リッドとおかしな奴等の出迎え
「なるほど。では、私が護衛してご案内いたします」
「うん、お願いね」
ダイナスは僕の返事を聞くと、すぐに近くにいた騎士達に声を掛けた。
そして、車両から降りた僕とディアナを囲むように護衛する。
弓や魔法による狙撃を警戒してのことだろう。
少し歩くと、木炭車の運転席が開いた。
「リッド様。私もご一緒します」
「ありがとう、カペラ」
会釈する彼に声を掛けると、彼はディアナの横に並んだ。
前にダイナス、横にディアナとカペラ。
その周りには屈強なバルディアの騎士達が並び立ち、ちょっと仰々しい。
なお、第二騎士団から隊長格の子達だけ連れてきているけど、後続の荷台に乗っているからこの場には居ない。
「リッド様、見えてきました。彼等です」
「ん? どれどれ」
ダイナスが少し空けた隙間から覗くと、軽装で覆面をした狐人族と人族が混合した集団が見えた。
あの人族は、金で雇った冒険者崩れの傭兵か何かだろう。
「あれ。あいつらは……」
よく見れば、人族の傭兵達の中には何やら見覚えのある風貌で覆面をした男が三人立っていた。
一人は、モヒカン頭で覆面をした革ジャンスタイルの背の小さい男。
一人は、意味も無く汗をかき続けている覆面をした体格の良い、いやかなり太った男。
一人は、頭が太陽の光に反射しており、覆面をしている無駄に長身のスキンヘッド。
横目でちらりとダイナスを見れば、彼は察した様子で微笑んだ。
「あのような輩と一緒にしないでいただきたい」
「ご、ごめん」
僕が会釈したその時、集団の中から一番良い装備をしている体格の良い狐人族の男が前に出てきた。
「我等は狐人族の未来を憂う『金色の夜明け』である。我等の指導者エルバ・グランドークを追いやったリッド・バルディアはどうした。まだ出てこぬとは、臆病風にでも吹かれたか」
臆病風とか言われても別に腹は立たないけど、『指導者エルバ・グランドーク』は聞き捨てならない。
奴を指導者と仰ぐなら、間違いなく僕達の敵対する輩で確定だ。
僕は深呼吸をすると、ダイナスをはじめ皆に目配せして前に出た。
「待たせたな、私がリッド・バルディアだ。金色の夜明けとやら、エルバ・グランドークを指導者と仰ぐ発言は看過できない。穏便に済ませたいところだが、事と次第によってはバルディア家に敵対する者として討ち果たす。従って、今後の発言に気をつけよ。軽率な言葉を許すのは一度だけだ」
厳格な父上を参考にして毅然かつ威圧的に声を張り上げ、魔力を込めて威嚇する。
でも、まだ酔いが治まっていないため気持ち悪さも襲ってきた。
口を押さえてえずきたいけど、ここは我慢だ、我慢。
「ぬ……⁉ この迫力。流石はエルバを倒したと言われるだけのことはあるな」
僕が発した魔波に当てられた長身の男は口元を緩め、負けじと魔波を放ってきた。
「我は金色の夜明けを率いるマーベラス。貴殿達に忠告する。このまま自身の住む領地に帰られよ。この領地は我等狐人族のものであり、帝国人や貴殿達の力を借りて部族長となった卑劣なアモン如きが好き勝手して良い場所ではないのだ」
「……マーベラスとやら、言ったはずだ。軽率な発言を許すのは一度だけだと」
こういう輩は一度脅かして置いた方が良いだろう。
調子に乗らせると碌なことにならない。
僕は凄みながら右手に魔力を込めていく。
「ほう、面白い。ならば、エルバを倒したという実力。見せてもらおうか。リッド・バルディア」
マーベラスは相当な自信があるらしく、こちらを指差しながらかかってこいと言わんばかりに挑発している。
僕が幼い子供だと思って油断しているらしい。
ふと彼以外の輩に視線を向ければ、例の三人組がディアナに気付いて真っ青になっている。
「だ、旦那。あいつらは多分やばいですぜ」
モヒカン男は確か、モールスと言ったかな。
彼が慌ててマーベラスに進言すると、汗だらだらの男が勢いよく首を縦に振る。
「んだ、んだ。あの女を見ると、股がきゅーっとしちまうんだべ」
「……あいつらが相手という話は聞いてない。でも、痛い目に遭う『相手』だけに『あいててて』……クックク」
スキンヘッドの男が喉を鳴らして笑い出すと、彼等は揃って白けた表情を浮かべた。
「ふん、俺の実力は既に知っているはずだ」
マーベラスは鼻を鳴らして彼等の忠告を一蹴し、自信満々にこちらを見据える。
「いずれ俺はエルバに並ぶ……いや、それ以上の戦士となれる器と自負しているのだ。あのような他国の小童如き、負ける要素などありはしない。迫力こそあるが、そもそも奴がエルバを倒したというのも眉唾ものだ。おそらく、隣に並び立つ騎士達の手柄を横取りしたのであろう。帝国貴族らしいやり方だ。恐れるに足りん」
彼はそう言い放つと、息を大きく吸い込んだ。
「さぁ、どうした。リッド・バルディア。お前のお遊戯を披露してみせろ」
自称、エルバに並ぶ戦士となれる器か。
それが本当なら末恐ろしい人物だけど、マーベラスからは全く恐怖を感じない。
念のため電界で気配を探っているけど、彼を含めてあの集団の中には脅威となる人物は居なさそうだ。
「リッド様。あのような無礼な輩に情けを掛ける必要はございません。即刻、首をはねてやりましょう」
「え?」
ディアナの過激な発言にきょとんとすると、「まぁ、落ち着け。ディアナ」とダイナスが目を細めて笑顔で諫めた。
流石は騎士団である。
「首をすぐに刎ねては、己の過ちを悔いる機会がない。まずは捕らえて背中と尻に鞭打ちを行い、奴等の背後関係を吐かせる。その後、木のこぎりでゆっくりと首を切るのが良かろう」
違った、なんて恐ろしいことを言うんだ。
あ、でも、ダイナスは騎士団長だから野盗達の尋問もしているんだっけ。
背後関係を吐かせるというのは同意するけど、流石に他国で拷問じみた尋問は悪評が立ちかねない。
「ダイナス様。恐れながらそのやり方では、狐人族の中でバルディア家の悪評が立つやもしれません」
カペラはそう言うと、「ですから、こういうのはどうでしょう」と微笑んだ。
「捕らえた後、彼等を裸にした状態であぐらをかかせて後手に縛り上げます。次いで、両足首を結んだ縄を股からくぐらせ、背から首と両胸の前に掛け引いて縛り上げるのです。そして、最後に縄尻を再び両足に連結して緊縛。まぁ、簡単に言えば、あぐらを掻かせた状態で体を前方に曲げて顔と両足が密着させるのです。彼等の誇りを奪うに相応しい、さぞ屈辱かつ恥辱にまみれた姿となることでしょう」
「ほう、それはやったことがないな。しかし、少々手ぬるいのではないか」
いや、どこが手ぬるいんだ。
ダイナスが首を傾げると、カペラは首を横に振った。




