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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第五章

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アモンの戦士達

顔を上げて周りを見渡すと、室内は黒い爆煙に包まれており、来賓用に装飾された内装は見る影もない。


「う・・・・・・うぇ、ごほごほ・・・・・・」


気持ちが少し落ち着いたせいか、人が自爆した事実を理解して吐き気に襲われる。


でも、すぐにある感情がその吐き気を止めた・・・・・・怒りだ。


僕は口元を袖で拭うと、胸に手を当て目を瞑る。


狐人族がこの会談で何か事を起こす可能性は考えていた。


だからこそ、相手の気配を察知できる電界を常時発動していたし、騎士団長のダイナス、副団長と同等のルーベンスにも同席してもらったんだ。


だけど、まさか戦士が自爆を仕掛けてくるとは。


でも、何個か疑問がある。


自爆した戦士が言い残した言葉と爆発の威力だ。


戦士達が獣化した姿は尻尾が三本だった。


以前、アモンが獣化した時と同等の力を持っていたはずだ。


目を開けて、傍にいる二人を見やった。


あれだけの力を暴走させたにも拘わらず、至近距離にいた僕、傍で震えているシトリー、呆然としているアモンは生きている。


魔障壁を全力で展開したから防げたのか、それとも・・・・・・。


「リッド、無事か」


考えを巡らせていると、背後から父上の声が聞こえた。


「はい。問題ありません」


返事し、傍で目を潤ませ、震えているシトリーに優しく微笑んだ。


「もう、大丈夫だよ」


「うぅ、あり・・・・・・がとう」


彼女は消えそうな声を発して、目を伏せた。


安否確認をする父上の声に、次々に返事が聞こえる。


良かった、どうやら皆無事らしい。


胸をなで下ろした時、立ち込める黒煙の中からディアナとカペラがと現れ、僕の前に出た。


二人とも、黒い煤で服や顔が汚れている。


「リッド様。お気持ちは理解できますが、あのような危険な真似はおやめ下さい」


「ディアナさんに同感です。私も肝が冷えました」


二人は、後ろにいる僕をジト目で睨む。


気持ちはわかるけどね。


でも、しょうがないじゃないか。


気付いたら体が動いていたんだからさ。


「あはは。心配かけて、ごめんね」


誤魔化しがてら頬を掻いていると、シトリーの傍で項垂れて呆然としていたアモンが、ふらふらとした足取りで立ち上がった。


「どうしてだ。どうして、こんなことを・・・・・・」


彼は黒煙の中、無表情に佇む狐人族の戦士を睨んだ。


「お前は知っているんだろう。どうして・・・・・・どうして、こんなことをしたんだ」


アモンの慟哭に答えるように、リックは獣化する。


その姿は、襲撃犯のクレアと同じ、尻尾の数が五本の白狐だ。


「全ては・・・・・・ガレス様とエルバ様のご指示です」


「な・・・・・・」


アモンは絶望の表情を浮かべた。


「やはり、そうか」


リックに答えたのは、前に出てきた父上だった。


その手には、グランドーク家からの親書がある。


さっき、アモンから渡されたものだ。


「これには、こう記されている。『バルディア家は、再三に亘り要求した獣人族の解放を断固として受け入れない。そればかりか、使者である『アモン・グランドーク』を殺害したこと。許しがたい事実である。従って、グランドーク家は三男アモン・グランドークの仇討ちと奴隷解放を目的とし、バルディア家に領地戦を布告する』、とな」


