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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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闇夜の衝突3・魔法の弱点

「僕が援護する。そのまま突っ込んで影法師」


「人使いが荒いなぁ。まぁ、それが僕の役割だから別にいいけどね」


メモリーがヨハンとの間合いを詰めていく中、僕は木刀を八の字に振るって斬魔翔・乱撃で斬撃を次々に飛ばしていく。


「く……⁉」


ヨハンは立ち止まっていては不利と考えたらしく、その場を飛び退くように跳躍した。


獣化の獅子状態で上昇した身体能力を生かし、回避行動に徹するつもりのようだ。


「逃がさないよ」


追いかける影法師のメモリーは、修練場の大地に両手を置いた。


「逃げ道を無くせ。大地想見【だいちそうけん】」


メモリーが魔法を発動したその瞬間、修練場に地響きが轟き、一挙に地面が盛り上がって巨大な壁が出来てヨハンの逃げ道を防いでいく。


大地想見は土の属性魔法で術者の周囲にある土を操る魔法だ。


複雑な物を作り出すことは出来ないけど、簡易的な壁や穴を作ることはできる。


ただし、魔力消費量は結構大きい。


「な、なんだこれ⁉」


修練場に突如現れた土壁にさすがに面食らったらしく、ヨハンは目を丸くして立ち止まった。


「残念だけど、僕はリッドみたいに甘くないんだ。敵を捕縛しろ、蔓操縄縛【ばんそうじょうばく】」


メモリーが再び魔法を発動すると、周囲の地面から次々と太い蔓が生えてヨハンを捉えるべく伸びていく。


「こ、こんなものに捕まるか」


ヨハンを中心に魔波が吹き荒れた。


魔力出量を上げた彼は、回避行動に徹しながら襲い来る蔓を魔力付加を施した旋棍【トンファー】で必死に打ち払っているようだ。


周囲に現れた壁に逃げ道を限定されながらも、ヨハンは身体能力の高さを生かして逃げ延びている。


相変わらずメモリーには躊躇というか、容赦がなくて悪役っぽい。


『リッド、何をぼさっとしているんだい。今が好機でしょ、斬魔翔を命中させて勝負を決めるんだ』


脳裏に彼の声が響いてきた。


少し離れた場所にいるから念話を利用したんだろう。


『……本当にメモリーが味方で良かったよ』


『何を言っているんだい。僕ができることは君もできる。リッドが甘いだけさ』


淡々としたメモリーの返事にぞっとするも、僕は深呼吸をして防戦一方になっているヨハンを見据えた。


「これで終わりだね。斬魔翔・焔」


火の属性素質の魔力を込めた木刀を振るい、焔を纏った斬撃を逃げ道の無くしたヨハンに飛ばす。


通常よりも威力は低くしているし、獅子状態のヨハンであれば直撃しても怪我をすることはないはずだ。


「く、くっそぉおおお……⁉」


ヨハンは壁で逃げ道を塞がれ、メモリーが操る蔓に片腕を取られているから回避は不可能だ。


程なく斬魔翔・焔がヨハンに命中して修練場に真っ赤な爆煙が立ち上がり、爆音が轟いた。


『……終わったね』


影法師姿のメモリーが口元を緩め、少し離れた場所から念話を発してきた。


『そうだね、あれだけの爆発だ。直撃は間違いないだろうし……』


僕が念話で応じたその瞬間、電界で強い魔力を察知してハッとする。


気配を感じた場所を見やるとほぼ同時に、爆煙の中から小さな影がメモリーに向かって飛び出した。


「今のは危なかった。危なかったぞ」


「な、直撃を喰らったはずだ⁉」


メモリーが間合いを取ろうと飛び退くが間に合わない。


ヨハンは獅子化の身体能力を生かして懐に入り込み、右手の『鋭い爪』でメモリーの胸を貫いた。


「直撃したさ。魔力付加を施した旋棍がね」


ヨハンはにやりと笑った。


あの一瞬で持っていた旋棍を咄嗟に迫り来る斬魔翔・焔に投げ当てて相殺した、ということだろう。


恐るべき反射神経だ。


「なるほど、そういうことか。でも、魔力体である僕の胸を貫いたところで意味はないよ。むしろ、捕まったと思わないか」


「攻撃こそ最大の防御。虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」


メモリーが魔力体を変化させて捕縛させようとしたその時、ヨハンは残っていた左手の旋棍に魔力付加を施して強烈な打突を繰り出した。


「これが本気の獅子爪打掌【ししそうだしょう】だ。砕け散れ」


「な……⁉」


彼の旋棍がメモリーの体に触れた瞬間、鈍く重い衝撃音が修練場に轟き、魔波が突風となって吹き荒れる。


『ごめん、油断した』


メモリーの声が脳裏に響くと、影法師として実体化していた彼の体が打突の衝撃を受けた部分を中心に魔力の光となって煌めいて霧散していく。


