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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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関所での邂逅

「よう、リッド、アモン。待ってたぜ」


猿人族領と兎人族領の境にある関所で手続きを進めていたところ、白いフードを深く被った人物が僕達を見るなり尖った八重歯を見せてきた。


声からして女性っぽいけど、フードの奥には茶色の瞳が鋭い眼差しを放っている。


たたずまいからして、只者ではなさそうだ。


でも、誰だろう。


関所で待ち合わせはしていなかったはずだけどな。


彼女の身なりに目をやると、一見は白を基軸としたワンピースだ。


ただ、よく見ると腰部分から足下にかけて青い糸で素晴らしい刺繍と長いスリットが入っている。


前世の記憶にあるチャイナドレスを彷彿とさせる格好だ。


彼女が近づいてくると、ティンクとカペラが身構えて行く手を阻むように前に出た。


「恐れながらどちら様でしょうか」


「お名前をお聞かせ願います」


「なんだよ、おい。お前達、もう俺の声を忘れちまったのか。俺だよ、俺」


彼女が肩すくめて白いフードを外すと二つの耳がピンと立ち、露わになった黒い長髪が風に颯爽と靡いていく。


「あ、貴女様は……⁉」


ティンクとカペラが目を丸くしてたじろぐと、彼女は目を細めてにこっと尖った八重歯を見せた。


「やっと思い出したか、兎人族部族長のヴェネ・ノーモスだぜ」


「な……⁉ ど、どうしてヴェネ殿がこちらにいらっしゃるんですか⁉」


「リッドの言うとおりです。こちらが部族長屋敷にお伺いすると、事前にお伝えしていたはずです」


僕とアモンが慌てて前に出ると、彼女は肩を竦めた。


「おいおい、二人とも。俺のことはヴェネと呼んで良いって部族長会議で言ったはずだぜ。口調も崩してくれよ。堅苦しい言葉遣いは苦手なんだ」


「わ、わかりました。でも、どうしてヴェネが関所にいるんですか」


言われたとおりに口調を崩して僕が聞き返すと、彼女は「はは」と笑みを溢した。


「まだ若干固いな。まぁ、いいけどよ。それと、俺がここにいる理由はな……」


ヴェネは真顔になると、僕達の面前からふっと消えてしまった。


「え……」


僕とアモンがきょとんとしたその時、気付けば背後からヴェネに肩を抱きかかえられた。


動きが全く見えなかった、なんて速さだ。


もしかして、会談前から圧倒的な力量差を示すことで僕達に圧をかけ、交渉を優位に進めようという考えなのかもしれない。


一体、この状況下で何をするつもりなんだ。


背筋に冷や汗が流れたその時、ヴェネはにこりと笑った。


「二人に少しでも早く会いたかったからだ」


「え、えぇ⁉」


「そ、そんな理由で⁉」


「なんだよ、二人とも。そんな驚かなくてもいいじゃないか。親父を出し抜くのは、意外と大変なんだぜ」


ヴェネは口を尖らせてしまったが、言葉や気配から察するに彼女の言っていることは本当のようだ。


僕の考え過ぎだったことは良かったけど、もはや重要なのはそこじゃない。


「だ、出し抜いたって。シア殿に黙ってこちらに来たんですか」


シアとは、兎人族の前部族長にしてヴェネの実父だ。


現在の兎人族部族長はヴェネだけど、彼女は実力こそあれどまだ若い。


実務経験が足りない部分があるので、その点をシアが補佐しているそうだ。


実際、部族長会議から今回の会談日程を決めるに至るまで、ヴェネよりもシアの方が経験豊富で段取り上手だった。


「まさか。そんなことしたら親父もカンカンになるからな」


「そうですか。それなら良かったです」


ほっと胸を撫で下ろしていると、ヴェネはニコッと笑った。


「おう、ちゃんと置き手紙を残してきたから大丈夫だぞ」


「置き手紙……」


大丈夫じゃない。


多分、それは大丈夫じゃないよ。


シアが顔を真っ赤にしている姿が脳裏に浮かんでくる。


僕が深いため息を吐くと、アモンが「ところで……」と切り出した。


「ヴェネ殿は、どうやって私達が今日関所を通るとわかったんですか」


「あぁ、それはジェティに頼んでおいたんだよ。お前達が出発する日がわかったら、早馬で教えてくれってな。それで今日ぐらいに通るだろうって、早朝から待っていたんだ」


「な、なるほど。そういうことですか」


アモンが珍しく呆れ顔を浮かべている。


そういえば部族長会議で見た感じ、ヴェネとジェティは仲良さそうだったもんなぁ。


「それにしてもよ」


ヴェネはそう切り出すと、木炭車と被牽引車に目をやった。


「これが巷で噂になっている木炭車と被牽引車だな。相変わらず、不思議な乗り物だぜ」


「え、えぇ。その通りですが、ちなみにどんな噂を聞かれたんですか」


僕が尋ねると、彼女は目を輝かせた。


「疲れ知らずで走り続ける魔物の一種とか、ミスティナ教に出てくる神話の生き物を箱の中に閉じ込めているとか、実は奴隷で動いている鉄の箱とかな。色々流れてくるぜ。まぁ、俺は部族長会議の時に一度見ているから信じちゃいねぇがな」


