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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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鼠人族領

「リッド殿、よい会談であった」


「こちらこそです」


熊人族部族長屋敷の前、僕とカムイは別れの握手を行っていた。


会談の工程を全て終えたので、これから僕達一行は鼠人族領に向けて出発する。


ちなみに、前回の反省から今回は朝ご飯を少なくした。


もう、皆の前であんな醜態を見せるわけにはいかないからね。


「彫刻の件も任せてくれ。とびっきりの一品をレナルーテに送ると約束しよう」


「は、はい。ありがとうございます。ですが、彫刻の素材はほどほどでいいですからね」


樹齢五百年とか約一千年の素材で作られた自分の彫刻なんて、どんな顔して見ればいいかわからない。


苦笑しながら頬を掻くと、カムイは「わかった」と頷きながら僕達が移動に使っている木炭車の一団、後方をちらりと見やった。


彼の2mを超える身長があれば、きっと遠くまで見渡せることだろう。


「どうかされましたか?」


一応、目線を追ってみるが僕の視界からは特に何も見えない。


「いや、なんでもない」


カムイは頭を振るが、決まりが悪そうに咳払いをした。


「それと……獣化を教えたカルアだが、筋は良かった。我が同族として、大事にしてやってくれ」


「あ……⁉」


第二騎士団の子達は後方で出発準備を手伝っていたから、遠目で見ていたのか。


素直じゃないなぁ、僕は頷きながら「ふふ」と思わず笑みを溢した。


「畏まりました。本人にもそう伝えておきます」


「いや、わざわざ伝える必要はない」


カムイは真顔で答えると、「それよりも……」と話頭を転じた。


「次はルヴァのところだったな。まぁ、頑張ることだ」


「……? はい、ありがとうございます」


何だか含みのある言い方に首を傾げるが、カムイはそれ以上何も言わなかった。


豪族達との別れも済ますと、僕達一行は木炭車と被牽引車に乗り込み、熊人族領を後にした。


木彫の彫刻、カルアの出生、獣化訓練といろいろあったけど、とりあえず終わり良ければ全てよし。


最後は友好的な形で見送られたんだから、会談は成功と見て問題ないだろう。


僕達を乗せた木炭車は熊人族領の平野をみるみる過ぎていき、約一日と半日をかけて鼠人族領に入っていくのであった。



「お待ちしておりましたよ。リッド殿」


「ルヴァ殿、部族長会議以来ですね。おひさしぶりです」


鼠人族の部族長屋敷に到着すると、部族長ルヴァ・ガンダルシカと豪族達が僕達を出迎えてくれた。


ルヴァと握手を交わしながら周囲を見やると、ちょっと気持ちが和んでくる。


牛人族や熊人族のような、圧倒的身長差による威圧感がないからだろう。


鼠人族は成人男性で身長150~155。成人女性だと身長145~150ぐらいという獣人族でもっとも小柄な種族だそうだ。


顔も可愛らしく童顔な人達が多くて、この場にいるのはほとんどが大人なんだろうが、少年少女に見えなくもない。


本人達に言ったら怒られるから、絶対に言わないけど。


部族長屋敷までの道中で見た鼠人族の村や町にあった家屋も、彼等の身長に合わせて作られているため総じてちょっと小さかった。


きっと父上やダイナスあたりが扉を潜ろうとすれば、頭をどこかしらにぶつけることになるだろう。


「……? リッド殿、どうかしましたか。何やら、顔が緩んでいますよ」


「え、あぁ、申し訳ありません。牛人族と熊人族の領地から来たものですから、目線が楽でして」


僕が頬を掻くと、「あぁ、なるほど」とルヴァは相槌を打った。


「私達、鼠人族は部族内、いえ種族としてもドワーフ同等。もしくはそれに次ぐ小柄な種族ですからね。逆に牛人族、熊人族は大陸で尤も高身長となる種族。そう思われるのも、無理はありません」


