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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第八章

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『あいつ』と家族

「やっぱり、『あいつ』が見えたんですね」


親しみを込めた『あいつ』という言葉。


間違いなく、クロスのことだろう。


「そう、だね。これで僕は二度目かな。ティンクは何度もあるの?」


「いえ、今日が初めてです。でも、何だか、あいつがいつも近くにいる気はしていたんですよね」


彼女はやれやれと肩を竦めるが、その口ぶりはどこか嬉しそうだ。


「リッド。それにティンク殿。二人とも一体、何の話をしているんだい?」


僕達の会話にアモンが首を傾げた。


「いや、何でもないよ。アモンは将来、優しい旦那さんになるだろうなって思ってね」


「そうですね。間違いありません」


「え、えっと。それはどういう意味だろうか……?」


さすがにクロスが守護霊となってアモンの背後に憑いている、とは言えない。


誤魔化すように僕とティンクが目を合わせて頷くと、アモンはますます困惑していた。


豪族達の和気あいあいとしたざわめきが収まらないなか、突然、一際大きな笑い声が轟く。


びくりとして見やれば、カムイが額に手を当てながら笑っていた。


「型破りな風雲児は妻馬鹿、か。実に面白い」


「あはは、そうですか? そう思っていただけるなら、もう好きに呼んで下さって構いませんよ」


ここまで盛り上がってしまっては、もうどうしようもない。


半ば諦めで頬を掻きながら苦笑すると、カムイは「よかろう」と頷いた。


「バルディアに我らの職人を派遣する件、承った。現地においても、素晴らしい逸品を作ると約束しよう」


「本当ですか。ありがとうございます」


お礼を告げると、僕は軽く頭を下げた。


条件を何か言われると思ったけど、どうやらそうした雰囲気はないみたいだ。


何にしても、当初の目的は達せられた。


このまま、誤解を少し解いておこう。


「あの、それで出来上がった彫刻なんですが、実はレナルーテにいる妻の家族に送ろうと思っているんです」


「ほう。ということは、我らの彫刻がレナルーテの王族に献上されるということだな」


和やかだったカムイの目の色が、為政者のものに変わった。


水田開発が予定どおりに進めば、レナルーテと熊人族の間には農業を介して繋がりが出来る。


そうなればこの一件は、彼等にとってもレナルーテと友好を深める機会になり得るだろう。


僕の目的はエルティア母様がファラを想う気持ちが、少しでも満たされればというもの。


でも、熊人族にとっても自分達を売り込む機会となれば『利』が生まれ、やる気に繋がるはずだ。


「はい。送るのはバルディアの名になりますが、作製してくださったのは熊人族の皆様であることを必ずお伝えさせていただきます」


含みのある言い方をすると、豪族達からどよめきが起きた。


バルディアの名で送るが、作成は熊人族と必ず伝える。


つまり、彫刻が気に入ってもらえれば、熊人族とレナルーテ王族の友好関係を確実に深めることができるというわけだ。


レナルーテ王国とズベーラの間には帝国とバルストがあるから、中々、友好関係を深められる機会がない。


でも、今回の一件を通せば、他部族よりも先んじて縁を得られる。


彼等にとっても、悪い話にはならないはずだ。


僕はあえて視線をカムイから彫刻に移した。


「ですから、こちらにある逸品同様、魂の籠もった作品をお願いしたく存じます」


「よかろう。では、材料は全て熊人族領から持ち出しておく。それから、リッド殿の彫刻をもう一体同じ物を作ろう」


「え、僕の彫刻をもう一体ですか?」


首を傾げると、カムイはこくりと頷いた。


「レナルーテの王族に送るのであろう。ならば、帝国とレナルーテを結ぶ象徴となったリッド殿とファラ殿の彫刻は二体一対とすべきだ」


「あぁ……そう、ですね」


彼の指摘、おそらく筋は通っている。


通っているけど、ファラの彫刻と合わせて僕自身の彫刻を僕名義で献上するということだ。


なんだかすっごいナルシストというか、自己陶酔している痛い人のようにも感じられる。


ま、まぁ、エリアス陛下もエルティア母様も為政者だし、その辺の意図は察してくれるだろう。


今度会った時、とってもいじられそうだけど。


「では、職人の皆様と彫刻の輸送はクリスティ商会が責任を持って請け負います」


