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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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ルヴァの訓練

「あぁ、頭が痛い。こんなの初めてだわ」


「あはは……。清酒は強いお酒ですから、二日酔いというやつですね」


鼠人族の部族長であるルヴァは額に手を当て、眉を顰めている。


昨日の夜、清酒をグラスであんな飲み方するからだよ……とは思いつつも、さすがに直接言うわけにもいかず、僕は頬を掻きながら苦笑した。


今いるところは部族長屋敷の裏にある訓練場で、僕とルヴァ。


そして、第二騎士団特務機関情報局に所属する鼠人族の少女アリーナだ。


情報局の分隊長はサルビアだけど、彼女はバルディア騎士団における情報共有の要ともいえる存在で、ズベーラに連れてくることができない。


副隊長のシルビアは帝都のバルディア邸に在駐しているし、セルビアは父上やファラの傍に控えて通信手の役割をしている。


そのため、ズベーラ同行が可能な人員として『アリーナ』が選抜されたというわけだ。


彼女は三姉妹に勝るとも劣らない実力を持っているから、ルヴァの獣化訓練にも耐えてくれるだろう。


「ルヴァ様。今日は獣化訓練のご指導、ご鞭撻をよろしくお願いします」


「えぇ、約束だもの。ちゃんと教えてあげるわ」


アリーナが畏まって頭を下げると、ルヴァは頭痛による顰め面を破顔する。


でも、すぐに「あたた……」と額に手を当てた……今日、訓練しても大丈夫だろうか。


「ご無理はされないようお気をつけ下さい」


「そうさせてもらうわ」


彼女は肩を竦めると「ところで……」と切り出した。


「リッド殿は獣人族の獣化について、どこまで知っているのかしら」


「えっと、そうですね……」


僕は今まで自分の目で見た様々な獣化と、知識で得ていた獣化の情報をまとめるべく考えを巡らせた。


「……獣化は獣人族特有の種族魔法。主に身体能力の劇的な向上を目的とし、部族ごとに何かしら特徴があります。場合によっては体格にまで変化は及ぶ……ということぐらいでしょうか」


「さすが、よく調べているわね。概ね、そのとおりよ」


彼女は感嘆した様子で頷くと、咳払いをした。


「まだ少し頭が痛むし、折角ですから獣化の基本についてもう少し詳しく説明しましょうか」


「ありがとうございます。でも、よろしいんですか?」


「……? なにが?」


僕が問い掛けると、ルヴァはきょとんと小首を傾げる。


「いえ、獣化はズベーラにとって秘匿すべき種族魔法のはずです。他国に属する私に伝えることで、ルヴァ殿は国を裏切ることにはなりませんか」


秘匿情報を他国に与えることは、下手すれば国家反逆罪だ。


伝えたルヴァも罰せられるが、知り得た僕もただではすまない可能性がある。


今までの部族長とは『あくまで訓練』だったけど、『獣化の基本』を教わるとなれば少し話が変わる。


もちろん、獣化魔法の基礎知識を知れることには胸が躍っているけどね。


こちらの心配を余所に、ルヴァはあっけらかんと頭を振った。


「いいのよ。この件はセクメトスにも確認しているし、他の部族長からも獣化を教わっているんでしょ、いまさらよ。それに、狐人族との繋がりもあるんならいずれわかること……なら、恩として売った方がいいと考えたまでよ」


「わかりました。そういうことでしたら……」


獣王セクメトスの許可も得ている。


つまり、彼女から獣化の詳細を聞いても外交問題にはならない、ということだ。


僕は高鳴る鼓動を抑えきれず、ルヴァの目の前に身を乗り出し、満面の笑みで頷いた。


「遠慮なくその恩を買わせていただきます」


「え、えぇ。喜んでくれたようで何よりだわ。でも、リッド殿はそんなに獣化に興味があったの」


勢いと熱があり過ぎたのか、ルヴァが困惑した様子でたじろいだ。


あ、いけない。


つい、感情が先走り過ぎたか。


僕は誤魔化すように「あはは……」と頬を掻いた。


「すみません。私、魔法が大好きなんですよ。それこそ、立場がなければずっと研究したいぐらいに」


これは本音だ。


いまの立場に不満があるとか、そういうことではもちろんない。


ファラ、サンドラ、メモリーを始め、バルディアにいる皆と一緒に魔法を研究するのは楽しくて、いつも時間を忘れてしまうんだよね。


「へぇ、そうだったの。でも、そうした研究心がバルディア発展に繋がっているのかもしれないわね」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


