計画強行
金色の夜明けによる資金強奪事件の報告が次々と届く中、僕とアモンは再び豪族達を部族長屋敷に集めて『狐人族再建五カ年計画』に変更をないことを伝えた。
レモスを始めとする豪族達は顔を顰め、「しかし、そうなると予算はどこから捻出するおつもりか」と声を荒らげる。
計画に反対する豪族達からすれば資金徴収ができなくなった時点で、僕とアモンが何かしら妥協すると踏んでいたはず。
当然、面白くはないだろうから当然の反応だ。
でも、僕は目を細めて微笑んだ。
「その点はご心配ありません。皆さんが『金色の夜明け』なる輩に奪われたという資金。早々に賊を退治して回収しますから。それより、明日から計画を発表して実行に移します」
「な、なんですと⁉」
豪族達にそう告げた翌日から、狐人族は大騒ぎになった。
『狐人族部族長アモン・グランドークの名において宣言する。狐人族再建のため、民の納税を今日この日より五年間免除とする』という案内が狐人族領内全域で発表。
同時に領内各地の点在する村と町に対し、衣食住を確約された工業団地に移住できる十代~三十代手前の若者を募集したのだ。
若者を送り出した村と街には人数や規模に応じた支援物資を確約するので、各地で若者が居なくなることの影響も可能な限り無いようにも配慮。
妻子や夫子がいた場合、同伴は勿論許可だ。
当初は狐人族領内に点在する生産拠点を使っていくつもりだったけど、バルディア領との距離、品質維持、技術教育、大量生産を効率的に行うことを考え新たな工業団地を設立することにした。
現存する生産拠点と新規の工業団地が連携すれば、領内の経済活性にも繋がっていくという利点もある。
アモンが部族長として案内した今回の宣言と募集の発表は、暗雲立ち込めていた狐人族の未来にようやく光が差したと多くの領民は喜んでくれたみたい。
でも、「新たな部族長はバルディアの言いなりだ」と否定的な意見も少なからずある。
狭間砦の戦いで亡くなったのはバルディアの騎士だけじゃない。
狐人族の戦士達も数多く亡くなっているから、彼等の家族や友人からすればバルディアを良く思わないのは当然だ。
どんなに論理的かつ合理的な利点があったとしても、人に感情がある以上、どうしても割り切れない部分はある。
それはしょうがないにしても遺恨を残さないため、今はとても重要な時期だ。
だからこそ、『金色の夜明け』という集団をあまり野放しにするわけにもいかなくなった。
当初の目的である首領のマーベラスを泳がせて敵方の尻尾を掴むという部分は、既にある程度は達せられているため、計画実行に合わせてアモンが発表したことがある。
『領内において金色の夜明けと名乗る盗賊団が一部の豪族を襲撃。領地運営に必要な資金を強奪した上、現在逃走中である。狐人族の未来を明るくするための必要資金を狙う卑劣な行為は断じて許されない。従って、盗賊団確保に繋がる有益な情報には懸賞金(取り返した資金の一割程度を予定)を設ける』
この告知の意図は何個かある。
一つ目は、『金色の夜明け』という集団が狐人族にある反バルディア感情の受け皿にさせないことだ。
領地運営に必要なのは領民の心を掴むこと。
そうでなければ、最悪あちこちで反政権組織が生まれてしまう可能性がある。
二つ目は、襲撃された豪族に対するそれとない批判だ。
自作自演だから、擁護するつもりはない。
聡い者には、『一部の豪族』という言葉で真意が伝わるだろう。
三つ目は、『金色の夜明け』が狐人族の未来に暗雲を呼び込む存在であるということを知ってもらう。
もしくはそう思ってもらうための戦略だ。
四つ目は、領民達からの情報提供を促すことに加え、金色の夜明け内と彼等に関係があるであろう豪族達の仲間割れを誘う罠だ。
狐人族領内全域にこうした告知を発表した後、間髪容れずに僕とアモンは襲撃された豪族の領地をわざと大々的に仰々しく検地していった。
勿論、彼等に恥を掻かせ、領民達の信頼を失わせるためである。
まぁ、そうでなくても前政権時に裏で私腹を肥やしていた豪族達だ。
金色の夜明けをあぶり出す目的も兼ねた検地によって、ラファが控えていた帳簿と数字の相違が次々発覚。
叩けば叩くほど埃が出てきて、検地を実施した後、そのままアモンの持つ部族長権限で豪族の屋敷に強制捜査を実施。
前政権時から行っていた多額の脱税を始め、様々な罪を曝いていった。
「一部の豪族達が私腹を肥やしていることは承知していたが、まさか此程とはね。部族長として恥ずかしい限りだよ」
アモンは強制捜査で立ち入った豪族屋敷にあった記録を調べ、愕然としてた。
それほどに、豪族の腐敗は凄まじかったのだ。
様々な罪が明るみとなった豪族は「このようなことは前政権時に誰でもやっておりました。今更、言われても困りますぞ」と開き直って誤魔化そうとする始末。
さすがの僕も呆れ果てたけど、アモンは額に青筋を走らせていた。
「前政権時に誰もが苦しかったことは百も承知している。しかし、我々がこの地にこなければ、貴殿はこの罪を告白することも、改めることもなかった。己の罪を正当化しようとするな」
アモンはそう一喝すると部族長として『改易』を豪族に命じ、一族の身分を剥奪、屋敷と財産を全て差し押さえるという判断を下す。
そして、領内全域にその処分を大々的に発表したのである。
これにはアモンを見くびっていた豪族達を瞬く間に戦慄させ、部族長としての資質を不安視していた領民を驚愕させる事件となった。
レモスを始めとする豪族達から「もっと寛大な処置をお願いします」という嘆願と処置に対する批判が届いたけど、僕とアモンは逆に『改易』を命じた豪族の罪を書き記した書類を返送。
書類の最後には「これのどこに情状酌量の余地があるのか、逆に知りたい」という文言を書き記して一蹴、厳しい検地を続行した。
「罪を全て告白するから寛大な処置をお願いしたい」という事を言い出す豪族もいたけど、アモンは険しい顔を浮かべて首を横に振った。
「私が部族長となった時、貴殿にも一度は手を差し伸べた。しかし、その手を取らなかったのは貴殿自身だ。今になって寛大な処置を求めても遅いし、示しもつかない。残念だ」
彼にそう告げられた豪族は諦め顔で項垂れていた。
アモンは本来とても優しいけど、今回ばかりはその優しさに蓋をしている。
ここで豪族達の汚職を見逃したり、寛大な処置を行えば彼の言うとおり示しが付かない上、今後も腐敗が起きやすくなってしまう。
狐人族再建のためには、避けて通れない道だ。
そして、今回の本丸ことサンタス家と金色の夜明けを追い詰めるべく、僕とアモンは豪族達の検地と処分を下していった。