「はは、面白い噂が流れているみたいですね」


木炭車の仕組みを知らない人が『鉄の箱が自動で動く』と聞けば、この世界の人達は魔物や神話の生き物が箱に詰められて動かしていると思うのか。


まぁ、前世でも電話が一般普及した時、『電線に物を吊るせば遠くに届く』なんて考える人達も実際にいたらしいから、どの世界も似たようなものかもしれないな。


僕が笑みを溢すと、ヴェネが咳払いをして畏まった。


「なぁ、リッド。俺も木炭車に乗せてくれねぇかな。部族長会議の時から、これにずっと乗ってみたかったんだよ」


「えぇ、構いませんよ。何でしたら試運転もしてみますか?」


「本当か⁉」


ヴェネは満面の笑みで身を乗り出すと、僕の目と鼻の先まで顔を寄せてくる。


ぱっと見は怖い雰囲気で気付かなかったけど、間近で見たヴェネの顔は整っていて、とんでもない美人だった。


ごくりと喉を鳴らして息を呑むと、僕はたじろぎながら距離を取るべく後退る。


脳裏に『リッド様?』と、目を細めたファラの姿が過ったからだ。


「も、もちろんです。ただ、今後の移動もありますし、無茶な運転はできません。それと広くて平坦な場所でなければ試運転は難しいかと」


「あぁ、それでいいぜ。屋敷周辺や中庭の訓練場を使えば良いからな」


彼女はそう言うと、心底嬉しそうに微笑んだ。


「いやぁ、言ってみるもんだぜ。親父が言うところの『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』ってやつだな」


「えっと、ヴェネはどうしてそんなに木炭車が気になっていたんですか?」


ふと思った疑問を問い掛けてみると、彼女はすっと真顔になった。


「今までにない技術だからだ。親父や豪族達は『木炭車は素晴らしい技術だが、足が遅い。あれなら馬人族や鳥人族に運送を頼んだ方が早い』と言っているけどな。確かに親父達の言葉にも一理あるかもしれないが、過小評価だと俺は考えている」


「……それはどうしてですか?」


僕が聞き返すと、彼女は肩を竦めて笑った。


「木炭車と俺がここから部族長屋敷まで競争したら、絶対に俺が勝つ。だが、領外や他国となれば話は変わるだろ。何よりも、木炭車は乗り手を選ばねぇ。技術を学べば、誰でも乗りこなせるんだろ。その上、木炭車の製造技術は今後どんどん発展していくはずだ。違うか?」


「えぇ、仰る通りです」


相槌を打ちながら、僕は内心でヴェネの先見の明に驚愕していた。

 

木炭車の製造技術が発展することはまぎれもない事実だけど『短距離なら勝てても、領外や他国となれば話が変わる』とか『木炭車は乗り手を選ばない』という本質的な部分に彼女は自分で気付いている。


部族長会議で木炭車における物流強化案は出したけど、本質的な部分は出来る限り触れないようにしていたはずなのに、だ。


「俺の勘はよく当たるんだよ。そして、その勘が言っているんだ。バルディア家と新政グランドーク家との繋がりこそが、今後における兎人族の発展に大きな影響を及ぼすだろう……ってな」


ヴェネの鋭い目付きから放たれる眼光は、未来を見透かしているような印象を受ける。


「バルディアを、当家をそのように評価していただけるなんてとても光栄です」


「私もです。バルディア家だけでなく、現状のグランドーク家をそこまで高く評価していただけるなんて思いもしませんでした」


僕とアモンが威儀を正して会釈すると、彼女はハッとして決まりが悪そうに頬を掻いた。


「はは、柄にもなく語っちまったな。それよりも、早く乗せてもらえねぇか」


「わかりました。では、私達と同じ車両にどうぞ」


僕が被牽引車の中にヴェネを案内すると、彼女は目を輝かせ「おぉ、内装もしっかりしてるんだな」と大はしゃぎだった。


こうして、僕達は彼女と一緒に兎人族領内へ車両を進めていくのであった。






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