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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第七章

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部族長達の挨拶

会議場の空気が一瞬で凍てつき、アモンの表情が険しくなる。


怒り、悲しさ、悔しさ、様々な感情が彼の中で駆け巡ったのだろう。


無論、僕もだ。


誰が好きこのんで、実父や兄と決別するものか。


家族で協力していければ、それに越したことなんてない。


でも、狐人族は、アモンは生きるため、領民を守るためにそうせざるを得なかったのだ。


僕やバルディアも大切な人を守るため、アモンと一緒に戦うしか道はなかった。


「おっと、怒るなよ。ご指導、ご鞭撻を頼まれたからな。優しい俺様が『挑発』について教えただけさ」


アステカは僕達の表情が険しくなったことを見ると、大袈裟に肩を竦めておどけた。


周囲を見渡せば、部族長達はため息を吐いたり、呆れ顔を浮かべたり、興味深そうにこちらのやり取りを見つめている。


この場を仕切る獣王セクメトスは何も言わない。


僕達を試しているのか、この場の会議はいつもこんな感じなのか。


何にしても、売られた喧嘩は買って問題なさそうだ。


僕が目配せすると、アモンは小さく頷きアステカを見据えて微笑んだ。


「なるほど。早速のご指導、ご鞭撻は誠に恐れ入ります。悪政を敷いた父や兄達と決別、勝利して得たこの椅子。勿論、座り心地は格別ですよ」


「へ、言うじゃねぇか」


アモンの答えに、アステカはご満悦な笑みを浮かべる。


見る限り、彼に追随して茶化してくる部族長はいない。


僕は咳払いしてこの場の耳目を集めると、アステカを横目に口火を切った。


「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂うという言葉がありますが、この場にいる皆様の様子を見る限りだと『尻馬に乗る』ような方々ではないようですね。安心しました」


そう告げると、セクメトスを始めとする数人の部族長が噴き出すように鼻を鳴らして笑った。


「おい、リッド・バルディア。言葉は慎めよ」


アステカが睨みを利かして凄んでくるが、僕は笑顔で肩を竦めておどけた。


「おや、これは異な事を仰いますね。私は貴殿のご指導、ご鞭撻の通りに挑発してみただけです。若輩者の戯れ言ですから、気にしないでください。あまり嘶いては馬脚が露わになりますよ、千軍万馬のアステカ殿」


「てめぇ……」


「来賓の私に向かって『てめぇ』はないでしょう。そもそも、先に仕掛けてきたのはそちらです」


僕達の出鼻を挫いて会議の主導権を握るつもりだったんだろうが、そうはさせない。


ここで言いくるめられたら僕達は部族長達に侮られ、この場における発言力、影響力、説得力が弱まってしまう。


一歩も引かずに視線を交えていると、セクメトスの豪快な笑い声が会議場に轟いた。


「さすがだ、リッド殿。エルバを倒し、型破りな風雲児と言われるだけのことはあるな。部族長が相手でも一歩も引かぬ胆力、恐れ入ったよ。アステカ、後もつかえている。貴殿の自己紹介はこれぐらいでいいだろう」


「……わかったよ」


アステカは舌打ちしてこちらを横目で見やると、「リッド、てめぇのこと。気に入ったぜ」と口元を緩めながら席に着いた。


「それはどうも」


僕が感情なく相槌を打つと、アステカの隣に座っていた鳥人族が静かに立った。


「改めて、鳥人族部族長ホルスト・パドグリーです。アモン殿とリッド殿とは、是非とも良い関係を築ければと考えております」


アステカの後ということもあって、丁寧かつ礼儀正しいホルストの言動はとても好感度が高い。


来賓室前での事が無ければ、である。


「ありがとうございます」


僕とアモンは笑顔で感じよく社交辞令的に会釈した。


ホルストの周囲に目を向けてみるがイビやイリアの姿は無い。


どうやら、この場には連れてきていないようだ。


彼がにこりとこちらに微笑んで席に着くと、「やれやれ。次は俺の番か」と気だるそうな声を発しながら兎人族の女性が立ち上がった。


彼女は黒いくせっ毛の長髪で、頭から黒い二つの尖った兎耳が生えている。


鋭い目付きの奥にある茶色の瞳は、陰蛇の目のようになっているようだ。


ぱっと見の服装は、前世の記憶にあるチャイナドレスのような作りに感じた。


腰部分から足下にかけて長い切れ目が入っているらしく、彼女の立ち上がる動作と共に足が見え隠れしている。


「俺は兎人族部族長ヴェネ・ノーモスだ。ちなみに、今まで部族長の中では俺が一番若かったんだぜ。だから、こうして世代交代が進むことは率直に嬉しく思ってる。まぁ、よろしく頼む」


ヴェネはそう言うと、背後に控えていた貫禄ある兎人族の男性に視線を向けた。


彼は彼女と同じ髪質の短い黒髪、頭から生えた黒の兎耳は横に垂れている。


細く鋭い茶色の目には、強かな光が垣間見えて歴戦の振る強者という感じだ。


服装は長砲【チャンパオ】だったか。


長袖で腰から足元まで切れ目のあるワンピースで、足には長ズボンを穿いているようだ。


彼は咳払いをして、その場で畏まって一礼する。


「兎人族前部族長シア・ノーモスだ。今は補佐役としてヴェネを支えている故、以後お見知りおきを」


シアは重くて低い声を淡々と発した。


ヴェネがゆっくり席に着くと、シアは何も言わず彼女の背後に控える。


「次は私の番ね」


打って変わって明るく勢いのある声が会場に響く。


見やれば、当初よりこちらを興味深そうに見つめ、にこにこ笑っていた女性がその場で立ち上がった。


彼女は黄色い髪を後でまとめ、大きく水色の目をしている。


服装はヴェネと似ているが、少し違う。


肩を出すことで魅せる色っぽさ、装飾品による気品、動きやすさを絶妙に調整した作りの服っぽい。


「私は猿人族部族長ジェティ・リストートよ。ところで、お姉さんは二人のことをリッドちゃんとアモンちゃんと呼ばせてもらってもいいかしら。立場的には問題ないと思うんだけど、どうかしら」


「え……?」


思いがけないお願いで、僕とアモンは思わず互いの顔を見やった。


ジェティの発言から程なく、数人の部族長からため息が聞こえてくる。


多分、彼女は普段からこんな感じなんだろう。


意図が分からず、ジェティの表情を見やると満面の笑みかつ期待に満ちた目でこちらを見つめていた。


敵意は全く感じないし、裏もなさそうではある。


その時、彼女の表情が脳裏でとある人物と合わさって唐突に理解した。


サンドラと同じ、ともかく面白おかしく楽しみたい系の人だ、と。


合点がいった僕は、頬を掻きながら苦笑した。


「えっと、このような公の場では流石に控えて頂きたく存じます」


「あら、残念ねぇ。でも、公の場では駄目だけど、それ以外の場所ならいいのね」


身を乗り出して目を輝かせるジェティに、僕は困惑しながら続けた。






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