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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第五章

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宿る覚悟と意志

「残念ですが、それはできません」


「どうして?」


リックは、僕の誘いをにべもなく断った。


でも、彼の眉はピクリと動き、電界を通じて僅かな感情の機微を感じる。


彼は死ぬ覚悟をしているけど、敵意はない。


発している殺意も表面上だけであり、内心は違うようだ。


もう少し、探ってみるか。


「どうやら、人質以外にも何かあるみたいだね」


「・・・・・・我等は、此処に来る前、エルバ様の特別な魔法が施されております」


「特別な・・・・・・魔法?」


聞き返すと、リックは「こちらをご覧ください」と自らの服の襟を少しずらした。


露わになった彼の胸には、星形のような印が付いている。


丁度、心臓がある場所だろうか。


「魔法の仕組みや詳細は知りません。しかし、この魔法が施された者は、位置と生死が遠くからでもエルバ様にわかるそうです」


彼はそう言って襟を正すと、苦々しげに顔を顰めた。


「そして、今日の日没までに我等が一人でも生きていた場合・・・・・・人質は、皆殺されます」


「な・・・・・・⁉」


リックの告白に、この場にいた皆が目を丸くした。


彼等・・・・・・狐人族の戦士達が家族、恋人、子供といった大切な人達を救うためには、ここで命を捨てるしかない。


戦士が一人でも生き残りが入れば、連帯責任で人質は全員殺される。


エルバ達にとって、今後の邪魔になるであろうアモンと彼を慕う戦士達。


彼等を捨て駒かつ死兵として、バルディアに送り込んできたわけか。


ふと自爆した戦士の顔が頭を過る。


彼は・・・・・・戦士達は、大切な人達を人質に取られ、慕うアモンを止むなく裏切り、敵地で命を捨てる任務に就いたのか。


その心中、察するに余り有る。


「・・・・・・何とか、何とかならないのか。君達がアモンを裏切り、自爆したとして人質が絶対助かるとは限らない。奴は・・・・・・エルバは、信じるに値するのか?」


僕達とリック達が戦っても、喜ぶのはエルバ達だけだ。


彼等を何とかしてあげたい。


人は、死んだら生き返らない・・・・・・二度と語らうことはできないんだ。


生き残った家族だって、自分達のせいで大切な人が亡くなったと思い悩むことになる。


そんな思いから、言葉が発するが、彼は嬉しそうに笑って首を横に振る。


「リッド様。貴方は優しい方です。ですが、エルバ様は約束を守る冷酷な方であり、我等がどんな形であれ生き残れば、人質は全員殺されるでしょう」


リックはそう答えると、悔しそうに泣き崩れているアモンに視線を向ける。


そして、「アモン様・・・・・・」と切り出した。


「人は、成ろうとした人物にしかなれません。ですが、必ずしも良い条件には恵まれるわけでもありません。しかし、成ろうという強い覚悟と意志がなければ、その人物には決してなれないでしょう」


「君は、まだ僕が何かを成すと・・・・・・信じてくれているのか?」


問い掛けに、彼は目を細めて頷いた。


「はい。我等は、エルバ様の捨て駒ではありません。アモン様に道を示す、灯火と成るのです。どうか、我等の覚悟と意志を引き継ぎ、部族長と成って狐人族の未来をお導きくださいませ」


