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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第五章

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アモンの決意

「アモン。君ができることは二つある」


切り出すと、彼は首を捻った。


「二つ?」


「まず一つは、このまま戦士達の死を嘆き、ガレスとエルバを恨み、恐れ、隠れてひっそりと生き延びるか。もしくは……」


煽るような言い方だけど、今後のために『ある決心』してもらわないといけない。


もったいぶるように告げたことで、彼は息を飲み、食い入るようにこちらを見つめている。


待ちきれなくなったのか、「もしくは……?」とアモンが身を乗り出した。


「ガレスとエルバに宣戦布告し、部族長の座を君が簒奪するかだ」


「……リッド殿、それは本気で言っているのか」


「あぁ、僕は本気だよ」


二つ返事で頷くと、アモンは「し、しかし……」とためらうように首を横に振った。


「グランドーク家の総力は数万だ。そう易々と簒奪できるとは……」


「アモン。勝てるかどうかじゃないだろ?」


僕は、あえて彼の言葉を遮った。


「君を慕い、理想を信じ、死んでいったリックと戦士達。彼等の覚悟と遺志に答え、狐人族の未来を背負う覚悟が君にあるかだよ」


「……⁉」


今の言葉は、自分でもずるいと思う。


でも、グランドーク家が侵攻してきた大軍と正面からぶつかって争うだけじゃ、この戦いを本当の意味で終わらせることはできない。


現状のグランドーク家を根本から変えない限り、両家間で起きた問題は解決せず、今後も続いていくだろう。


だからこそ、アモンの理想をここで終わらせず、実現させなくてはいけない。


結果、バルディアの明るい未来にもつながっていくはずだ。


「君が立つというなら、僕も父上を必ず説得してみせる。そして、バルディア家が後ろ盾になると約束するよ。でも、選ぶのあくまで君だ。さぁ、どうする?」


答えは決まっているだろうけど、あえて彼に決断を迫った。


今から、アモンが進む道は親兄弟から立場を簒奪する修羅道だ。


彼が自分の意志で進むという覚悟を持たなければ、やり遂げることはできないだろう。


静寂が流れた後、アモンは震えながら深く息を吐いた。


「リック、皆……そうか、そうだな。わかった、リッド殿。僕……いや、私こと『アモン・グランドーク』は親兄弟と今を持って決別し、部族長の座を簒奪する。どうか、バルディア家の力を貸してほしい」


「わかった。改めてよろしく、アモン」


僕達が固い握手を交わすと、周りに居た皆から「おぉ!」と驚嘆の声が上がる。


これで、現グランドーク家を徹底的に潰す大義名分は整ったわけだ。


内心でほく笑んでいる中、「リッド殿、少しよろしいですかな?」とカーティスに声を掛けられた。


「うん。どうしたの?」


「バルディア家が決起するアモン殿の後ろ盾となり、現状のグランドーク家を根本から変えていく……というのは賛同できます。しかし、狭間砦に侵攻している数万の大軍はどうお考えなのですかな?」


