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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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朝食の勝敗

「二人とも、無理はしないように。じゃあ、はじめ」


アモンの呆れ声を合図に、僕とヨハンは食卓に所狭しと並べられた料理に手を伸ばしていく。


まずは普通に味わって食べたいから、僕はゆっくりと口に料理を運んでいった。


懇親会の時から思ったけど、猫人族の味付けは全体的に濃いめだ。


でも、決して油っぽかったり塩辛いということもない。


調味料、香味料で絶妙な調整をしているんだろう。


昨日は豪族の対応やヨハンのこともあって料理を味わうどころじゃなかったんだよなぁ。


「リッド。そんなペースでは僕に勝てないぞ」


自信満々な笑みを浮かべるヨハン。


彼は近場の料理を手当たり次第に食べているようだ。


意外にもテーブルマナーはしっかりしていて、上手にフォークとナイフを使い分けている。


「まず味わいたいからね。まぁ、僕に勝ちたいなら今のうちに食べておくことだよ」


「言ったな、リッド。後で後悔するなよ」


ヨハンは口を尖らせ、食事を再開する。なかなか勢いのある食べ方だ。


食卓の料理を味わった僕だが、ヨハンが食べ終えた皿数との差は結構な枚数になっている。


でも、僕は動じることなく控えていたカペラとティンクに目配せした。


「二人とも料理を小皿で食べやすい形にして持ってきてもらえるかな」


「畏まりました」


「え、それはずるくないか」


会釈する二人を見てヨハンが目を瞬くが、僕はやれやれと肩を竦めた。


「残念だけど、そんな決まりはしてないでしょ。そうですよね、セクメトス殿」


「わかった、認めよう」


彼女が不敵に頷くと、ヨハンは頬を膨らませた。


「なら、僕も利用するまでだ」


「どうぞ、ご自由に」


僕が目を細めて返事をすると、彼は控えていた猫人族の給仕とメイド達に目配せして食事を食べやすく装ってもらうよう指示を出していく。


そのやり取りを横目に、僕は深呼吸をして身体強化・烈火を発動する。炎のように赤く揺らめく魔力が全身を覆っていく。


魔力は生命力を源にしているが、生命力の根源はなんなのか。


気力、活力、食事、精神力……様々な要素が絡んでいるが、一つ言えることは『食事で得た熱量』が絶対に関わっているということだ。


身体能力を大幅に向上させる身体強化・烈火は魔力消費量が特に激しい。


つまり、この状態を維持したまま食事をすれば、摂取した熱量は片っ端から消費されてしまうのだ。


ちなみに、この件は公表されていないけどサンドラ達と検証済みなので間違いない。


「リッド。一体、何をしているんだ?」


「摂取したカロリーを即座に消費する状態になっただけさ」


「……カロリー、消費?」


ヨハンは目を点にして首を傾げてしまった。


この世界では、食べ物のエネルギーを数値化するカロリーの概念はまだないから当然だろう。


「まぁ、今に分かるさ」


僕は目を細めると、ティンクとカペラが食べやすいように身を解してお皿に載せてくれた魚料理を手早く淡々と口に運び始める。


ヨハンはハッとすると、「ま、負けるものか」と食事のペースを上げていった。



「う、うっぷ。もうだめだ、一口も食べられない」


「残念だったね、ヨハン」


真っ青な顔で食卓に突っ伏す彼を横目に、僕は口元をテーブルナプキンで拭きながら涼しい顔で微笑み掛けた。


ヨハンの周囲には空になったお皿が沢山積み上げてあるが、僕の周囲には山のように積み上げられた大量のお皿が並べられている。


「一時間経ったぞ。そこまでだ」


アモンの呆れたような声が発せられると、懐中時計の蓋が閉まる音が無情にも食堂に響いた。


「まぁ、火を見るより明らかだな。朝食の大食い勝者はリッド・バルディアだ」


「ふふ、見応えがあったぞ」


「ヨハンもよく頑張っていたよ」


アモンの言葉に応じてセクメトスとタバルが拍手をはじめるが、クリスとエマは目を丸くしてこちらをまじまじと見つめていた。


「リッド様って、とんでもない大食漢だったんですね」


「人は見かけによらないと申しますが、あの体のどこにあれだけの食事が入ったのでしょうか」


