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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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ルヴァの洞察力と仮説

会談が終わって日が暮れると、鼠人族の部族長屋敷では立食式の懇親会が開催された。


もう、恒例だね。


木炭車でここまで来る途中の町並みは、領民に合わせた高さがやや低い建物が多かったけど、二階建ての部族長屋敷は、今までの屋敷と作りが似ていたのは少し意外だった。


部族長屋敷は外交の場としても使われることが多いだろうから、身長が多少高くても対応できる作りにしたのかもしれない。


懇親会の会場は今までの部族長屋敷の中では一番広い。そして、参加している豪族の数も一番多くてちょっと驚いた。


鼠人族の人達は身長が低いから、熊人族や牛人族との懇親会よりは圧迫感はない。


その分、挨拶にくる令嬢達も多いし、目線が近い子達ばかりだったから今まで一番、丁重にやり過ごすのが大変だった。


隣にいたアモンも同様だ。


あと、僕達との挨拶が終わると、僕の護衛を任されている騎士達のところにも令嬢達は集まっていた。


何でも身長が高くて程よい体格、加えて獣耳が生えていない目鼻立ちがはっきりしている帝国人は、鼠人族にはとても魅力的に見えるそうだ。


『色仕掛けの可能性もあるから、公務としてズベーラを訪れる間は獣人族に手を出したら絶対駄目だよ。もし、そんなことになったら最低でも降格。最悪バルディア騎士団除隊だからね』


一応、バルディアからズベーラに入る騎士達には、僕と父上から固く言いつけてあるから大丈夫だと思うけどね。


それとなく騎士達に微笑み掛けると、鼻の下を伸ばしていた一部の騎士が真っ青になって『わかっております』と言わんばかりに小刻みに何度も頷いた。


やれやれ、自分のことだけでも大変だというのに。


気苦労が絶えないよ。


でも、驚くべきことはまだある。


会場で豪族達の挨拶が大体落ち着くと、僕は一息つきながら様々な料理が置かれた食卓を見やった。


「ねぇ、アモン」


「うん? どうした、リッド」


隣にいる彼に声を掛けると、僕は食卓に並べられている料理を見るように視線で促した。


「どうして、ここでもあんなに料理が極盛りなんだろう」


そう、食卓に並べられた彩り様々な料理の数々は熊人族、牛人族に勝るとも劣らない量が大皿に盛り付けてある。


ちなみに、鼠人族の料理は『肉まん』や『餃子』のように小麦の皮で具材を包んだもの。


甘辛いタレをつけた肉団子など、丸みを帯びて一口で食べやすいものが多い。


やっぱり、鼠人族だけに頬張りやすい料理が好きなのかな。


令息や令嬢達が食事を幸せそうに頬張る姿は、見ていて癒やされるぐらいに可愛い。


まぁ、メルの可愛さには勝てないけどね。


ファラの場合、そういう姿を僕に見せるのは恥ずかしいらしくて、食事を思いっきり頬張っている姿は見た記憶がない。


全てが落ち着いたら皆で一緒に鼠人族領を訪れ、食事をするのも楽しいだろうな。


そんな事を考えつつ会場を見渡してみるが、そんな体格が大きいというか、食べそうな人は見当たらない。


「あぁ、それは鼠人族は小柄だが、子供の生まれる数が部族で一番多いと言われているからじゃないかな」


「え、子供の生まれる数が部族で一番多いの……?」


僕は首を傾げつつ、改めて会場を見渡した。


確かに、言われてみれば令嬢や令息が多い気がする。


食卓を注意深く見ていると五、六人ぐらいの集まりが食事を一気に皿に取っていくので減り方が速いことに気が付いた。


「さぁ、いただこうか」


「えぇ、貴方。子供達の分もお願いしますね」


「任せておけ」


「父上、僕の分は多めでお願いします」


「あ、お兄様だけずるい。私も多めでお願いします」


「そうです。兄様だけはずるいです」


「わかった、わかった」


仲睦まじそうな夫婦、男の子一人と女の子二人の五人家族である。


彼等が手に持つ取り皿はそんなに大きくないけど、人数がいる分だけ減っていく。


しかも、思ったよりも一人一人が取る分が多いのだ。


会場に置かれた食卓に並ぶ鼠人族は、どこも同じような雰囲気で人だかりが出来ている。


小柄だから小食だと思い込んでいたけど、どうやらそういう訳でもないらしい。


もし、獣人族全体がこれだけの量を食べるとなったら、熊人族と牛人族の広大な平野を使っても国内自給率が足りないのは納得できるかも。


生産効率とか色んな要因があるから、一概には言えないけどね。


「でも、まさかねずみ算式に増えるわけじゃないよね」


「ねず……なんだって?」


僕が小声で発すると、アモンが首を捻った。


あまり耳慣れない言葉だったのかもしれない。


「あぁ、えっとね……」


僕は周囲を見渡して、アモンの頭に生えている獣耳に顔を寄せて小声で説明した。


「ねずみのつがいが子を12匹産むと、親と合わせて14匹になるでしょ。そして一ヶ月後、親と子ネズミが子を12匹ずつ産めば、最初の親と合わせて98匹になる。これを月に一度、親、子、孫、ひ孫が増えて毎月繰り返せば、十二ヶ月後には276億8257万4402匹となる。つまり、急激に数が増えることの例えだよ」


