レナルーテ再び
「リッド、酔いは大丈夫か」
「はい、今回は予め酔い止めも沢山持ってきていますから大丈夫です」
僕達は今、父上が運転する木炭車に乗ってレナルーテに向かっている。
やはり、父上は木炭車の運転が気に入っているようで、助手席にまたもやアレックスを乗せて運転を楽しんでいるようだ。
木炭車には荷台も牽引されており、そちらにビジーカなどは乗っている。
荷台の方が乗り心地は良いと思うんだけどね。
その時、僕の隣に座っているメルが嬉しそうな声を発した。
「うわぁ、にいさま。ちちうえの、うんてんすごいね。どんどんけしきがとおざかっていくよ」
「はは、そうだね。でも、顔を出したら危ないから気を付けてね」
「はーい。でも……わたしはそんなこともしないもん」
メルはそういうと、少し頬を膨らませる。
しかし、彼女は車の窓から外の景色を眺めてまたすぐに目を輝かせていた。
メルも最初はダナエと一緒に荷台に乗る予定だったんだけど、父上が運転すると聞くと「わたしも、ちちうえといっしょにのる」と嬉しそうに父上に抱きついたのだ。
その時の父上はとても嬉しそうな雰囲気を出していた。
まぁ、顔は厳格なままだったけどね。
父上が運転する木炭車に乗っている皆の位置としては、助手席にアレックス。
後部座席には僕とメルに加えて、小さくなっているクッキーとビスケット。
そして、メイドのダナエとディアナが乗っている。
レナルーテに向かっている木炭車は僕達が乗っているのを含めて計二台。
どちらも荷台を引いている状態だ。
レナルーテ訪問においてこの場にはいないけど、実はクリスにも同行を今回もお願いしている。
僕とファラで行われる『華燭の典』の場には、今後のレナルーテにおける有力華族が集まるはずだ。
その場において、クリスティ商会の代表であるクリスにもバルディア家側で参加してもらうことで、今後の取引をより円滑にさせる目的である。
クリスに事情を話した時には「承知しました。
しかし、国同士の繋がりというのは凄いですね。
リッド様とファラ王女のご婚礼ですか……」と驚嘆している様子だったなぁ。
ふと、今までのことを思い返していると気持ち悪さが襲ってきた僕は、周りにいる皆に向かって「ごめん。ちょっと寝るね」と呟くのであった。
◇
「にいさま……にいさま……レナルーテにはいったよ‼」
メルが僕を呼びながら揺さぶっている。
やがて、僕はゆっくりと目を覚ますと、体を伸ばして目を擦りながら起こしてくれたメルに優しく問い掛ける。
「う、ううん……ふふぁあ。メル、教えてくれてありがとう。もう着いたの」
「まだ、ついてはないけど、もうすぐじょうかまちだから、ちちうえからにいさまをおこすようにいわれたの」
「起きたか、リッド。流石にレナルーテの城下町に入るのに、寝たままにするわけにはいかん。辛いかもしれんが、起きているようにな」
メルの言葉に、父上が運転しながら補足するように話を続けた。
僕は、再度欠伸をしながら目を擦りながら答える。
「ふぁい……承知しました」
その後、僕は酔い止めの飴を口の中で転がしながらメルと一緒にレナルーテの景色を楽しんだ。
ちなみに、酔い止めの飴はメルも気に入ったらしく「すっぱいけど、おいしい‼」と微笑みながらパクパクと食べている。
……メルが虫歯にならないか少し心配だけど。
しばらくすると、いよいよレナルーテの城下町が見えてきて、父上は木炭車の速度を落とし始めた。
やがて、城下町の出入口に到着すると門兵と多少やり取りを行う。
その後、レナルーテの兵士による先導で城下町の内部に入って行く。
僕は二回目だけど、メルは初めてなので大はしゃぎだ。
そして、木炭車というこの世界においては世にも奇妙な乗り物を見て、ダークエルフの町民達が目を丸くしているのが木炭車の中から見ていてもよくわかる。
目が合うわけじゃないけど、僕は思わず照れ笑いを浮かべた。
「あはは、やっぱり目立っていますね」
「うむ。しかし、バルディアとの取引が可能性に満ちているという良い宣伝にもなるだろう」
運転しながら答える父上は、少し誇らしげだ。
なお、城下町から城まで続く道も第二騎士団の皆の活躍によって、整備済みである。
木炭補給所に関してはクリスティ商会の店舗があり、そこがバルディアから輸入した木炭や他の商品販売と木炭車の補給所を兼ねているというわけだ。
その後も、町民の皆さんからの興味津々な視線を受けながら父上の運転する木炭車は進み、やがて城内に入って行く。
城が見えてくると、メルが「うわぁ‼ にいさま、あのおしろ、すっごくおおきいね。でも、ふしぎなかたち……」と感動して嬉々とした声をあげたので、僕はそんな妹の様子に微笑みながらお城について説明してあげた。
「あの独特な壁は石垣っていうんだよ。帝国のお城とはまた違った作りをしているから、この機によく見ておくと良いよ」
「へぇ、そうなんだ。にいさま、ものしりだね」
メルは感心したような表情をしているが、僕達のやりとりを聞いていた父上が「ふふ……」と笑みを溢している。
恐らく以前、僕が父上に言われたことをメルに話したので父上的には可笑しかったのかも知れない。
そんなやりとりをしている内に、木炭車は以前に宿泊した施設である迎賓館にと辿り着く。
そこには、ザックとダークエルフのメイド達。
そして、軍服で身を包んだ少女の隣に控えた可愛らしいダークエルフの少女が顔を少し緊張した様子で待っているのが見える。
木炭車が停車して僕は降車すると、すぐに可愛らしいダークエルフの少女に駆け寄った。
すると、その少女は少しだけ耳が動き、顔を赤らめながら僕に向かって会釈する。
「リッド様、ご無沙汰しております。こちらから伺うべきところを来て頂きありがとうございます」
彼女の少し緊張した様子に少し戸惑うが、僕はすぐに満面の笑みを浮かべる。
「ふふ、そんなに固くならないで下さい。ファラ王女。それに、次に来るときは『迎えに来る』という約束を果たしただけです」
「……‼ は、はい。ありがとう……ございます」
特におかしなことは言っていないと思うけど、ファラは顔を赤らめて俯いてしまう。
その様子に、僕は首を傾げるのであった。




