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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第七章

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リッドの憂鬱2

「あら、万が一にリッドが負けた場合の配慮じゃない。私の子とバルディア家が繋がれば、周囲に与える影響は少ないでしょ。最悪の事態は常に想定して動くべきじゃないかしら」


「ま、まぁ、それは一理あるかもしれないけど……」


仮に僕がヨハンに敗北したとしても、狐人族であるラファの子と縁組みとなれば政治的な影響は少なくて済むかもしれない。


僕が言い淀むと、「ちょ、ちょっと待ってください」とティスの声が轟いた。


「最悪の事態に備えるというなら、私の夫となるアモン様が次期獣王となるべきです。そ、そして、私達の子がリッド兄様とファラ姉様の子と縁組みするのが筋でしょう。そうですよね、アモン様」


「う、うん。そうだね」


何やら迫力のあるティスの眼差しを向けられ、アモンはたじたじと頷いた。


しかし、ラファは「あらあら」と笑い出す。


「貴女は養女とはいえ、バルディア家の娘でしょ。外聞的によろしくないはずよ」


「う……」


ティスが言い淀むと、「いいえ」とティンクが頭を振って目を細めた。


「通常であればそうでしょうが、最悪の事態が起きたと仮定。影響を極力抑えるとなれば、話は別かと存じます。すでにバルディア家とグランドーク家は縁を結んでいるにも拘わらず、ラファ様とより近くなれば、むしろ周囲からいらぬ憶測を呼びかねないかと」


「あら、言うじゃないの」


「いえいえ。全ては、バルディア家とグランドーク家の事を考えてのことでございます」


ラファとティンクが視線を交える中、「あ、あの……」とシトリーが挙手をした。


「最悪の事態というなら、私が嫁ぐヨハン様が次期獣王になれば外聞的にも影響力は少ないはずです」


何故か、ラファ、ティス、ティンク、シトリー達が視線を交え、ただならぬ雰囲気を醸し出している。彼女達を横目に、ダイナスがにやりと口元を緩めた。


「良かったですな、リッド様。万が一、ヨハン殿に負けたとしても彼女達が挽回してくれそうですぞ」


「いや、そういう問題じゃないでしょ」


僕は呆れ顔で頭を振ると、一転して真剣な眼差しを彼に返した。


「そもそも、やるからには負けるつもりもないからね」


そう告げた瞬間、来賓室の扉が勢いよく開かれた。


「やったな、リッド」


「うわぁ⁉」


突然の激しい音にびっくりして何事かと振り返れば、そこには満面の笑みを浮かべたヨハンが立っていた。


彼の隣では、外の扉を警護していた竜戦士達が戸惑っている。


「ヨ、ヨハン様。いくら王子であっても、こちらは来賓室。このような入室はお控えくださいませ」


「はは、些末なことは気にするな。私とシトリーの婚約が公表されたのだぞ。つまり、遠縁ではあるが、リッドと私は親類になったということだ。近い年齢かつ友人が居る部屋に、畏まる必要はないだろう」


「い、いや、しかし……」


ヨハンは自信満々に答えるが、竜戦士達と室内の皆は困惑している。


バルディア家の養女となったティスがアモンと婚約。


そして、アモンの妹であるシトリーがヨハンと婚約したから遠縁であることは間違いない。


でも、来賓の警備を任されている戦士達からすれば、失礼があってはならないと気が気でないだろう。


戦士達の様子を意に介さず、ヨハンは足早にこちらにやってきた。


「これで、私とリッドの血が交わった子が将来生まれるな。今から楽しみだぞ」


「……何事かと思えばまたその話か」


あたふたしている戦士達と身構えるティンク達に目礼で言動を気にしていないことを伝えると、僕は小さくため息を吐いて肩を竦めて頭を振った。


「残念だけど、それは無理ですね」


「どうしてだ?」


「勿論、私がヨハン殿に勝つからですよ。そうなれば、その話はなくなりますから」


目を細めてそう告げると、彼はきょとんとしてから噴き出して笑い始めた。


「そうだな、確かリッドの言うとおりだ。でも、私は強いぞ」


ヨハンは不敵に笑うが、「お待ちください」とシトリーが声を上げて彼に勢いよく詰め寄った。


「リッドお兄様は、狐人族で最強と名高かった我が兄だった『エルバ・グランドーク』を倒したお方ですよ。ヨハン様にも自信があると存じますが、いくらなんでも入室の時から不躾が過ぎると存じます。将来の獣王になる、と仰るなら最低限の礼節はお守りくださいませ」