父上は読み上げると、アモン、シトリー、リックを順番に見やった。


「・・・・・・尤も、アモン殿とシトリー殿の様子を見る限り、この事は知らされていなかったようだがな。全く、舐めた真似をしてくれる」


やっぱり、そういうことか。


つまり、この会談は最初から茶番だったというわけだ。


帝国に宣戦布告ではなく、両家だけ行う領地戦を布告というのも小賢しい。


狙いはバルディア家のみと公言して、帝国全体を敵に回さぬよう政治的な配慮。


逃げ道を確保する目的だろう。


「そ、そんな・・・・・・」


アモンが力なく歩き出して父上に駆け寄った。


「そんなはずはありません。私は、父のガレスから預かった親書に目を通しました。確かに、お伝えした内容が記載してあったんです」


「・・・・・・では、ご自分の目で確認してみなさい」


必死の形相で縋ってくるアモンを憐れに思ったのか、父上は優しく諭すように親書を渡した。


彼は即座に目を通すが、愕然とし真っ青になると、両膝から崩れ落ちて項垂れる。


「く・・・・・・うぐ・・・・・・」


辺りに、アモンの悔しさを噛み殺すような震えた声が漏れ聞こえる。


「アモン様。貴方は、捨て駒にされたのです」


獣化したリックが、淡々と告げた。


「・・・・・・リック。君を含め、戦士達はアモンを支持していたんじゃないのかい。どうしてこんなことをしたんだ。襲撃事件の時を振り返ってみても、君の彼に対する忠誠心が嘘とは思えないんだけどね」


一連の自爆攻撃に、違和感を覚えていた。


そもそも、父上がアモンから受け取った親書を見た時点で、攻撃を無言で仕掛ければ良かったはずだ。


わざわざ怒号を上げて襲いかかるなんて、奇襲の機会を自ら潰している。


勿論、それが有効な時もあるけど、こちら側の護衛がいる以上、全く合理的では無い。


僕の目の前で自爆したあの戦士。


彼は死の直前、「ありがとうございます」と言っていた。


あれは、シトリーとアモンを守った事に対する言葉としか思えない。


「リッド様の言う通りです。私を含め、戦士達は皆、アモン様の理想を今も支持しております」


リックはそう言うと、「ですが・・・・・・」と首を横に振った。


「我等の『主君』は、狐人族の部族長であるガレス様です。グランドーク家に仕える戦士である以上、主君の命令は『絶対』です。それは、此処に居る皆様もご理解してくれるでしょう」


「そうか。でも、本当にそれだけなのかい? 君の本心がそれだけとは、思えないんだよ」


電界を通じて彼から感じる気配は、強い意志。


決意や覚悟と言えるものだ。


でも、わずかに焦りのような、不安も伝わってくる。


「何か、ガレス達に弱みを握られているんじゃないのか」


リックは無言だが、眉をピクリと動かした。


どうやら、図星らしい。


アモンが青ざめたままふらふらと立ち上がり、彼を見つめた。


「まさか・・・・・・ディジェと子供達に何かあったのか?」


「・・・・・・アモン様、その『まさか』でございます。私の妻と子供達の命は、ガレス様とエルバ様の手の内にあります。しかし、私だけではありません。今回、アモン様に同行した戦士達全員、家族、恋人、一族郎党。それぞれに大切な者の命が握られております」


「父上と兄上は、そこまで・・・・・・そこまでするのか」


アモンが顔を顰めて歯を食い縛る。


リックを含め、戦士達の言動にこれで合点がいった。


彼等は、アモンを支持していたけど、彼等を目障りと感じていたエルバやガレスに、これ幸いと捨て駒として使われたわけだ。


「なるほどね」と呟き、僕はディアナとカペラを押しのけて前に出る。


「アモンとシトリーには計画を伝えず、嘘の方針を伝える。そして、事前に計画を伝える戦士達には裏切れないよう、大切な人を人質としたわけか。敵を欺くにはまず味方から・・・・・・ね。素晴らしいよ。実に素晴らしいかつ確実性も高い、合理的なやり方だね」


「その通りです」


リックは淡々と頷いた。


込み上げてくる感情を抑えるため、僕はあえてニコリと微笑んだ。


「でも・・・・・・気に入らないな。そのやり方は、実に気に入らない。どうだろう、リック。君・・・・・・いや、君達全員。こちら側に寝返らないか?」






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― 新着の感想 ―
[一言] グランドーク編早く終わらないかな…胸糞悪くて仕方がない…(作者様ごめんなさい)
[気になる点] 前回から思っていたのですがディジェってラファの息のかかった者じゃないですよね? 他のアモンの配下の兵士はともかくリックは五本の尾の獣化のできる実力者でかつエルバと敵対派閥のアモンの側…
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