僕が相槌を打って間もなく、クリスが商売人の目をして此処ぞばかりに前に出る。


熊人族、牛人族、狸人族、バルディアを経由してレナルーテまで輸送するとなれば、各領地と関係を持ち、木炭車も使用できるクリスティ商会が一番確実だろう。


あと、多分、各領地をまたいで輸送したという実績もほしいんだろうな。


そうすれば、ズベーラ国内でもクリスティ商会の凄さ、ある種の『異質』な部分が伝わるだろう。


大陸を見渡してみてもズベーラ、バルスト、帝国、レナルーテを渡り歩ける販路を持つ商会なんてほぼいない。


というか、各国の距離がありすぎて普通は無理だ。


それを可能にしているのが、バルディアという後ろ盾と木炭車という仕組み。


そして、言わずと知れたクリスの手腕の為せる技だ。


「うむ。では、その件も含め、そろそろ会談を始めよう」


「そうですね。承知しました」


僕が頷くと、カムイは先導するように歩き始めた。


まぁ、牛人族領で重要な議題はほとんど終わっている。


ここでの会談は、内容の確認と詳細を詰めるぐらいになるだろう。


終わり次第、水田開発候補地を見て回り、それも終われば、いよいよカムイとの獣化訓練だ。


今のところ、外遊は全て順調に進んでいる。


細かいところに目を向ければ、当初と違った動きをしないといけないところもあった。


だけど、想定外というほど大きな問題にはなっていない。


カムイとも結構良い感じに友好が築けているし、熊人族領も無事に出発できるだろう。


獣化訓練には、第二騎士団の熊人族カルアに参加してもらう予定だ。


彼は他の子達と比べてバルディアに来た頃から礼儀正しいところもあるし、カムイの前でも失礼のない立ち振る舞いをしてくれるはず。


彫刻の一件から、愛妻家を超えた妻馬鹿という評判を得たのは予想外だったけどね。


でも、これも上手くいけばエルティア母様の溜飲を下げることにも繋がるし、レナルーテとの親交を深める機会にもなる。


災い転じて福と成すではないけど、何事も好転していて幸先がいい。


この調子で会談、水田開発候補地巡り、獣化訓練と全部無事に終わるだろう。


僕は、心からそう考えていた。



「カルア。貴様がバルディアに流れ着いたと、噂では聞いていた。しかし、よくもぬけぬけと私の前に顔を出し、あまつさえ獣化を習おうとは。相変わらず、面の皮が厚いようだな」


「カムイ様も自分の意に従わない身内には、相変わらず短気なご様子で。外面は随分とよろしいようですね」


カムイとカルア。


二人の間に流れる殺伐とした雰囲気。


そして、二人が発する殺意の籠もった魔波が吹き荒れている。


まるで、殺し合いがはじまる直前。


もしくは戦場のような息苦しさと圧があった。


熊人族部族長屋敷から少し離れた草原には僕、カムイ、カルアの三人しかいない。


「ど、どうしてこんなことに……」


僕は二人のただならぬ様子に唖然としていた。


会談、水田開発候補地巡りは無事に終わったのに。


獣化訓練を行うため、この草原に移動中は和やか雰囲気で三人でさしあたりのない会話もしていた。


それなのに、二人が立ち会った瞬間、気配が殺伐としたものに一転したのだ。


二人とも、ついさっきまで平然としていたのに。


僕は、カルアからは何も聞かされていない。


一部の豪族が彼の顔を見て目を丸くしたり、瞬いたり、ともかく驚きを隠せない様子だった。


気になってはいたけど、必要な事柄なら彼から話してくれるだろうと思って、あえて尋ねなかったのだ。


カムイに鬼の形相で睨まれても、カルアは平然として目を細めた。


「それと、面の皮が厚いの血筋かもしれませんよ……元お父上殿」


「ぬかすな、小童」


「えぇ⁉」


カルアの『元お父上殿』の言葉に、僕は驚愕して耳を疑ったのは言うまでもない。


一体全体、二人の間に、過去にどんな因縁があったというのだろうか。


というか、君達って親子だったのか。


だったらカルアもカムイも、もっと早くそれを教えてよ……。






リッド君の活躍が少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

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挿絵(By みてみん)

▽565話時点 相関図

挿絵(By みてみん)

▽悪役モブ第二騎士団組織図

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ここに来て熊人族の株が爆上がりなのですが・・・。
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