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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第七章

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リッドと牢宮珠

訓練場から父上とサンドラの後ろを追いかけていくと、新屋敷の来賓室に辿り着く。


部屋に入ると、室内にはバルディアの錚々たる顔ぶれが集まっていた。


「おぉ、リッド様。お待ちしておりましたぞ」


「うん。待たせてごめんね」


好々爺らしく目を細めたのは、アスナの祖父で第二騎士団の指揮官を任せているカーティスだ。


部屋を見渡せば、彼と一緒にエレンとアレックスも机を囲むように座っていた。


皆がここに集まっている理由は、僕が狐人族領で対峙した相手こと、ガリエル・サンタスの件だ。


彼は『翡翠色の丸玉』による魔法もしくは魔力供給によって異様な変貌を遂げ、異質な力を得ていた。


僕が勝てた理由は、急遽得た力にガリエルが慣れていなかったことが大きいだろう。


でも、もしも彼が力の扱いに慣れていたら相当な苦戦を強いられたはずだ。


だからこそ、僕から報告を受けた父上も、危機感を持ってすぐに原因究明の指示をサンドラに出している。


入室した僕達が席に着くと、父上が「サンドラ、説明してくれ」と口火を切った。


「畏まりました。では、この度、リッド様が狐人族領で対峙したというガリエル・サンタスなる者が披露したという異質な力について、現状で分かっている見解を述べさせていただきます」


サンドラはそう言うと、同席していたエレン達とカーティスに目配せしてから真面目な顔を浮かべた。


「おそらく、力の源になったと思われる『翡翠色の丸玉』。こちらは牢宮珠【ろうきゅうじゅ】と呼ばれる宝玉。つまり、牢宮核【ダンジョンコア】を人工的に模したような物ではないかと推測いたします」