「まぁ、ちょっとした工夫をね」


身体強化・烈火を発動しながら食事をしたことで、食事は摂取と同時にそのほとんどが目論見通りに消化されたようだ。


ただし、お腹は物理的にかなりぱんぱんになったけどね。


「でも、クリスとエマもあんなにお酒が飲めるんだ。似たようなものでしょ」


僕が尋ねると、二人は顔を見合わせた。


「そうですね。でも、私の場合は慣れもありますし、体格もありますからちょっと違うような……」


クリスが苦笑したその時、食卓に突っ伏していたヨハンが顔を上げた。


「うぅ、さすが僕の親友にして宿敵【ライバル】だ。悔しいけど負けを認めるよ。だけど次は負けないからな」


「はは、楽しみにしているよ」


こうして朝食を終えると、僕達はセクメトスとタバルの案内でトーガと猫人族領の国境地点に木炭車で移動することになった。


今日の予定は午前中に猫人族領を視察し、午後からはセクメトス達に獣化を教わる予定になっている。


出発時、木炭車と被牽引車【トレーラーハウス】の技術に猫人族達とタバルは興味津々だった。


セクメトスとヨハンは狐人族領訪問時に乗車していたことがあったから、彼等ほど驚愕はしていない。


でも、猫人族領にいずれ導入したいと不敵に笑っていた。


売り先が増えるのは嬉しいけど、他国に売るときは帝国の許可を得て上手にやらないといけない。


売れる時が来れば、という返答に留めておいた。


国境地点までは整備されている平坦な道のりで、車窓から見える景色はほとんど平原。


遠目に山岳地帯、その麓に森が見える程度だ。


セクメトスやタバル曰く、昔はこの辺りは森林地帯だったらしい。


度重なるトーガとの小競り合いによって周辺の木々は伐採され物資として用いられ、今のような平原になってしまったそうだ。


バルディアも三国との国境があるけど、森林は比較的多くて平原は少ない。


小競り合いがあんまりないからだろうけど、バルディアは三カ国の大陸経由による不法入国や密入国、他国の諜報員が後を絶たないことが問題になっている。


諜報員は騎士団員が取り締まれば解決できるけど、他国から貧困、差別、紛争など様々な理由で入ってくる密入国者の対応は解決が難しい。


お金を持たず、教育を受けていない密入国者を放置すれば日銭を稼ぐため、飢えをしのぐために彼等が起こす犯罪で治安は悪化してしまう。


特に昨今ではバルディアの発展著しい噂や獣人族が所属する騎士団を耳にして、『バルディアに行けば成功できる』や『バルディアは楽園だ』という願望を抱いてくることも多い。


夢を抱いて来てくれるのは嬉しいことなんだけどね。


不法入国や密入国を簡単に許してしまえば正当な手続きで入国してくれた人達をないがしろにしたことになるし、やった者勝ちになってしまう。


最悪の場合、不法入国や密入国を装った諜報員の可能性もある。


僕や父上がいつも頭を悩ませている問題の一つだ。


様々な会話をする中、セクメトスやタバルだったらそうした問題点をどう解決するかと、ふと思った僕は試しに聞いてみた。


「簡単な話だ。不法入国者は多大な罰金と今後の入国拒否。それと罰金を払えず、悪質性が高いと判断できた場合は極刑でもよかろう。密入国の場合、問答無用で極刑もしくは強制送還。当然、その費用は密入国者の国許に請求する。お前の国がしっかりしていないせいで我が国が迷惑を被ったと、たっぷりと色をつけてな」


「か、過激ですね」


セクメトスが力強く断言し、僕が青ざめているとタバルが咳払いをした。


「セクの言ったことを実行するかどうかはさておき、厳しい罰則を予め公表しておくことで多少の抑止力は期待できましょう。その後、大丈夫だと高を括って舐めた態度を取る者を見せしめに罰すればいいのです。そうすれば、良からぬ考えを持つ者はおのずと減りましょう」


「タバルの言うとおりだ。良からぬ考えを持つ者に対して重要なのは『あの国は本当にやるぞ』と、思わせて抑止することだからな」


「あ、あはは。参考にさせていただきます……」


さすが、あれくれ者の獣人族を束ねる獣王とその補佐だ。


セクメトスの目は本気だし、タバルも目を細めて口調こそ軽いけど、目の奥が全く笑っていなかった。


それから程なくして、僕達はトーガとの国境地点に到着する。






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