと横目で見やった。


「差し出がましいようですが、ヴェネ殿は関所に私達を迎えてきてくれたのです。おかげでこちらに来るまでの道中、友好を深められました。これ、ヴェネ殿なりの配慮による外交の一つかと存じます故、ここは私達に免じてどうかお許しください」


僕が会釈すると、アモンも隣にやってきた。


「リッドの言うとおりです。ヴェネ殿は此処に来るまでの道中、木炭車から見える景色と合わせて兎人族領の現状を語ってくれました。会談に向け、とても有意義な時間であったことは間違いありません。私からもお願いします。どうかヴェネ殿をお許しください」


僕達が揃ってヴェネを庇うとは思わなかったのか、シアは目を瞬き戸惑うように唸った。


「……わかりました。お二人がそう仰ってくださるなら、これ以上の追及は止めましょう」


「おぉ⁉ 親父が引いたぞ。リッドとアモンはさすがだな。恩に着るぜ」


「アモンの言うとおり、私達も道中で有意義な時間を過ごせましたから」


「そうです、気にしないでください」


ヴェネは満面の笑みを浮かべて僕とアモンを同時に抱きしめてきた。


不可抗力で彼女の体と密着したその時、僕はあることに気付いてハッとする。


さすが部族長と言うべきか、ヴェネの体は鍛え上げられていることを意図せず理解してしまったのだ。


間近だからこそ感じる魔力量も凄まじい。


間違いなく、僕が出会った女性の中でも相当の力を持っている。


ディアナ、ティンクだけでなく、アスナすらも圧倒するんじゃないだろうか。


現状でこれだけ力を持っているなら、将来的には現獣王セクメトスすら超える可能性すら感じる。


兎人族部族長ヴェネ・ノーモスとは、絶対に仲良くしておいたほうがよさそうだ。


背中に薄ら寒いものを感じていると、シアが深いため息を吐いて「ただし……」と凄みながらヴェネに迫っていった。


「寛容に済ますのは今回だけだぞ、ヴェネ。リッド殿とアモン殿との友好が深めたというのは、あくまで結果論だ。頂点に立つ部族長である以上、部族の模範となるよう慎重かつ計画的に動かなければならん。そうでなければ誰も彼も好き勝手に動くことが当然となり、収拾が付かなくなるのだぞ」


「あぁ、わかってる。わかってるって。ただ、今回だけはどうしても二人に早く会いたかったんだよ」


おぉ、あの強気なヴェネが上半身を反らすようにたじろいでいる。


父上に怒られている時の僕と、ちょっと似ているかもしれない。


「本当に理解してくれると良いのだがな。全く、お前は幼い頃からやることなすこと度が過ぎるのだ。振り回される側を考えてくれ。私も、もう若くないのだからな」


シアがやれやれと肩を竦めると、ティンクが「ふふ」と噴き出した。


どうしたんだろうと目配せすると、彼女は顔をすっと僕の耳元に寄せてきた。


「……なんだかリッド様とライナー様を見ているみたいでしたので」


「……奇遇だね。僕もだよ」


苦笑しながら頬を掻いていると、ヴェネが気恥ずかしそうに顔を赤らめて「だから、わかったって言ってんだろ」と大声を発した。


「そもそも、部族長は部族の模範とならねぇといけねぇんだろ。だったら、リッドやアモン達の前でお小言は言うもんじゃねぇだろ」


「む……⁉ それはそうだな。すまん、少し言い過ぎたようだ。リッド殿、アモン殿、お見苦しいところをお見せした。申し訳ない」


「いえいえ、お気になさらず。僕も故郷のバルディアでは、よくシア殿のように父に叱られていますから。ヴェネ殿のことは何も言えません」


頭を振って冗談交じりに告げると、シアはきょとんとしてから笑い始めた。


「あっははは。そうですか、ライナー殿もリッド殿で苦労しているようですな。いやはや、才気溢れる子に恵まれるというのは親として無上の喜びですが、いろいろと悩みも絶えませぬ。機会があれば、ライナー殿とは子育てについて語り合ってみたいものですな」