「牢宮珠、ダンジョンコア……」


聞き慣れない言葉に、僕は思わず復唱していた。


ダンジョンコアは、以前ルーベンスから少し話を聞いたことがあるけど、『牢宮珠』という宝玉は何も知らない。


首を捻っていると、「どうやら……」とカーティスが切り出した。


「リッド様は、牢宮【ダンジョン】をあまりご存じではないようですな。ライナー様、確認と共通認識の意味を含め、私から説明してもよろしいですかな」


「そうだな。カーティス殿、お願いできるか」


「畏まりました」


父上の許可を得ると、カーティスは咳払いをして僕に視線を向けた。


「リッド様、恐れながらダンジョンはどの程度知っておられますかな」


「えっと……」


僕は自分の知る牢宮についての知識を語っていく。


語ると言っても、ルーベンスから教わった知識ぐらいだけど。


この世界に現存する牢宮は生き物の一種。


もしくは、それに近いものと考えられているそうだ。


名前を付けるなら、魔力生物とでも言えば良いだろうか。


牢宮が魔力生物の一種という考えは、当たらずとも遠からずなのは間違いないと思う。


僕の身近に、シャドウクーガーの『クッキー』と自我を持つスライムこと『ビスケット』が居るからだ。


彼等の持つ高い知能、身体能力、魔法能力の源は『魔力』なんだろう。


牢宮は地中深くに存在する核が長い月日をかけ、多大な魔力を生成していく。


やがて一定の魔力が核に貯蔵されると、地上に出入り口を造る。


同時に牢宮核は貯蔵した魔力を源にして牢宮、魔物、様々な金銀財宝や物資を生み出すという。


そして、金銀財宝を得ようと入り込んだ人族や意図せず迷い込んだ生物を牢宮と魔物で殺し、その魔力を自らの餌とすることで牢宮核は更なる成長を目指すそうだ。


成長を続ける牢宮核を放っておくと、牢宮内にいた魔物が地上にも出現。


牢宮の出入り口周辺を自らの縄張りとしつつ、外界で獲物を探すようになるそうだ。


また、牢宮で発生する魔物は、牢宮核に貯蔵された魔力量と比例して強さが変わるらしい。


外界に出てきた魔物はその時点である程度の強さが予想され、放置すれば周辺の街や村に被害が及ぶ。


最悪、壊滅的な被害を受ける可能性もあるため、安全な国家と領地運営の視点から牢宮は基本的に駆除対象となっている。


駆除方法は、牢宮内に入り込み最奥にある牢宮核に損傷を与えて貯蔵された魔力を強制的に消費させるそうだ。


そうすることで、牢宮は数日をかけて規模が縮小。


牢宮核は地中深くに潜り、出入り口は数ヶ月から数年単位で消えてしまう。


破壊することもできるが、そんなことをすれば牢宮が崩れて生き埋めになるから現実的には難しいらしい。


時限爆弾のようなものがあれば、別だろうけど。


「……という感じかな。でも、僕自身はまだ牢宮に入ったことはないんだよね」


ルーベンスは、見習い騎士達の演習に牢宮を利用するとも言っていた。


例に漏れず、僕もその予定だったけど、『狭間砦の戦い』という実戦を既に経験している。


当分、僕が牢宮に足を踏み入れる機会は公にはないだろう。


まぁ、『個人的』に行く機会を狙っているのは内緒だ。


「なるほど、私の知る知識と相違ありませんな」


カーティスが相槌を打って周囲を見渡すと、室内にいる皆も頷いた。


「では、牢宮核についてご説明しましょう」


「うん、お願い」


僕が返事をすると、彼はサンドラやエレン達と一緒に牢宮核について教えてくれた。


牢宮核を武具で損傷を与えた時、その場で核に溜まった魔力が溢れ霧散する現象が起きるそうだ。


時折、それが結晶化することがあるらしい。


当然、核から溢れ出る魔力が結晶化するわけだから、多大な魔力を秘めているそうだ。


「それが、牢宮珠というんだね」


「はい。それに……」


エレンが急に目をうっとりさせ、手を合わせながら遠くを見つめ始めた。


「牢宮珠は、その見た目が美しいだけじゃありません。宝石としての希少価値があるだけでなく、多大な魔力を秘めているから武具加工でも引く手数多なんですよ」


「へ、へぇ。そんなに凄い宝石なんだ」


彼女は、一体どこを見つめているんだろうか。


ちょっとたじろぎつつ、それとなくアレックスを一瞥すると彼は笑みを浮かべて噴き出した。


「そうですね。もし、目の前にあったら俺も姉さんと同じ反応をすると思います。でも、リッド様の武具にも牢宮珠が使用したものがありますよ」


「え、そうなの」


首を傾げると、彼は目を細めて頷いた。


「狭間砦に出陣する時、魔力を吸収放出して伸縮する鎧をお渡ししたじゃありませんか。あれの魔合金と魔合生地の原料には、砕いて粉末状にした牢宮珠がふんだんに使われていますよ」


「え……」


アレックスの思いがけない返しに、僕は思わず呆気にとられてしまった。


変身魔法を使って体格が変わっても伸縮してくれるあの特殊な鎧は、今では僕にとって欠かせない装備になっているし、狐人族領に出向く時も当然持ち出している。


だけど、あんな伸縮する特殊な鎧だ。


作製には相当特殊な技術や原料が使われているとは思っていたけど、まさか牢宮珠が使われていたなんて考えもしなかった。


あれ、でも待って。


牢宮珠って、希少価値が高い宝石でもあるんでしょ。


じゃあ、粉末状にした牢宮珠がふんだんに使用したあの鎧って、相当な価値があるってことじゃないか。


「まぁ、そうですね」


僕の考えていたことを察したらしく、アレックスが頬を掻きながら苦笑した。


「お察しの通りです。あの鎧一つで、ちょっとした豪邸は建てられるでしょうし、一般市民なら節約さえすれば、一生働かなくても済むぐらいの価値はあるでしょうね」


「そ、そんなに⁉」


驚きのあまり目を見開くと、父上以外の皆から生暖かい眼差しを向けられた。


「リッド様、愛されてますよね」


「うん。愛されてるよね」


「うむ。大事にされている証拠ですな」


「あの鎧の価値に今まで気付いておられなかったなんて、私の教えもまだまだですね」


うんうんと頷くエレン、アレックス、カーティス。


サンドラだけは軽いため息を吐き、やれやれと肩を竦めていた。


気付くも何も、牢宮珠の存在を知らなかったんだから気付きようがないでしょ。


何とも言えないほんわかした空気が部屋の中に満ちていく中、父上が照れ隠しのように咳払いをして「まぁ……」と切り出した。


「どんなに大金を積んだところで、命は金で買えん。金を惜しんで、命が守れぬなど本末転倒だ。金如きでお前の命を守れるなら、安いものだと判断したまでのこと。お前は今まで通り、何も気にせずあの鎧を使えば良い。価値があると屋敷で飾っていても、それは鎧の本来の使い方ではないからな」


「ち、父上。すごく、格好良いです」


『金如き』と父上は言ったけど、実はバルディア家の家計は中々に逼迫している。


領地発展のため、色々な所に投資した資金がまだ回収しきれていないからだ。


バルディア家は懐中時計、木炭販売、様々な食品販売等々、クリスティ商会と協力して商売を手広くやってはいる。


だけど、手元に現金があるかというと、そうでもない。


貴族同士や一定規模を超える商会であれば、証書を用いた信用取引も行われる。


そして、僕達が大きな利幅を得られる相手は貴族がほとんど。


当然、物品を納品しないと、納金は行われない。


結果、投資と原材料の仕入ればかりにお金が飛んでいっている。


最近は少し改善されつつあるが、それでも余裕はあまりない。


そうした現状を知らないはずのない父上が、僕の命が守れるなら安いものだと言い切ったのだ。


感動せずにはいられず上目遣いで見つめていると、父上は気恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「話が大分逸れたようだな。サンドラ、話を戻してくれ」


「畏まりました」


彼女は会釈すると、「では……」と話頭を転じる。






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