「へぇ、ドワーフ同等なんですね。それは知りませんでした」


言われてみれば、バルディアにいるドワーフのエレンとアレックス。


二人も、ここに鼠人族の人達と同じぐらいの身長だった気がする。


ドワーフの国、ガルドランド。


レナルーテやズベーラと違って、バルディアと隣接していないから、多分、行くことはないだろう。


でも、機会があれば行ってみて、実際、鼠人族との差を比べてみたい気もする。


「さて、アモン、クリス殿、リッド殿。早速ですが、異文化交流の準備が整っています。まずは、そちらにご案内をしましょう」


「あはは。やっぱり、そうなるんですね」


「ここまでくると、もう慣れてきたよ」


僕とアモンは顔を見合わせ、肩を竦めた。


おそらく、これはもう全ての領地で行われるんだろう。


でも、一人だけ恐る恐る挙手をする人物がいた、クリスだ。


「あ、あの、聞き間違いだと思うんですが、私もなんですか?」


「えぇ、そうです。熊人族でクリス殿も衣装を着たと伺っておりますから」


「いや、ですが……」


クリスが何とか断ろうと切り出すと、ルヴァがふっと笑った。


その瞬間、パチンと静電気のような音に加え、何やらルヴァの背後から黒いオーラが漂いはじめる。


場の空気が一瞬で重くなり、張り詰めた。


「……高身長かつ長く細い足をもち、揃いも揃って大人びた綺麗な顔立ち。鼠人族であれば知れば誰もが羨むであろう種族エルフ。私も何度、憧れたことかしら」


ルヴァは笑顔で淡々と流暢に語るが、何だか私怨というか。


背筋が寒くなるような、気配がある。彼女はクリスの前に足を進めながら続けた。


「それも貴女のような方に我が部族の衣装を着ていただける機会に恵まれるなんて、なかなかありません。クリスティ商会とズベーラが手を取り合っていくためにも、この文化交流は必ず、絶対、行わなければならない。そうは、思いませんか」


「そ、そうですね。畏まりました。では、お言葉に甘えさせていただきます……」


クリスは下手に抵抗すると大変なことになりかねないと察したらしく、頷いて肩をがっくり落とした。


「話が通じる方で良かったです。では、改めて皆様を部屋にご案内しましょう。こちらへどうぞ」


ルヴァと豪族が先導するように歩き出すなか、僕は項垂れるクリスの背中をぽんぽんと優しく叩くと微笑み掛けた。


「ようこそ、こちら側へ」


「ようこそ……じゃ、ありませんよ」


クリスは深いため息を吐くと、額に手を添えてやれやれと頭を振った。


ふふ、他人が人に振り回されている様子を見るのは、親近感が湧いてちょっと嬉しい。


普段、振り回されているせいか、余計にね。


それにしてもと、ルヴァや豪族と思われる女性達の服装を見やるが、赤や白を基調としつつも細かい刺繍が施されていて気品がある。


でも、可愛らしいリボンや上着やスカートの袖にフリフリもあって、本当に可愛らしい作りだ。


帝国様式のドレスに近い雰囲気はあるけど、それでも鼠人族の服の方が可愛らしい印象を受ける。


「ね、クリス」


「……? どうしました」


呼びかけると『同時に耳を貸して』という仕草をすると、彼女はすっと耳を寄せてきた。


「あの服さ、帝国やレナルーテの令嬢達に上手く売り込んだら、結構いけそうと思わない? 帝国式と作りが似ているし、レナルーテも帝国式ドレスが人気なんでしょ」


「言われてみれば、確かにそうですね。後は服の作りや着方の問題がありますが……」


クリスはそう呟くとハッとした。


目と顔付きが一瞬で商人のそれとなる。


すでに彼女の頭の中では、売れそうな顧客リストの照会が始まっているのだろう。


「なるほど、これは商機ですね。それもとてつもなく、大きな商機の香りがしますよ。エマ、衣装を着られるこの機会、徹底的に利用するわ。着替える時、一緒に来て」


「はい、畏まりました」


エマが元気に返事をすると、クリスはちらりとティンクを見やった。


「リッド様、よりよい意見を得るため、ティンク様にもご協力をお願いしてもよろしいでしょうか」


「え……? う、うん。それは構わないけど」


「ありがとうございます。では、ティンク様も私と一緒にお願いします」


「は、はぁ。わかりました」


首を傾げるティンクの手を取ると、クリスは「ルヴァ様、すこしお伺いしたいことがあるんですが……」と先を歩く彼女の元に走って行った。


その後を、エマが追っていく。


相変わらず、商魂たくましいなぁ。


「……ところで、カペラ」


「はい、なんでしょうか」


咳払いをすると、傍に控えていた彼がすっと横にやってきた。


「あの服、バルディアにいる母上とファラ達にお土産として送っておいてもらえるかな」


「あ、それなら、私からということでティス殿とシトリーにも送ってくれ」


僕の言葉を聞くなり、アモンもさっと手を挙げた。


「畏まりました。では、そのように手配しておきます」


カペラはすっと会釈したが、いつも無表情な彼の顔が少し微笑んでいたような気がした。






リッド君の活躍が少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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▽565話時点 相関図

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▽悪役モブ第二騎士団組織図

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― 新着の感想 ―
ここ最近のズベーラの各部族の技術的な能力の高さや多彩な文化、豊穣な土地をみていると彼らの『強さこそが全て』、の考え方がかなり人的資源の無駄遣いになっており国家的成長の妨げになっている事が分かりますね。…
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