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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第六章

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マチルダ陛下の提言

「ほう、伯爵では不満か」


「いえ、身に余る光栄でございます。ですが、伯爵となれば『領地』を持たねばなりません。私は今後もバルディア領で様々な研究に没頭したく存じます故、『準伯爵』としていただけないでしょうか」


サンドラは顔を上げ、皇帝に毅然と告げた。


マグノリア帝国では、爵位の頭に『準』と付く場合がある。


通常の貴族は運営して守るべき領地を与えられるけど、『準』と頭に着く爵位の貴族は領地を持っていない。


冒険者で多大なる功績を残した者、サンドラのように研究分野で功績を残した者、芸術分野で功績を積み上げた者など、領地運営には適さない。


もしくは、領地運営を望まない者に送られるのが『準』と頭に着く爵位だ。


そして、爵位の頭に『準』があったとしても、立場は通常と変わらないとされている。


まぁ、領地運営をしていない爵位になるから、現実的には通常の爵位よりは少し立場は低くなるらしいけど、『準伯爵』は『子爵』よりは確実に上の位だ。


今後、サンドラは他貴族達からも注目を浴びることになるだろうから、圧力や嫌がらせに屈しないためにもある程度の爵位が必要なのは間違いない。


「なるほど。確かに貴殿ほどの優秀な人材が領地運営や他の雑務に追われては、結果的には損失になりかねんな。良かろう。改めて、サンドラ・フローライト。貴殿には『準伯爵』の爵位を授けよう」


「はい。謹んでお受けいたします」


皇帝の言葉にサンドラが一礼すると、マチルダ陛下が妖しく目を細め、苦虫を噛みつぶしたようなグレーズ公爵に視線を向けた。


「それにしてもです。様々な偶然が重なったとはいえ、バルディア領でサンドラが魔力回復薬と魔力枯渇症の特効薬の開発に成功。しかし、サンドラが辞めた帝国研究所では、ここ数年で何の実績も聞こえてきませんねぇ。確か、帝国研究所の現所長を推薦したのはグレーズ公爵だったと記憶していますが……その点はどうお考えなのでしょう」


マチルダ陛下の冷淡な眼差しと言葉に、謁見の間が凍り付く。


「その点は、面目次第もございません。しかし、『研究』というものは簡単に結果が出るものではありません。サンドラ……準伯爵のように偶然が重なって短期間で成功することもあれば、何十年と時間を掛けて成功することも、ままあることでございます。従いまして、寛大なお心で見守って頂ければと存じます」


「ふむ」


マチルダ陛下は考えるように相槌を打つと不敵に口元を緩め、視線の矛先を変えた。


「今の発言、研究所を辞めたサンドラはどう捉えますか」


「わ、私ですか」


急に振られてサンドラは目を瞬くが、グレーズ公爵を横目で一瞥すると深呼吸をして口火を切った。


「恐れながら申し上げます。グレーズ公爵の仰ったように、研究とはすぐに結果が出るものではありません。故に、私も研究者としては寛大なお心で見守っていただければと存じます」


サンドラの発言がこの場に轟くと、グレーズ公爵を始め、一部の貴族達の表情に安堵の色が窺えた。


だけど、サンドラは「しかし……」と続ける。


「今は分かりませんが、私が所長だった頃の研究所は様々な思惑が蠢いており、とても風通しが良いと言える環境ではありませんでした。もし、あのような状況が継続されているようであれば、研究成果は出にくいものと存じます故、研究所内の指示系統や体制は一度見直しされてはいかがでしょうか」


「な、なんですって。爵位を授かったとはいえ、発言が図々しいにもほどがありますわ」


グレーズ公爵は青筋を走らせて目を見開くと、鋭い視線を玉座に向けた。


「アーウィン陛下、研究所では『風通しが悪い』ということはありません。そもそも『風通しが悪い』という発言自体が研究所を支援している我々。上位貴族に対する侮辱であり、冒涜でございます。どうか、真に受けないでいただきたい」


「なるほど、二人の意見はわかった。だがな、グレーズ。研究所で実績を出せずに所長を辞任。実家とも縁を切ったサンドラが、バルディアで実績を出したという事実。これは研究所の失態であり、帝国の失態でもある。最悪、サンドラという優秀な人材が国外に流れていた可能性もあるのだ。この事実に目を背けるわけにはいかん」


「ぐ……」


下唇を噛み、グレーズ公爵の顔が悔しそうに歪んだ。


「そう怖い顔をするな、グレーズ。貴殿の言うとおり研究所の風通しが良いのであればだ。見直しのため、監査をしても問題ないであろう。それにどの道、魔力回復薬がバルディアで成功した以上、研究所の予算や研究目的を見直す必要も出てくるはずだ」