「現地で状況を見ないと何とも言えないけど、考えていることはいくつかあるさ。それに……」


言い掛けたところで、「リッド様!」と可愛らしい声が辺りに響き、こちらに走ってくるファラの姿が目に入る。


「ごめん。また後で」とカーティスに告げて前に出ると、彼女は僕の胸に飛び込んできた。


「リッド様、ご無事で良かったです」


「ファラ! 君も無事で良かった」


抱きしめつつ、背中を優しく叩くと彼女と目を合わせる。


「でも、駄目じゃないか。君が出てきたら、アスナが君に変装した意味がなくなっちゃうよ」


この場に居るもう一人の『ファラ』に目をやったその時、ジェシカがやってきた。


「私達もお止めしたのですが……申し訳ありません」


彼女は、深く頭を下げた。


ジェシカは、エルティア母様の元部下らしいから、本気で止めたんだろうな。


ファラは、バツの悪そうな表情を浮かべた。


「すみません……。ですが、外から爆音が聞こえてきて、皆のことが心配で居ても立ってもいられなくなったんです。それで外を見たら、リッド様のお姿も見えたので……」


「そっか。心配してくれてありがとう。でも、この襲撃の狙いの一つは君と母上だったから、ジェシカやアスナ達の判断は正しかったと思うよ」


「う……申し訳ありません」


此処に来たことが軽率だったと理解したらしく、彼女はしゅんとして耳が下がってしまう。


僕は目を細めると、ファラの頭に手を置き優しく撫でた。


「次からは待っていてね。必ず僕が迎えに行くからさ」


「は、はい……畏まりました」


ファラの顔色はさっきよりも明るいし、耳も上がったから大丈夫かな。


ちょっと、顔が赤いのが気になるけど。


「リッド殿。失礼ながら、そちらの方は?」


「あ、そっか。紹介がまだだったね。彼女が僕の妻だよ。ファラ、彼は『アモン・グランドーク』。狐人族の新たな部族長になる……僕の友人さ」


彼女は一瞬きょとんとするが、すぐに意図を察してくれたらしい。威儀を正して彼の前に歩み出た。


「初めまして、アモン・グランドーク様。リッド様にご紹介あずかりました『ファラ・バルディア』でございます。以後、よろしくお願い申し上げます」


「え⁉ あちらの方が、ファラ殿ではなかったのですか!」


彼は目を丸くし、この場にいるもう一人のファラ……もといアスナを凝視した。


どうやら、僕がアスナ達とした先程のやり取りは、茫然自失していたアモンの耳には入っていなかったらしい。


「恐れながら、私はファラ様の専属護衛。アスナ・ランマークと申します。以後、お見知りおき下されば幸いです」


畏まったアスナが鬘を外すと、彼女の赤みがかった桃色の髪が宙を舞うように露わになった。


「な、なんと……」


アモンは開いた口が塞がらない様子だったが、ハッとして咳払いをする。


「ご挨拶が遅れて申し訳ない。改めて、アモン・グランドークと申します」


三人が自己紹介を終えたのを見計らい、僕はファラの耳元に顔を寄せた。


「ファラ。ところで、母上は大丈夫?」


「はい。私と一緒に避難室にいましたから。ただ、お母様も心配しておりましたから、後でお顔を見せてあげてください」


「うん。わかった」と頷き、ほっと胸をなで下ろした。


彼女が此処にいる以上、母上も無事であることは想像に難くないけど、不安は少しあったからね。


その時、「リッド様! 応答願います!」と受信機からサルビアの声が響いた。


周りにいる皆に目配せし、僕は通信魔法を発動する。


「はい、こちらリッド。どうしたの?」


「今し方、団員を通じてライナー様より入電。本屋敷では、狐人族の爆発による重症者多数。また、本屋敷は半壊状態。新屋敷の被害はどうか? と仰せです」


報告を聞き、思わず眉間に皺が寄る。


やっぱり……という気持ちはあるけど、それ以上の嫌悪感と憤りが体を駆け巡る。


ふと横目に見れば、アモンが手を拳にして震えていた。


本屋敷では、気絶させた狐人族の戦士達を拘束後、一カ所に集めるよう父上が指示を出していたはずだ。


そのせいで、図らずも爆発の威力が上がってしまったのだろう。


深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ゆっくり口を開いた。


「こっちでも狐人族の戦士が全員爆死したけど、幸い被害はなかったよ」


「畏まりました。皆様がご無事で良かったです」


サルビアの声が少し明るくなった。


彼女も僕達のことを心配してくれていたのだろう。


なお、彼女が居る場所は第二騎士団宿舎に併設されている情報局だ。


本屋敷や新屋敷から離れた場所ではあるけど爆音が聞こえたり、煙が遠巻きに見えたのかもしれない。


「では、ライナー様からの指示をお伝えいたします」


気を取り直したように、彼女は通信を続けた。


「本屋敷は爆発被害による重症者の臨時救護施設とし、今後の活動拠点は一時的に新屋敷に移行するとのことです」


「わかった。こっちもすぐに受け入れ準備に取り掛かるよ。ちなみに、サルビア。一つ尋ねたいことがあるだけど、いいかな?」


「はい。何でしょうか」


「誰か……本屋敷で生き残った狐人族の戦士はいるかい?」


しんとした静寂が訪れる。


アモンに目を向けると、彼の瞳にはどこか期待の色が宿っていた。


少しの間を置き、サルビアの声が重くなる。


「いえ……特にその報告は受けておりません。何でも、戦士の方々は生死問わず一斉に爆発したと報告を受けております」


「そうか、ありがとう。こっちも爆発の状況は本屋敷と同じだったと父上に伝えてほしい」


「畏まりました。それでは、失礼します」


通信が終わって息を吐くと、目を伏せて肩をふるわせるアモンの傍に寄った。


「彼等の遺志と覚悟も君が引き継ぐ……そうだろ?」


「あぁ……勿論だ。だが、このやりきれない気持ち……どうすれば良いだろうな。はは」


自嘲気味に苦笑する彼に、優しく微笑み掛けた。


「悔しかったら、泣けば良いと思うよ。泣いて、叫んで、それを次に生かす力に変えれば良いのさ」


「そうか、そうだな」


返事に合わせて目配せすると、周りにいた皆は察してこの場から移動を始める。


僕とアモンのだけになると、改めて優しく語りかけた。


「すぐに手に入る理想なんて、理想じゃない。でも、君は必ず理想を実現させる。戦士達同様、僕も君を信じてるよ」


「……リッド殿。恩に着る」


彼は頷くと、大粒の涙を止めどなく流して大声を上げ始める。


アモンが今までの自分自身と決別し、新たな道を踏み出した産声にも聞こえるような、そんな慟哭だった。






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― 新着の感想 ―
泣けばいいと思うよ(槍の魔法少女)
[気になる点] 簒奪というのは、本来その地位に無い者が強奪するという批判的な意味合いがありますので、他人が「あいつは王位を簒奪した」と侮蔑的な意味を込めた使い方をする場合が多いです。
[気になる点] これで、現グランドーク家を徹底的に潰す大義名分は整ったわけだ。 [一言] 屋敷と狭間砦がすでに攻め込まれてるので、アモンがどうのこうのは関係ない気がするが 他国だよ 同国の隣の領地と…
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