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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第六章

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外伝・鳥人族の少女

とある領内、とある場所に人の立ち入りが固く禁止されている区域があった。


しかし、その禁止区域には莫大な金塊。またはそれ相応の財宝が眠っているという噂がまことしやかに囁かれ、ならず者の冒険者、一攫千金を狙って入り込む者が後を絶たないという。


だが、禁止区域の先に何があるのか。


どのような地形でどんな危険があるのか。


そもそも、何故に禁止区域に指定されているのか。


いずれの理由も知る者はいない。


何故なら禁止区域に足を踏み入れ、帰って来た者は、幼い子供から老人まで含めて誰もいないからである。


そしてその日、禁止区域の空を飛ぶ三つの影があった。


一つ目は、小柄な影。


二つ目は、小柄な影より、少し大きい影。


三つ目は、一人目の小柄な影にぶら下がったような大柄な影である。


以上の影は、禁止区域の深い木々に覆われた中心地にひっそりとそびえ建つ古びて不気味な屋敷の屋上へと降り立つのであった。



薄暗い部屋の中、鉄粉が漂うような匂いが鼻を突き、水の滴るような音と小さな金属音が断続的に響いている。


その部屋の中心には手術台。


その近くにある小さな机には、赤く染まった様々な道具が置かれ、台の上には『人だったらしきもの』が横たわっていた。


また、その手術台の横には背中に羽が生え、眼鏡をかけた優男が術衣、手袋、マスクをして立っている。


彼は淡々と手に持つメスや鋏を動かし、時折、興味深そうに唸っていた。


「研究中に申し訳ありません。入ってもよろしいでしょうか」


扉が丁寧に叩かれ、少女の声が薄暗い部屋の中に響く。


「その声はイビか。入れ」


男は作業の手を止めず、振り向きもせず、感情もなく、冷淡に答えた。


「失礼します」


彼女は部屋に入るなり、鼻を突く匂いと目に飛び込んできた光景に思わず顔を顰めるが、すぐに咳払いをして一礼する。


「ご命令の通り、狐人族領内でレモスとガリエルの監視。加えて、リッド・バルディアなる者の調査をして参りました」


「ふむ。それでどうだった」


相槌を打って返事はするが、男は作業の手を止めずに目もくれない。


しかし、イビは最大限の敬意を示すように頭を下げたままである。


「レモス、ガリエル。両名とも例の丸玉を使用したようです。ですが、レモスは適合できずにガリエル家の屋敷内にて爆散し、屋敷もろとも焼失しました」


「そうか。ならば、ガリエルも駄目だったか」


「いえ、彼は適合して変異に成功しました」


「ほう……」


男の手が初めて止まる。


彼は前のめりなっていた体を起こし、手に持っていた器具を鉄の容器上に置いた。


部屋の中に甲高い金属音が小さく響く。


「予想外の収穫だったな。それで、変異時とその後はどうだった」


相変わらず淡々としているが、振り向いた男の声には先程よりも感情が籠もっている。


「ガリエルは変異の際、足りない魔力を周囲の傭兵達を吸収することで補いました。その後、奇天烈な格好をした『ゼロ・レッド』と名乗るリッド・バルディアと交戦しますが、変異後間もないせいか、力を使いこなせず丸玉を破壊されて敗北。私とイリアで回収し、ここへ連れて参りました」


「よい判断だ」


イビの報告に男は満足そうに頷くと「ところで……」と切り出した。


「ガリエルが力を使いこなせていたとして、リッド・バルディアに勝てたと思うか」


「いえ、おそらくは無理だったかと存じます」


彼女は頭を振った。


「かの者はエルバとの戦いで魔力量が増え、実力も上がっていた模様でした。狐人族や狸人族が扱える『化け術』のような魔法で姿を変えることなく、ガリエルや傭兵達を救おうと丸玉を狙わなければ、もっと早く決着はついていたことでしょう」