皇帝が告げると、これ以上は藪蛇になると踏んだらしい。


グレーズ公爵は、「……承知しました」と一礼して引き下がった。


しかし彼女は、それとなくサンドラと僕達に憎悪の籠もった眼差しを送るのを忘れない。


『覚えてなさい』と言わんばかりである。


でも、これで当初の打ち合わせ通りに事は進んだ。


サンドラは名誉挽回できたし、魔力回復薬と枯渇症の特効薬はバルディアの実績となった。


今後は帝国の研究所から協力要請を受けることになるんだろうけど、『風通し』や『予算』を見直すという皇帝の発言は、グレーズ公爵を始めとした貴族達を牽制するには十分な効果があったはずだ。


「サンドラ、これで良いかな」


「はい。私の進言を採用していただき光栄です」


サンドラは皇帝に一礼すると、僕達の背後で畏まった。


この件はこれで終わりだから、次の議題。


バルディアと新たなグランドーク家の関係についてに進むはず……ところが、急にマチルダ陛下が咳払いをして耳目を集める。


「陛下、少しよろしいでしょうか」


「うむ、どうした」


「此度の勝ち戦だけではなく、バルディアにおける発展は帝国の中でも群を抜いております。いえ最早、大陸における最先端を進む領地と評しても過言ではないでしょう」


「……そのように評していただき、身に余る光栄でございます」


事前の筋書きにない言葉に、父上が訝しみながら会釈した。


なんだろう、とても嫌な予感がする。


「マチルダ、何を言いたいのだ」


皇帝が首を捻って問い掛けると、彼女は不敵に口元を緩めた。


「つまり、最先端を行くバルディアと皇室の繋がりを強くするべきかと」


「な……」


あまりに突拍子もない提案に僕と父上は呆気に取られ、貴族達からはどよめきが起きた。


でも、マチルダ陛下は意に介さない。


「丁度、バルディア家にはメルディ・バルディアという長女がおります故、第二皇子であるキールとこの機に婚約させてはどうでしょう。帝国の発展と安寧の未来を考えれば、検討には十分に値するかと存じます」


「ふむ。発展と安寧の未来か」


皇帝が相槌を打つと、保守派筆頭のバーンズ公爵が挙手をする。


「お待ちください」


「む、なんだ。バーンズ」


「アーウィン陛下、恐れながら申し上げます。バルディア家は、すでに隣国のレナルーテの王女とリッド殿が婚姻しております。皇族とも婚約となれば、力が集中しすぎるのではありませんか。それに、レナルーテ側もあまり良い気はしないでしょう」


元々、レナルーテは帝国の皇族と婚姻を希望していた。


でも、既に密約で属国になっている国の王女と皇族が縁を結んでも利点が少ない……そうした思惑から、僕とファラの婚姻が決まった経緯がある。


だけど、指摘にマチルダ陛下は首を横に振った。


「バーンズの言わんとしていることも理解できます。ですが、リッドとファラは既に円満な婚姻を行い、その仲睦まじい様子は帝国内外に知れ渡っています。今更、二人の婚姻に問題があったという者はいないでしょう」


え、そうなの。


思いがけない言葉に目を瞬くが、マチルダ陛下は続けた。


「政治的に見てもです。バルディア家が皇族と縁を結べば、我等とレナルーテの王族は親戚となるのですよ。遠回りにはなりましたが、冷静に考えればレナルーテにとっても悪い話ではないでしょう」


謁見の間にマチルダ陛下の声が轟き、バーンズ公爵を始めとする貴族達を唸らせる。


「恐れながら申し上げます。大変有り難いことではありますが、我が娘のメルディはまだ幼く、このようなお話は早急過ぎるかと存じます」


「我が父の仰る通りです。どうかご再考をお願いいたします」


「あら、それは異なことを。私と陛下の婚約もメルディやリッドと近い年齢でしています。決して早急ではありませんよ」


父上に続いて何とか抵抗を試みるが、マチルダ陛下に軽くあしらわれてしまった。


何とかしたいけど、僕の立場では何も言い返せない。


このままでは外堀が完全に埋められ、メルディの婚約が決まってしまうと思ったその時、意外な人物が挙手をする。


「少し、発言してもよろしいでしょうか」


「……なんでしょう。ベルガモット卿」


マチルダ陛下の眉間に皺が寄った。






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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何と言うのか、ロミナンの血が欲しい人達が沢山いるのでしょうね。ただその血が一番濃そうなのはリッドな気がしますが。
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