「親父、何恥ずかしいこと口走ってんだよ。やめてくれ」


「良いではないか。私は立場上、父友がおらんのでな。ライナー殿であれば、わかってくれるやもしれん」


「だから、やめろって」


シアとヴェネのやり取りは、仲の良い親子そのものだ。


僕は「あ、あはは……」と苦笑しながら頬を掻いた。


「一応、父にはシア殿がそう仰ってくださったことはお伝えしておきますね」


「それは有り難い。よろしく伝えておいてくれ」


「リッド、親父の言うこと本気にすんなって。本当に言わなくて良いからな」


シアは好々爺らしい笑みを浮かべるが、ヴェネは本当に困った様子で額に手を当てながら頭を振っている。


お互いを信頼し合っている、本当に良い親子関係なんだろうな。


二人のやり取りを目の当たりにしていると、ふいに父上とのやり取りが脳裏に呼び起こされ、つい「ふふ……」と噴き出してしまう。


すると、隣にいたアモンが首を傾げた。


「……? リッド、どうかしたのか?」


「あ、いや、何でもないよ」


僕が頭を振ると、ヴェネが耳目を集めるように咳払いをした。


「さて、そろそろ屋敷の会議室に移動しようぜ。話さないといけないことが沢山あるからな」


「わかりました。しかし、ヴェネ殿。会議前に一つお願いがあります」


「お願い……? なんだ、言ってみろ」


彼女は鋭い眼光を放ち、僕を訝しむように見つめてきた。


この刺すような眼差しを向けられると、ヴェネが部族長であると再認識させられる。


「はい。実は兎人族領の『海』を会談前に視察させていただきたいのです」


僕がそう告げると、ヴェネやシアをはじめ、この場にいた兎人族の豪族達は顔を見合わせて首を捻った。


「海だと……? それは会談後に予定している領内案内の時じゃ駄目なのか」


ヴェネの鋭い指摘に、僕はこくりと頷いた。


「はい。兎人族領の『海』はバルストや猿人族領の海と違い、年間を通して波が比較的穏やかだと伺っております。条件さえ合えば、会談で私達がご提案できることも増えるでしょう。海だけで構いません、先に案内していただけないでしょうか」


ヴェネやシアは口元に手を当て、考え込む素振りを見せる。


豪族達はひそひそ話をしながら首を捻ったり、肩を竦めているようだ。


ざわめきの声が大きくなりはじめるなか、シアがゆっくりと口を開いた。


「しかし、リッド殿。条件が合えばと、仰いましたな。ということは、無駄足の可能性もあるのでしょう?」


「……それは仰る通りです」


「それならば、せめて納得する理由を教えていただきたい。『波が穏やかな海』と仰るのは簡単ですが、海も場所によって波は様々です。リッド殿の考える条件に合う海を探すとなれば、貴殿達が乗る木炭車を利用しても一日はかかるでしょう。道も整備されておりませんからな」


シアの言い分は正しいが、僕もここで簡単に引き下がるわけにはいかない。


バルディアの未来にも、大きな影響を与える可能性が高いからだ。


「それは重々承知しております。ですが、理由はまだこの段階でお伝えすることはできません」


「では、全ての海を見た時には理由を教えていただけると考えてよろしいか?」


鋭い眼光を放ちながらの指摘に、僕はごくりと喉を鳴らして息を呑んだ。


やっぱり、この人は一筋縄で行く人じゃない。


でも、下手な嘘をついて誤魔化せば、信頼を失ってしまうだろう。


僕は深呼吸をすると、ゆっくり頭を振った。


「残念ながら全ての海で条件が合わなかった場合も、その理由は伏せさせていただきたく存じます」


「それでは話になりませんな。理由は教えられないが、穏やかな海を案内してほしい。そちらの条件が合わなければ、理由は秘められたまま。最悪の場合、貴殿達だけが有力な情報を得て、我々は海の情報を無意味に差し出すことになる。これは国防の観点から考えても、由々しきことでしょう。違いますかな?」


国防の観点、この言葉一つで彼の視野がとても広いことを思い知らされる。


海といっても浅瀬や遠浅、岩礁地帯、海流、深さ、水温などの様々な情報が存在するのだ。


これらの情報が外に漏れれば、海を超えてやってくる外敵、人攫いや盗人に悪用される危険性もある。


実際、前世の世界では、海の情報が違法に収集されることが国防の観点から各国で問題視されていた。


決して安易に知られて良い情報ではない。


「仰る通りです。しかし、条件さえ合うとわかれば必ず兎人族の繁栄と発展に繋がるはずです。身勝手かつ無理なお願いであることは重々承知しておりますが、何卒案内をお願いできないでしょうか」


僕は熱弁を振るうが、シアの表情はぴくりとも動かない。


「条件さえ合えば、必ず兎人族の発展と繁栄に繋がる、ですか。型破りな風雲児と呼ばれるリッド殿がそうまで仰ると、実に魅力的に聞こえますな。しかし、ならばなおのこと、我らに案内を依頼する理由をお聞かせいただきたい」


「それは……」


計画をここで言ってしまえば、必ず横やりや邪魔が入るだろう。


人の噂に戸は立てられないからだ。


まして、ここはバルディアじゃないから余計に情報を管理していくのは難しい。


僕は言いたくなる気持ちをぐっと堪え、「わかりました」と肩を落とした。


「残念ですが……」


「ちょっと待て、リッド」


案内してもらうことを諦めようとしたその時、今まで難しい顔で黙っていたヴェネが僕の言葉に被せるように切り出した。






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