照れ隠しではにかんでいると、アリーナが「リッド様の魔法好きは筋金入りですからね」と切り出した。


「サンドラ様も魔法研究の情熱は素晴らしいですが、リッド様は型破りな発想力でつ……」


「……⁉」


『通信魔法』と口走ろうとした気配を感じた僕は、最大魔力で身体強化を発動して地面を蹴った。


強風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がる中で僕はアリーナの口を正面から塞いだ。


「むぐぅ……⁉」


「え、私が型破りな発想力で『次々』とやらかして父上に怒られている、だって? あっはは、耳が痛い話だなぁ」


わざとらしく笑いながら、僕は『通信魔法の件は、言ったら駄目でしょ』とルヴァに悟られないよう間近で睨みを利かして目配せする。


「んぐんぐ……⁉」


アリーナはすぐに察してくれたようで何度も頷くが、背後からはルヴァの訝しむ視線が刺さってくる。


「貴方達、一体何をやってるの」


「いえいえ、アリーナが私のやらかしを話しそうだったので。恥ずかしくて、つい。ね、アリーナ」


「は、はい。バルディアでのリッド様は、私達とも気さくに話してくれるので。つい、あ、あっははは」


「……?」


僕達が互いに笑ってやり過ごそうとしていると、ルヴァは首を傾げながら「まぁ、いいわ」と肩を竦めた。


「それよりも、獣化について説明をはじめましょう。リッド殿とアリーナ、だったわね。二人は獣化の段階をどこまで知っているかしら」


彼女の問い掛けに、僕は「えっと……」と知識を巡らせる。


獣化の段階、か。以前、マルバスに狐人族は魔力量が多ければ多いほど、尻尾の数が増えると聞いたことがある。


同じように考えていたけど、熊人族や牛人族は段階に応じて体格が変化する様子もあったから、部族によって性質が多少違うのかもしれない。


一応、アリーナに視線を向けるが、彼女は小さく頭を振った。


うん、ここは正直に告げた方がいいだろう。


「正直、詳しくはわかりません。ただ、以前にエルバがバルディアにやってきたとき、一緒にいたマルバスから狐人族の獣化は魔力量次第で毛色や尻尾の数が変わるという話を聞きました」


「へぇ、マルバスがね」


興味深そうにルヴァが相槌を打ったけど、僕は構わず続けた。


「段階というのは、そういうことを指しているんだろうと思いますが、知っているのはここまでです。あとは手に入る書物や資料で調べられる程度でした」


獣化魔法の書物や資料といっても、詳細に記してあるものじゃない。


せいぜい、部族によって獣化時における姿が違う、とか、身体能力が大幅に向上するなど、ほとんど知っているような情報ばかりだった。


だからこそ、今回の各部族訪問に合わせて獣人族の獣化を教えてほしいと聞いて回っている。


「なるほど、わかったわ。でも、一つだけ言っておくわ」


彼女は意味深に告げると、真顔で凄む。


その瞬間、周囲の空気が張り詰めて、体にずんと魔圧がかかる。ルヴァが魔力を発したのだ。


「この件はバルディア家が、いえ、リッド殿が信用に値すると判断してお話します。当然、バルディア家以外では口外禁止。万が一、帝国内でただちに情報共有されるようなことがあれば、私達との間に二度と信頼関係は築かれない……そうお考えください、ね」


ルヴァは言い終えると、にこっと目を細めた。


会談の時もそうだったが、こうして間近で感じると小柄な体に秘める凄まじい魔力を実感する。


彼女は鼠人族を獣人族では一番非力と言っていた。


仮にそうだとしても、僕が知る人族、ダークエルフやエルフよりもよっぽど底知れない恐ろしさがある。


背筋にぞくりと寒気を感じつつも、僕はにこりと微笑んだ。






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