「面白い。試作品の丸玉とはいえ、適合して変異までした者だ。それが敵わないほどの実力を、リッド・バルディアは有しているということか。なるほど、なるほど」


男は口元に手を当て、興味深そうに何度も頷いた。


その動作で彼の手袋に付いていた赤い液体が口元のマスクを赤黒く染めるが、気にする様子はない。


男はそのまま、視線をイビに向ける。


彼女は男の異様な顔を見て全身に悪寒が走るが、平静を装うように畏まって顔を伏せた。


「では、次の質問だ。リッド・バルディアの扱う属性魔法はどうだった」


問い掛けに答えようとするイビだが、『どうせなら、普通に君の歌声を聞いてみたいけどね』というリッドの言葉が脳裏をよぎり、すぐに言葉が出てこなかった。


「どうした。私の質問に答えられないのか」


口調こそ優しいが、男の声には恐ろしい圧があった。


イビの鼓動は一気に激しくなり、全身から汗が吹き出てくる。


「い、いえ、申し訳ありません。何とお伝えすれば良いかと、言葉に考えを巡らせておりました」


「では、教えてくれ」


「は、はい。リッド・バルディアがガリエルとの戦いで扱った属性魔法は、光と闇を除く全てです。エルバとの戦いで発動していた魔法も考えれば、全属性を扱える可能性は極めて高いと思われます」


「そうか、そうか。やはり、リッド・バルディアは全属性を扱える希有な存在で間違いないか。人族の特殊な個体か、突然変異体か。はたまた血筋が関係しているやもしれん。何にしても、私が探す存在の手掛かりになるやもしれんな」


男は目を細め、嬉しそうに口元を歪めていく。


彼から発せられる異様な雰囲気に、イビは顔を伏せ、小さく震えている。


その姿は、まるで外敵に怯える雛のようであるが、彼女は必死に「恐れながら、一つお伺いしたいことがございます」と切り出した。


「……なんだ?」


思考中に話しかけられたのが気に入らなかったのか、男は眉間に皺を寄せ、不快感を隠そうともしない。


それでも、イビは口を開いた。


「今回、狐人族領内で多くの豪族が『改易』されております。その豪族達の家族を含め、我等に裏からの支援を指示し、我が領内と招いたのは何故でございましょう」


「あぁ、そのことか。実験体の確保に決まっているだろう」


つまらなさそうにため息を吐くと、男は手術台の上に横たわっている『人であったらしきもの』を一瞥する。


「狐人族の実験体は、改易された豪族共から仕入れていたのだが、今回の件で今後は難しくなる。それ故、彼等自身に協力してもらおうと思ってね。それなりの衣食住は与えてやるから、言ってみればその駄賃だな」


「そうでしたか。思いのほか、豪族の家族には幼子と若い女性が多くおりました故、そちらは『生産用』に回した方がよろしいかと存じます。実験体は、主に元当主や年配者、次いで男共を使うのがよろしいかと」


イビの進言を聞いた男は「ふふ」と楽しげに表情を崩すと、彼女の傍に近寄って耳元で囁いた。


「相変わらず優しいな。もしや、同時期の兄妹を全てその手で掛けた罪滅ぼしか」


「……いえ、そうした方が、役に立つと考えたまででございます」


彼女が小さく頭を振ると、男は満足した様子で微笑んだ。


「よかろう、今の私は機嫌が良い。お前の進言を採用しようではないか」


「ありがとうございます。差し出がましい真似をしましたこと、お詫び致します」


イビが深く頭を下げると、男は首を捻った。


「ん? ところで、イリアはどうした」


「回収したガリエルが思いのほか負傷していたため、処置室に運ばせております」


「なんだと。何故、それを早く言わん」


そう言うと、男は部屋の扉に向かって歩き始めた。


「丸玉と適合して変異。その後、丸玉を排除されたのだ。通常とは違う変化が起きているかもしれぬ。それに、リッド・バルディアとの戦いで得た傷も気になるところだ。もしかすると、まだ魔力残滓があるかもしれん。いや、いっそのこと、より強力な丸玉を融合させる素材にするか」


男は部屋の扉を開けると、何かを思い出しように足が止まった。


「イビ、手術台の上にあるそれはもう用済みだ。処分しておけ」


「畏まりました」


彼女が一礼して間もなく、扉の閉まる音が聞こえ、足音が遠ざかっていく。


男の足音が聞こえなくなると、彼女は口元を抑えて咳き込んだ。


そして、手術台の上に横たわっているものを確認すると、人であったらしきものが見開いていた目を優しく手で閉じた。


「お姉ちゃんなのに、助けられなくてごめんな。ごめんな……」


イビは目を潤ませ嗚咽を漏らし、「ごめんな、ごめんな」と何度も呟く。


そのうちに『皆、お兄ちゃんのところにおいでよ』という声が脳裏をよぎった。


「……もう無理だぜ、アリア。あたしの手は、もうあの男と同じ色に染まってんだ」






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挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
えー怖 てかクソが多すぎる どうなってるのか獣人領 怖
バカだなぁイビなんとやら。 今この時点でも裏切って離反すれば、さらに増えるかもしれなかった犠牲者は減らせると言うのにw
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