すると間もなく、大量の魔力が引っ張られるようにメモリーに供給されていき、僕は「ぐぅ……⁉」と呻き声を漏らし、木刀を杖にする形で片膝を突いてしまった。


ここまでメモリーが損傷するなんて、とんでもない破壊力だ。


「はぁ……はぁ……。あはは、思った通りだ」


肩で息をするヨハンから、勝ち誇った笑い声が聞こえてくる。


顔を上げて見やれば、魔力体のメモリーは体の半分が消し飛んでいた。


残り半分の魔力体はこちらにやってきて、再び影法師の形を成していく。


『リッド。ちょっと再生に時間がかかると思う』


『わかった。何とか時間を稼ぐよ』


「……何が思った通りなのかな」


脳裏に聞こえたメモリーの声に返事をすると、僕は立ち上がって木刀を構える。


ヨハンもこちらの動きに合わせるように左手の旋棍を前に出して構えた。


「影法師とやらは、武術と魔法をどちらもリッド同等に扱えるんだろ。でも、それだけの動きができる分、身体の生成には莫大な魔力が必要になるはずだ。なら、破壊力のある一撃で分身体が破壊されたら、その再生にも莫大な魔力が必要となる……違うかな」


「さて、ね。まぁ、仮に当たっていたとしても『はい、そうです』とは言えないでしょ」


僕は肩を竦めて頭を振ったが、彼の指摘はほぼ正解だ。


メモリーを実体化させる魔力支援体は発動自体に膨大な魔力を必要とし、支援体が損傷すればその分だけ術者である僕の魔力を使用して再生する。


魔力支援体のメモリーと視野、思考を共有した上で二対一という圧倒的な優位を生み出すが、その実メモリーの破壊が弱点でもある。


言うなれば一長一短な魔法とも言えるわけだ。


まぁ、それでも短所を補って余りある長所があるから、こうして使っているんだけどね。


実体化したメモリーを破壊できる威力の技を繰り出せる人物なんて限られているからだ。


正直、ヨハンの一撃がここまでとは思わなかった。


どうやら油断していたのはこちらだったらしい。


「それもそうだな。だが、僕はそう仮定して戦わせてもらう。こんな風にね」


「……⁉ 来させない、大地想見」


ヨハンは跳躍による突進で間合いを詰めてくるが、僕は咄嗟に土壁を正面に生成する。


メモリーの再生はまだ不完全だ。


彼との如何ともし難い身体能力差は、メモリーと連携して攻めていかないと対応が間に合わない。


ここは時間を稼ぐの一択だ。


修練場に重い衝撃音が響き、地響きが轟くと生成した土壁の中央に罅が入って瞬時に粉砕された。


壁が瓦解して土煙を巻き上げるなか、煙の中から二筋の青い光が見えた……ヨハンの瞳だ。


「これが全力を出すということなんだな。楽しい、楽しすぎるぞ。リッド」


「く……⁉ 喜んでくれたなら、何よりだよ」


間近に迫ってきたヨハンは左手の旋棍で僕を狙い、右手の鋭い爪で再生中のメモリーを狙って鋭く重い連撃を繰り出してくる。


メモリーの再生に魔力を持っていかれているせいか、烈火を使用していても体が重い。


でも、ここでメモリーが再び攻撃されて損傷すれば勝機がなくなってしまう。


僕は持てる力を総動員して防戦に徹する。


ヨハンの旋棍、爪撃、体術と僕の木刀、魔法、魔障壁が連続して激しく打つかり合い、闇夜の修練場にまるで雷鳴のような音が次々に轟いていく。


「どうやら、僕がさっき指摘したことは当たりのようだな。影法師を庇って防戦なんて、弱点ですと言っているようなものだぞ」


「そうかい。でも、君だって武器を片方なくして動きが単調になっているじゃないか」


「はは、それは少し違うぞ。僕が旋棍【これ】を使いだしたのはつい最近だからな」


「つい最近、だって」


旋棍と木刀が打つかり合って生じた衝撃によって、僕達は互いに飛び退く形となった。


ヨハンは構えながら白い八重歯を見せる。


「リッドの木刀と戦える武器は何かないかなって、父上に相談したら『旋棍』を教えてくれたんだよ」


「どうしてそんなことを?」


木刀を構えながら訝しむと、月明かりがヨハンの横顔を照らしていく。


神秘的かつ蠱惑的な雰囲気を醸し出す彼は、右手の先にある尖って煌めく爪を舌先で舐め「はは、だって」と噴き出した。


「本気の僕が爪で攻撃したら、木刀ごとリッドを切り裂いちゃうじゃないか……影法師のようにね」






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▽悪役モブ第二騎士団組織図

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― 新着の感想 ―
影法師って決まった形無いんだよな 攻撃振り切った隙付いて来た相手にカウンター気味に 服の影から攻撃とか相手の服の中の影で拘束とかやらかせたりするんだろうか?
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