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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第六章

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荒れる会議、リッドの問い掛け

「と、まぁ、私の父上だったらそう告げるでしょうね」


僕がふっと表情を崩すと、レモスは青筋を走らせた。


「アモン様。まさか、このような無謀な政策を本当に行うつもりですか」


「あぁ、無論だ。言っただろう。この計画はバルディア家の知恵を借りて作り上げたものなんだ。狐人族を再建し、バルディアのような発展をするためには今までの運営方法から脱却しなくてはならない」


「し、しかし、領地を円滑に運営するため、先人が考えてきたものをいきなり止めるなど到底納得できません。皆もそうであろう」


レモスが資料を手に持って掲げて呼びかけると、豪族達が次々と賛同する声を上げていく。


まぁ、これも予想通りの反応だ。


領地運営を円滑にするため、というレモスの発言は事実だけど、間違いでもある。


狐人族で用いられている税の仕組みは、まず領内にあちこち点在する村々を部族長直属の使いとその土地を管理する豪族が訪れる。


そして、村の田畑と生産力の検地を行い年間の『租税』を村ごとに設定する。


『年貢』のようなものだけど、税はそれだけじゃない。


豪族達が任された土地を管理していくため、独自に設定した『人頭税』も村の民から徴収するという仕組みもある。


つまり、狐人族の民は『年貢』と『人頭税』という二つの税を払わなければならなかったわけだ。


年貢は部族長が一括管理し、格豪族の規模に応じて再分配するようになっている。


だけど、ここ数年は軍拡を推し進めるため、格豪族達に再分配される税は最低限になっていた。


結果、豪族達は困窮していくことになるが、グランドーク家の次男マルバス・グランドークによってとある解決策が提示されたのだ。


それが、豪族達が徴収する『人頭税』の大まかな引き上げである。


人頭税が引き上げられた当時、一部の民は強く反発したらしい。


でも、彼等は反逆者としてエルバやガレスの武力によって次々と弾圧され、見せしめに処刑されたそうだ。


そうした状況から狐人族の未来を憂い、同士達を集めて立ち上がったのがグレアス・グランドークだったらしいけど、彼の決起は失敗。


反発する力を失った狐人族の民に待っていたのは、さらに過酷になっていく税の徴収である。


人頭税が払えない民は捕縛され、男性であれば豪族が与えるわずかな食料で朝から晩まで働かされたという。


女子供であれば、エルバやマルバスを通じてバルストから国内外に売られていたそうだ。


マルバスの考えたこの仕組みを知った時、悪知恵が働くなと、思わず唸った部分がある。


『人頭税』によって豪族達が得た税収と民を国内外に売って得た収入について、グランドーク家はあまり手を付けないようにしていたことだ。


軍拡を推し進めることで、狐人族全体の経済は確実に悪化していたのは間違いない。


でも、民を弾圧し、生かさず殺さず搾り取れるだけ徴収したことで、税収は大幅に増加。


さらに、得た税収を部族長と豪族に集中させることで既得権益も強化。


結果、部族長と豪族達の生活だけは悪化以前と変わらず、もしくはそれ以上に豪華な生活が送れるようになっていたのだ。


これには利己的な豪族達は大喜びしたことだろう。


バルバロッサを始めとした一部の豪族は、『人頭税』の徴収を出来る限り押さえていたらしい。


でも、そうなると経済力の悪化は避けられず、豪族としての力は弱まり、どうしても狐人族内での影響力は下がる一方だったそうだ。


アモンは民を苦しめる負の連鎖に気付き、グレアス亡き後は仕組みを改善するための道を模索していた。


勿論、表立って反対すれば断罪される可能性も高いため、ひっそりとである。


やがて、彼の行動は『狭間砦の戦い』に繋がっていくわけだ。


「アモン様。これだけ反対の声を聞いても、まだ無謀な政策を行うつもりですか」


怒号を上げる豪族達を代表するようにレモスが身を乗り出し、勝ち誇ったように口元を緩める。


アモンが身を乗り出して言い返そうとしたけど、僕は彼の前に手を出して遮った。


「ところで、皆さん。領地が発展していることを示す客観的かつ誤魔化しようのない情報が二つあるのですが、何かご存じでしょうか」


「な、なんだ。藪から棒に。一体、何の関係がある」


「いいから、誰でも良いからお答えください。そうですね。もし答えられたなら、貴殿達の仰る通りに計画の練り直しを考えても良いですよ」


眉間に皺を寄せるレモスと豪族達だったけど、『計画の練り直しを考えても良い』という僕の発言で目の色が変わった。


「その言葉。嘘ではあるまいな」


「はい。バルディア家の名に誓いましょう」


レモスの念を押しに、僕は目を細めて微笑んだ。


「あ、でも、適当に言って正解では駄目ですよ。ちゃんとその理由も仰ってもらいます。ちなみに答えの一つ目は、この場にもあるものです。二つ目はこの場にありませんが、皆さん毎日何処かで目にしている可能性は高いでしょうね。さぁ、お考えください。時間はそうですね、今から五分にしましょう」


僕はそう言って胸から懐中時計を取り出して蓋を開けると、この場にいる誰もが確認できるように置いた。


すると間もなく、ガリエルが鼻を鳴らす。


「リッド殿、その答えには五分とかかりませんぞ。一つ目は強い軍隊、二つ目は資金でありましょう」


「なるほど。でも、それがどうして客観的かつ誤魔化しようがないのでしょうか」


「そのようなこともわかりませぬか。領地が発展していなければ、強い軍隊など持てませぬ。また、強い軍隊を維持するためには豊富な資金が必要不可欠。つまり、強い軍隊を持つことこそ誤魔化しようのない領地の発展を示し、客観的な情報となる。違いますかな」


ガリエルはドヤ顔で答え、豪族達のほとんどは同意するように頷いている。


僕は「おぉ」と感嘆した声を漏らすと、少しの間を置いて微笑んだ


「残念ながら違います」


「な、なんですと⁉ ならば、違うという理由をお教えいただきたい。そうでなければ、この場にいる誰もが納得できませぬぞ」


目を見開いたガリエルは、豪族達を見回し声を荒らげた。


「簡単なお話です。客観的というのは、第三者。つまり、他国から見た場合にもわかるということになります。ガリエル殿の仰る通り、確かに軍隊というのは一つの目安となりましょう。しかし、国が自らの軍事力を全て他国に開示するということがあり得るでしょうか」


「そ、それは……」


「そして、二つ目に提示された資金力ですが、これも軍隊の規模が分かって初めて計算できます。軍隊の数を誤魔化されれば、その時点で計算が狂ってしまうでしょう。従いまして、私の求めた『誤魔化しようのない客観的な情報』になり得ません」


「ぐ、ぐぬぬぬ」


ガリエルは顔を真っ赤にしながら唇を噛みしめ、椅子に深く座って腕を組んだ。


どうやら、僕が求める答えではないことは理解してくれたらしい。


その後、レモスを始めとして豪族達から色々と答えは出たけど、どれも正解にはならなかった。


やがて懐中時計の針が五分を刻んだところで、僕は咳払いをする。


「時間切れですね。では、答えをお教えしましょう」






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