「リック・・・・・・⁉」


アモンが彼の名を呟いたその時、本屋敷の別の場所で爆音が連続で響いた。


「どうやら、他の戦士達も動き出したようですね」


「く・・・・・・⁉」


父上は顔を顰めると、部屋に隠し置いてあった剣を取り抜刀した。


「ダイナス、ルーベンス! この者の相手は私がする。お前達は、直ぐに状況を他の騎士達に伝達。狐人族の戦士達は、自爆すら厭わない死兵だ。全員討ち取れ」


「父上⁉」


指示を出された二人は、「畏まりました!」とこの場を後にする。


くそ、本当にどうにもならないのか。


「父上。彼等は、人質を取られているだけです。何か・・・・・・何かできることがあるはずです!」


「お前の気持ちはわかる。だが、リックを含めた戦士達・・・・・・いや、エルバの狙いが何か考えろ」


父上がそう言うと、リックが微笑んだ。


「さすがです、ライナー様。そう、エルバ様が我等に指示したのは自爆攻撃だけではありません。ナナリー・バルディアとファラ・バルディアの拉致です」


「な・・・・・・⁉」


絶句するが、彼は淡々と言葉を続けた。


「本屋敷に奇襲を仕掛けたのは、我等を含めて一五名。新屋敷には、二〇名の戦士が向かっております。早くしないと、大変なことになるでしょう」


「そうか。ならば、容赦はせん」


父上は、冷淡な眼差しをリックに向ける。


「帝国の剣と名高い、ライナー・バルディア殿。貴殿とこうして相まみえること、狐人族の戦士として光栄でございます。ですが、手加減はいたしません」


「良かろう。ディアナ、カペラ、お前達は手を出すな」


「承知しました」


二人は父上の指示に頷くと、僕、アモン、シトリーを守るように構えた。


「参ります!」


声を荒らげたリックは、両腕の爪を露わにし、目にも留まらぬ速度で突進する。


その場を動くことなく、父上は剣を振った。


次の瞬間、辺りに血が吹き荒れる。


父上が、リックの両腕を落としたのだ。


「まだまだぁああああ!」


彼は怯まず、呻き声すら上げずに咆吼し、足技を繰り出して父上に再び襲いかかる。


「リック、止めろ。もう止めてくれ」


アモンが必死に叫ぶが、彼は止まらずに笑った。


「夢なき者に理想なく、理想なき者に計画なし、計画なき者は実行せず、実行なき者に成功はあり得ず。故に、夢なき者に成功はありません」


そう答えると、リックの体が発光する。


「アモン様、夢を・・・・・・理想を捨てず、信念を貫いてください。はぁああああ!」


僕の目の前で自爆したさっきの戦士と同じだ。


でも、リックの実力であれば、威力は先程の爆発とは比較にならないだろう。


戦慄を覚え、咄嗟に叫んだ。


「父上! 彼は、自爆する気です」


「・・・・・・!」


瞬間、リックの心臓を父上の剣が貫いた。


「リック殿。やはり、貴殿は最初から・・・・・・」


父上が剣を抜くと、彼は力なく両膝を突いて吐血した。


「どうか・・・・・・アモン様のことを・・・・・・」


リックは笑顔でそう呟くと、その場で前のめりに倒れ込む。


そして、彼を中心として血だまりが出来ていった。


「うぁあああ! リック、ごめんよ。僕が・・・・・・僕が不甲斐ないばっかりに・・・・・・うあぁあああああ!」


アモンは、彼にすがりつき慟哭する。


でも、何も答えは返ってこない。。


「こんな、こんなことって・・・・・・う⁉」


惨劇と人の死を目の当たりにしたせいか、強烈な吐き気に襲われる。


「ごほごほ!」と嘔吐きながらも、僕の中には憤りが渦巻いていた。


許せるものか。


人の命を粗末に扱う、こんなやり方は絶対に許せない。


父上は納刀すると、リックの側にしゃがみ込み、彼の開いている目を丁寧に閉じた。


「狐人族の戦士、リック。貴殿のことは、生涯覚えておこう」


そう呟いた父上は、僕とアモンに視線を向ける。


「お前達、悲しむのも、吐くのも後にしろ。リッド、お前はディアナとカペラを連れてすぐ新屋敷に行け。お前の妻は、お前が守るんだ」


そうだ、リックは新屋敷に狐人族の戦士が二〇人向かったと言っていた。


それに、新屋敷にはファラだけじゃない。


万が一に備えて移動した母上もいる。


カーティスや第二騎士団の子達が警備に就いているから、早々後れをとることはないと思うけど、自爆攻撃となれば話は別だ。


何が起きるかわからない。


僕は口元を拭い、父上を力強く見やった。


「畏まりました。直ぐに向かいます」


「うむ。私も、ガルンに状況を引き継いですぐに向かう。それから、君達二人は私に付いてきなさい」


「・・・・・・はい」


父上に声を掛けられたシトリーは、絶望の表情で力なく頷いた。


でも、アモンは首を横に振る。


「私も・・・・・・私も、新屋敷に連れて行ってください。私を慕ってくれた戦士を、一人でも説得したいんです。お願いします」


彼の瞳には、強い覚悟と意志が宿っていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] シリアス展開、政治的な駆引き、心理戦、熱いバトル、そういうのも悪くないとは思いますよ ただ、読者目線からするとタイトルにある乙女ゲームを進めてはどうかと ストーリーを進めて学園に入ってから…
[一言] ここしばらく、えらくつまらん話になったねえ。 読む気に成らんぞ
[一言] いつか好転するだろうと読み続けてきましたが、もう辛くて無理です。 作品自体はとても好きなので孤人族編が終わった頃にまた読ませていただきます!
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