「わ、わかった。気をつけるよ」


「はい、よろしくお願いしますね」


捲し立てられたヨハンがたじたじと返事をすると、シトリーは相槌を打ってから「それと……」と微笑んだ。


「私はヨハン様の婚約者となりました。従いまして、今後も何かあればこのようにご指摘いたしたく存じますがよろしいでしょうか」


「う、うむ」


笑顔のシトリーから発せられる底知れない迫力に圧され、ヨハンはこくりと頷いている。


彼女はいつの間にあんなに度胸というか、肝っ玉がすわったのだろう。


でも、その言動や醸し出す雰囲気がどこかで感じたことがあるような気がするんだよな。


考えを巡らせながら二人のやり取りを横目で見ていると、突然と理解する。


あ、そうだ。


シトリーの怒った口調がファラや母上とそっくりなんだ。


どうやら、バルディアで過ごす日々は彼女に多大な影響を与えているらしい。


そもそも、彼女には文武に優れた才能はあったから『開花しつつある』と言った方が良いかも。


ヨハンがたじたじとしているのが余程珍しいのか、見やれば彼の近くにいる竜戦士達も呆気に取られているみたい。


「では、改めてよろしくお願いします、ヨハン様」


「あぁ。でも、やっぱり、シトリーは凄いな。その迫力、母上と似たようなものを感じたよ」


「あら、本当ですか。私にとっては褒め言葉ですね。ありがとうございます」


シトリーは微笑んで会釈すると、彼は決まりが悪そうな顔で頬を掻いた。


次いで、ゆっくりと視線をこちらに向けて「さて……」と切り出した。


「リッドに一つ聞きたいんだが、エルバにはどうやって勝ったんだ。彼方此方から伝え聞く限りでは、リッドが一人で倒したというものあれば、多勢に無勢で倒したという話も聞く。実際、どうなんだ」


おどけていたヨハンの雰囲気が急に真面目なものに変わる。


その目は真剣そのもので、目の奥にはセクメトスのような冷徹な光が感じられた。


室内に居た皆も雰囲気の変化を感じ取ったらしく、部屋の空気が急に張り詰めて重苦しいものになる。


それとなく深呼吸をすると、目を細めて微笑んだ。


「どれも事実であり、間違いですね」


「む、それはどういう意味だ」


訝しむヨハンに、僕は当時の状況を掻い摘まんで説明した。


当時、絶対に負けられない僕達だったが、兵力差の差があることから正面でのぶつかり合いができない。


そのため僕達は、起死回生の一手として奇襲を掛けた。


奇襲は成功し、僕の率いる部隊はエルバ本陣に辿り着く。


そこで僕達は死力を尽くしたと告げた。勿論、話せる範囲での内容である。


「……というわけでね。混乱する戦場の最中、僕とエルバだけで対峙した場面もあったし、此処に居るカペラを始め、騎士達の皆と対峙した場面もあったんだ。でも、これだけは言える。エルバに勝てたのは僕一人の力じゃない。皆で勝ち取ったのさ」


「ふむ。そういうことなら、やっぱり私が勝てる可能性も十分にあるということだな」


合点がいった様子で相槌を打ったヨハンは、にやりと口元を緩める。


その言動にシトリーが眉をぴくりとさせ、「ヨハン様?」と小首を傾げながら笑いかけるが、彼は笑顔のまま肩を竦めて頭を振った。


「シトリー、そう怖い顔をするな。『リッドが単身でエルバに勝った』となれば、さすがの私でも勝率は低いと言わざるを得ない。しかし、『リッドを含めた皆の力でエルバに勝った』ということであれば、リッドと一対一で立ち会う私にも十分勝てる見込みがある、ということさ」


「そ、それは……」


シトリーが言い淀むと、ヨハンはこちらに振り向いた。


「そういうことだろ、リッド」


「確かに、そういう見方もできるね」


エルバとの決着は僕と奴の一対一に近い状況で勝利しているが、皆の助力がなければ絶対に勝てなかった。


そして、僕があの戦いで引き出した『力』は使えないし、使うつもりもない。


力の代償に『寿命を縮める』という深刻な危険性がわかっているし、使用にはメモリーの協力が必要不可欠なんだけど、『もし、この力をもう一度使えば、リッドは死ぬかもしれない。二度とこの力は使っちゃ駄目だし、協力もしないからね』と彼から釘を刺されているからだ。


再びバルディアが滅びの憂き目に遭うような状況になれば、別だけどね。


「で、でも、ヨハン様だけがリッド兄様の実力がおおよそわかるのは、何だか不公平ではありませんか」


急に声を発したのはティスだ。


皆の視線が彼女に注がれる中、アモンが「どういうことだい」と優しく聞き返した。


「恐れながら申し上げますと、リッド兄様のお力は狭間砦の戦いもあって色んな情報が飛び交っています。勿論、情報の精査は必要ですが、何かしらの対策を講じることが可能でしょう。でも、ヨハン様の実力がどの程度のものか。それをこちらが知る方法はありませんから」


「なるほど。それも一理あるかもしれないな」


ヨハンは思案顔を浮かべるが、すぐに「よし、良いことを思いついたぞ」と満面の笑みを浮かべた。


「これから、私の実力を披露しようじゃないか」


「え……?」


突拍子も無い提案に唖然とするが、彼は意に介さずに僕の背後にいるであろう誰かに視線を向けた。


「相手は、貴殿が丁度良さそうだな」


「貴殿って……」


一体、誰のことを言っているんだろうか。


首を傾げながら振り返ると、そこには来賓室に用意されたお酒をいつの間にかにほとんど飲み尽くし、空瓶に囲まれながらも未だに酒盛りを続けている女性がいた。


彼女は注目を浴びていることに気付くと、くすりと笑って「あら、ごめんなさい」と発しながらグラスのお酒を呷った。


「お酒に夢中で聞いてなかったわ。何の話かしら」


「グランドーク家の長女にして、狐人族ではエルバに次ぐ実力者と言われたラファ・グランドーク。リッド達の前で、貴殿を相手に私の実力を少し披露しようじゃないか」


「えぇ⁉」


ヨハンの発言で室内に驚愕の声が轟くが、ラファは「へぇ、面白そうね」と不敵に笑うのであった。







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