外伝・蠢き暗躍する者達
その日。
とある屋敷で蝋燭の明かりが揺らめく一室に、黒いローブとフードで全身を覆い隠した人物達が集まっていた。
彼等は、様々な形の仮面で素顔も隠しているため、傍目では誰なのか窺い知ることはできない。
そんな彼等が一堂に会して席に座り、円卓を囲んでいるのは異様な光景であった。
「さて、皆さん。私の急な知らせにもかかわらず、こうして集まって下さったこと感謝いたします」
部屋の一番奥の席に座り、色が半分で白黒に分かれた仮面の人物がそう言うと、他の者達は声は出さずに会釈で反応した。
「今回、集まってもらった理由は他でもありません。我等の『協力者』から、準備が整い次第、いよいよ動く・・・・・・と連絡がありました」
「おぉ」
感嘆の声があちこちから漏れ聞こえる。
「勿論、その『協力者』のため、皆さんにもご尽力いただきたいのです。よろしいですかな?」
白黒仮面の言葉に対して、この場に居る者達はまた黙って会釈で反応する。
だが、その中で一人だけ手を上げる者がいた。
彼は、装飾が何も施されていない白仮面を身につけている。
「よろしいかな?」
「構いませんよ」
「確認の意味を込め、お伺いしたい。『協力者』が『かの領地』に攻め込んだ場合。我等にどのような利があるのか。ご説明、願えますかな?」
少しの間を置いて、白黒仮面が「そうですな」と相槌を打った。
「では、皆さんとの認識を再共有するため、申し上げましょう」
「ありがとうございます」
白仮面の一礼に合わせ、他の者達も会釈する。
白黒仮面は咳払いをすると、ゆっくりと語り始めた。
「『協力者』が『かの領地』に攻め込めば、ぬるま湯に浸かり続け、考え方までふやけた者達の認識は大きく変わることでしょう。所詮、平和など砂上の楼閣に過ぎなかったのだと。恒久的な平和を生み出すためには、巨大な国家が覇権を握り、大陸統一を果たすしかないとね。そうなれば、我が国の世論は軍備拡大に大きく傾くことでしょう」
「なるほど。しかし、疑念が残ります。『協力者』が『かの領地』を攻め込み、これに勝利した場合。我等の求める『利』に反するのではありませんか?」
「それは心配に及びませんよ」
白仮面の質問に、白黒仮面は首を横に振った。
「協力者が攻め込み、かの領地を占領すれば『大陸統一』に向けた大義名分を我等は得られ、軍を動かせるようになるでしょう。万が一、協力者が敗れたとしても攻め込まれた事実は残ります。何にしても、『他国の脅威』という現実を目の当たりにすることで、我等の主張に賛同するものは多くなるでしょう」
「畏まりました。もう一つ、お伺いしたい」
「なんでしょうか?」
「協力者が勝利した後ですが、どのように収拾を付けるおつもりですか?」
白仮面の質問は、他の者達も気になっていたらしい。
白黒仮面は注目を浴びる中、「ご安心ください」と優しく語りかけるように答えた。
「我等主導による『和平交渉』が難航の末、成功します。その際、戦争責任の所在は『かの領地』の領主と嫡男に負っていただきますがね。まぁ、その時の彼等は『故人』ですから。死人は口無し、誰も心を病むことはありません。我等が祖国のため、礎となっていただきましょう」
「怖いお方だ。ご回答いただき、ありがとうございました」
白仮面はそう言うと、頭を深く下げて一礼する。
「いえいえ、良い質問でした。おかげで、この場にいる皆さんと改めて共有認識ができましたからね」
白黒仮面は満足げに相槌を打つと、「あ、言い忘れてました」と呟いた。
「かの領地の領主と嫡男は『故人』となりますが、領主の妻と娘は私が『和平交渉』を通じて引き取ります。彼女達には、まだ利用価値がありますからね。皆さん、その点も予めご承知をお願いしますよ」
彼の言葉に、この場にいる者達は声を発さずに一礼して答えるのであった。
集会が終わり、白黒仮面だけが部屋に残っていると、扉が丁寧に叩かれる。
「主よ。よろしいでしょうか?」
「その声は『ローブ』だな。入れ」
白黒仮面の発した声は、集会の時のような優しく丁寧な感じではなく、低くて貫禄がある。
ローブは、許可を得て部屋に入ると、白黒仮面の側にゆっくりと近づき跪いた。
彼はローブという名前の通り、全身を覆う黒いローブと深いフードを被っている。
口元も黒い布で隠れており、素顔を見ることはできない。
「会談が決裂後、奴らは当初の予定通りに動いております」
「そうか。ご苦労」
淡々と白黒仮面は頷くが、ローブが何か迷っているような気配を感じ取った。
「どうした。何か言いたいことでもあるのか?」
「恐れながら申し上げます。あの狐達は、黙って言うことに従うような輩ではありません。奴らを倒した後、狐達が大人しく『和平交渉』に乗ってくるとは到底思えないのですが・・・・・・」
ローブの言葉に、白黒仮面は苦笑すると「だろうな」と頷いた。
「それ故、集会では『難航の末』と付け加えたのだ。まぁ、手は打ってある。お前が気にすることではない」
「畏まりました。差し出がましいことを申しました。お許し下さい」
「構わん。また、気になることがあれば言ってくれ」
「御意」
畏まって頷くと、ローブは部屋を後にする。
再び部屋に一人となった白黒仮面は、椅子に座ってずっと頬杖を突いていたが、ふと天を仰いだ。
「さて、彼等は私の手の上で踊り、そして死ぬのか。それとも、運命に立ち向かい新たな道を切り開くのか。せいぜい、楽しませてくれたまえ・・・・・・」
彼はそう呟くと、不気味に笑い続けるのであった。