アモンは獣耳をぴくりとさせ「なるほど……」と頷いた。


「さすがにそういったことはないと思うよ。だけど、リッド……」


彼は肩を竦めて頭を振ると、真顔になって眉を顰めて耳打ちしてくる。


「その言葉は鼠人族領内で下手に使うと、侮辱になるかもしれない。使うのはよしたほうがいい」


「あ、うん。やっぱりそうだよね。僕も言ってから気付いたんだ」


僕は苦笑しながら頬を掻いた。


獣人族を動物や魔物に例えて呼ぶことは、基本的に侮辱行為としてみなされる。


友人同士、親しい間柄であればその限りではないみたいだけどね。


『ねずみ算式』というのは、さすがに軽率な発言だった。


会談が終わって気が抜けてたかな、気をつけよう。


何にしても、食糧問題が解決して鼠人族の人口が増えれば、それだけ取引量も増加する。


鼠人族の人達は小柄だけど、会話した印象だと頭の回転が速かった。


ルヴァと豪族達が打ち込み君を使いこなすのも速かったし、将来的には取引先、優秀な人材確保先として非常に優秀な部族になるかもしれない。


バルディアは急速な発展で事務作業が爆増しているし、父上や執事のガルンも『そろそろ、本当に優秀な事務員確保や教育を考えねばならんな……』と呟いていたぐらいだ。


領民の採用が第一優先だけど、バルディアが発展するということは、それだけ領民も忙しいのも事実。


優秀な人材確保は、バルディアが頭を悩ます問題になりつつあるんだよねぇ。


「懇親会、楽しんでくれているかしら」


凜とした声に振り向けば、グラスを片手にルヴァが立っていた。


それなりにお酒を呑んでいるのか、頬がほんのり赤くなっている。


「はい、楽しませてもらっております。豪族の皆様とも挨拶させていただきましたし、令嬢や令息とも何度かお話をさせていただきました」


にこりと微笑み返すと、彼女は「そう、楽しんでもらえているならよかったわ」とグラスに入った透明の液体を煽って一気に飲み干した。


多分、お酒だろうけど。


「それにしても、バルディアで生産としたというこのお酒。清酒だったかしら。とても強くて美味しいわ。セクメトスやギョウブが気に入る理由もわかるわね」


「気に入ってくださって何よりです」


僕は目を細めると、周囲を覗いながら彼女の耳に顔を寄せた。


「調べればわかることだからお伝えしますが、牛人族と熊人族での水田開発はつつがなく進みました。清酒の原材料はお米です。近い将来、ズベーラ産の清酒が飲める日が来ると思いますよ」


「……そう。それは楽しみだわ」


ルヴァは嬉しそうに目を細めると、会場で豪族達相手に営業をしているクリスとエマを見やった。


「それにしても、リッド殿は不思議な方ね」


「何がですか?」


「貴族や商人に至るまで大多数の人族は、エルフや獣人といった他種族を重用しないわ。利用することはあってもね。人族は、自らの部族より優れた種族はいないと信じているからよ。もちろん、他部族にもいえることだけど」


彼女は肩を竦めると、目付きを鋭くして見据えてきた。


心なしか、その瞳は据わっているような気がする。


「でも、貴方はそうした考えを全く持っていない。それだけでなく、性別や身分すらも気にせず、能力と人柄だけを重視している。型破りと呼ばれる所以でしょうけど、一般的、常識と照らし合わせれば合わせるほど、どうしても解せないわ」


「あ、あはは。お褒めに与り光栄です。ですが、父と母の教育の賜ですよ」


誤魔化すように頬を掻くが、彼女は真顔のまま詰め寄ってくる。


「教育、ねぇ。でも、バルディアで他種族が重用されたのはここ最近よ。両親の教育というのなら、もっと前からバルディアでは他種族が採用されたという話ぐらいあるはず。だけど、そんな話は聞こえてこなかった。つまり、両親の影響ではなく、リッド殿が影響を与えたと考えるべき。私はそう思うわ」


「えっと。何が仰りたいんでしょうか?」


「私は弁と頭は回るけど、純粋な力は部族長達の中で一番弱い。だからこそ相手の『表情』、『仕草』、『言葉』という身の振り方も一つの情報として捉えるよう意識しているの。少し話せば、その人の持つ『色』というものがおおよそわかるわ」


何やら、嫌な予感で動悸が激しくなってくる。


平静は装ってはいるものの、手と背中は汗でびっしょりだ。


ルヴァはじっと僕の顔を見つめ、おもむろに「リッド殿、貴方もしかして……」と切り出す。


次いで、彼女は僕の耳元に顔を寄せて小声で囁いた。


「私達が住む世界とは違う……どこか『別世界』からやってきたんじゃないの? もしくは生まれ変わり、とか?」


彼女の問い掛けに『どくん』と胸が激しい鼓動を打つ。


その波紋は、僕の身の内で熱となって一気に駆け巡った。






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