アーモンドとリッド
アーモンド達の助言と僕のところに集まった情報。
これらを元に、工房で拉致された狐人族の子達のいる場所に当たりを付けたことを伝えると、カペラは木炭車を運転しながら相槌を打つ。
「なるほど……そういうことでしたか」
「うん。アーモンド達のおかげもあって、襲撃犯が潜む場所に当たりをつけることができたんだ」
今、僕達はカペラの運転するドワーフのエレンとアレックスが改良……もとい改造した木炭車・改に乗って工房を襲撃した輩が集まっていると思われる場所に向かっている。
木炭車は通信魔法で情報本部にいる鼠人族のサルビアに手配をお願いしたのは確かなんだけど、まさかカペラが搭乗して来るとは思わず当初は驚いたけどね。
その点については、カペラは運転しながら教えてくれた。
工房が襲撃された時、ドワーフのエレンとアレックスは工房を預かる身として現場に居合わせていたけど、二人は戦闘員ではないため襲撃犯に太刀打ちできなかった。
為す術なく狐人族の子達を目の前で拉致されたエレンとアレックスの悔しさは、想像に難くない。
そんな中、『木炭車』の手配の件を聞いたエレンは「ボクも絶対に行く!」と言ってきかなかったらしい。
アレックスが宥めても聞かない様子だったらしく、カペラがエレンを説得することになったそうだ。
丁度その時、ファラが宿舎に戻ってきてカペラに告げたという。
「残っている宿舎の業務は私が引き受けます。カペラさん、貴方はリッド様が手配を依頼した木炭車に乗車し、現場へ向かってください。リッド様は拉致された子達を救う為、襲撃犯を必ず追うでしょう。その時、貴方の力はきっと頼りになるはずです」
彼女の指示に従い、カペラは業務を引き継ぎ木炭車がある場所に移動。
エレンの説得をするがその際、彼女から「わかった。でも、絶対にあの子達を連れ戻してきてね!」と願いを聞き届け此処に来たそうだ。
すると、カペラが感慨深げに呟いた。
「それにしても、私に指示を出された時に見せたファラ様の気高く、凛とした表情。エルティア様に良く似ておられました」
「お義母様に? ふふ、わかった。きっと喜ぶと思うから、帰ったらファラに伝えておくよ」
その時、後ろに乗っていた鼠人族のセルビアが「お話し中、申し訳ありません」と声を掛けて来た。
「リッド様、いまサルビア姉さんより連絡がありました。第一飛行小隊のアリアが追尾していた襲撃犯と見られる相手が、リッド様が予想してた地点に到達。そこには、仰せの通り地図に記載のない小屋とクリスティ商会らしき馬車と荷台があったとのこと。地上部隊はラガード率いる第六分隊が近くにいるようで指示を待っているようです。如何しましょう?」
「ふむ」と僕は口元に手を当てて俯いた。
犯人達は工房を襲撃後、狐人族の子達を拉致後、五組に別れて移動している状況だ。
アリアが追尾していた相手はその一組に過ぎない。
五組のうち、二組は追尾を振り切る為に拉致した子を置いて逃走している。
つまり、別れた襲撃犯のうち二組の行方がまだわからない。
この状況でこちらが動いた場合に考えられる最悪の可能性。
それは、行方不明の二組がまだ合流していなかった場合だ。
集合地点が抑えられたと把握した二組は、別の場所に逃走することは想像に難くない。
そうなると、拉致された子達を全員救い出すのが難しく成るだろう。
その時、「リッド。少し良いだろうか?」アーモンドが小声を発した。
「どうしたんだい?」
「いや……襲撃犯は五組に別れたと言っていただろう? そうなると、君達が確認できたのは三組だ。残りの二組はまだ行方が分からない。それなら、彼等が馬車を動かすまでは動かないほうが良いと思うんだ」
車内にいる皆の注目を集めつつ、彼は淡々と続けていく。
「馬車が動き出すという事は、その時には襲撃犯が全員集ったことになる。それに、バルディア領の工房を襲うということは、襲撃犯の目的は工房の情報と技術の可能性が高いはずだよ。それなら、拉致された子達に危害を加える可能性は低い。だから、ここははやる気持ちを抑えて機会を窺うべきだと思うんだけど……どうだろう?」
「……奇遇だね。僕も同じことを考えていた所だよ」
ニヤリと笑って答えると、僕は視線をセルビアに向けた。
「僕達は襲撃犯が動き出したら、この木炭車で彼等の行先に先回りをしよう。ラガード達には、いまアーモンドが言った理由から絶対に動かないように伝えて。それから、馬車が動き始めたら気取られないように後を追うこと。そうすれば、僕達とラガード達で挟み撃ちにできるからね」
「畏まりました。では、そのようにサルビア姉さんに申し伝えます」
彼女はコクリと頷き通信魔法を発動しようとした、「ちょっと待って」と制止する。そして、彼女の耳元で小声で囁いた。
「……それと、現地に集まっているアリアを含む飛行小隊の皆には、襲撃犯の馬車が進む方向をこちらに連絡すること。それで、襲撃犯の行先を割り出して先回りをするからね。それと、アリア達は余程のことが無い限り高高度で監視体制を維持して待機。もし、襲撃犯と僕達の間で戦闘が行われても姿を見せたり、手を出すようなことしないように伝えてほしい」
「え……でも、それは」とセルビアは怪訝な面持ちを浮かべた。
「襲撃犯達の一番の目的は、おそらく『バルディアの情報』なんだよ。今なら、アリア達の存在は『鳥人族による監視体制』ぐらいにしか思っていないはずだからね。現状、僕達で対応できるなら飛行小隊の『真価』を見せる必要はない……というわけさ」
「……! 畏まりました」
セルビアは意図を理解してくれたらしく通信魔法を発動して、小声で通信を開始する。
その様子に、アーモンドが不思議そうにこちらを見つめた。
「彼女は何か特別な魔法でも発動しているのかい?」
「残念だけど、その質問には何も答えられないかな」
「……そうか」
少し残念そうにするアーモンドだが、すぐに表情を切り替えて「それはそうと……」と再び呟いた。
「最近のバルディア領では、獣人族の子供達がバルディア家直属の第二騎士団で働いているそうだね。彼女のように」
セルビアをちらりと見ると、彼は意味深にこちらを見つめてきた。




