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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第三章

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『華燭の典』に向けて

レナルーテのエリアス王から『華燭の典』を行うと親書が届いてから、僕はファラを迎える準備とレナルーテに彼女を迎えに行く用意と忙しい日々を送っていた。


そして今日は、アレックスからレナルーテのエリアス王を中心とした王族と一部の華族向けに作製をお願いしていたものが完成したと報告をもらい、工房をディアナやカペラと一緒に訪れている。



「リッド様、お待たせしました。こちらがご依頼の『懐中時計』でございます」


ドワーフのアレックスはそう言うと、僕の前に装飾が施された豪華で気品のある小さな木箱を丁寧に机の上に差し出した。


「ありがとう、アレックス。木箱を開けて、中をみてもいいかな」


「はい、勿論です。レナルーテの王族や華族にお渡しすると伺ったので、少し装飾の趣向も変えています」


説明を聞くと、僕は木箱の蓋を開け中にある懐中時計を確認する。


彼の言う通り今までとは少し違う印象を受ける装飾が施されており、一言で表すなら和風っぽい感じと言えばいいだろうか。


アレックスはレナルーテで鍛冶仕事もしていたことがあるので、趣向も把握しているのかもしれない。


僕は懐中時計の動きや装飾を細かく見ると笑みを浮かべて頷いた。


「うん……素晴らしいね。これなら、御父様や御母様も喜んでくれるよ」


御父様とはエリアス王、御母様はエルティア母様を指している。


懐中時計からアレックスに視線を移すと、どうやら僕が確認している様子に緊張していたようで強張った顔を崩して胸を撫で降ろした。


「よかったぁ……あ、いえ。お褒めの言葉ありがとうございます」


アレックスは表情を崩したが、ハッとしてすぐに表情をキリっとさせる。


彼の激しい表情の変化に僕は思わず笑ってしまう。


「あはは、緊張させちゃってごめんね」


彼は照れ隠しのように頬を掻きながら、僕が手に持つ懐中時計に視線を向けた。


「しかし、レナルーテからバルディア領にやって来た俺や姉さんの作った懐中時計が、王族の皆様の手元に行くと思うと感慨深いですね」


「そうだね。レナルーテにファラとの顔合わせに行ってなければ、アレックスとエレンにも出会えてないからね」


「本当ですね。リッド様と出会えていなければと思うと、ゾッとします。それと……姉さんがカペラさんと結婚することになるなんて思いもしませんでしたよ」


アレックスは僕の言葉に頷きながら視線をカペラに向けると、やれやれとおどけた仕草をしてみせた。


カペラは彼の視線に、微笑みながら会釈する。


「へぇ、アレックス。僕がカペラと結婚することになるなんて思わなかったってどういうことかな」


しかしその時、少し怒気の籠った声が部屋の出入り口から響いた。


僕とアレックスが声のした場所に視線を移すと、部屋のドアの前に仁王立ちするエレンが何やら怖い笑みを浮かべて微笑んでいる。


「べ、別に、深い意味はないよ⁉ 単純に姉さんがこんなに早く結婚するなんて思わなかっただけさ‼」


「ふーん。まぁ、いいけどね」


エレンは訝しい視線をアレックスに向けるが、すぐに笑みを浮かべ表情を切り替える。


そして、その視線を僕に移した。


「リッド様、お話し中にすみません。以前から相談を受けていた『雷属性魔法の力』を人為的に発生させる試みですが、試作機をいま動かしているので良ければ見ていきませんか」


「本当⁉ わかった、すぐに行くよ」


『雷属性魔法の力』と聞き、僕は笑みを浮かべてその場を立ち上がる。


すると、ディアナが怪訝な表情を浮かべて呟いた。


「リッド様、『雷属性魔法の力』を人為的にとは……どういうことでしょうか」


「ふふ、それは見てのお楽しみだね」


その後、僕達はエレンの案内で工房の敷地内にある大きな倉庫に移動した。


目の前にある大きな倉庫には大きく『三番』という記載がされており、屋根には煙突もある。


「中は少し暑いですから、きつかったらすぐに外に出て下さいね」


エレンはそう言うと、倉庫のドアを開ける。


同時に、中から結構な暑さを感じる空気が外に漏れだした。


「……思った以上に暑いね」


一言呟くと、エレンが苦笑する。


「はは、すみません。木炭エンジンを動かすのにずっと火をくべていますからね。でも、大分良い感じですよ」


倉庫の中に入ると、狐人族の子達が中心となり炉の火を調整するように木炭を入れていた。


そして、炉と繋がっている大きめの木炭エンジンが、けたたましく動きながら動力となり『二つ横に並んだ縦置きの大きな円盤』を動かしている。


その時、粉塵ゴーグルを身に着けている狐人族の一人がこちらに気付いたようで駆け寄って来た。


「リッド様、それに皆さん。わざわざおいで下さいまして、ありがとうございます」


「やぁ、トナージ。エレンから『発電機』の試作機が出来たと聞いてね。どんなものか見に来たんだ」


トナージに答えると、僕は改めてエレン達が開発中である『発電機』に視線を移す。


そう、人為的に『雷属性魔法の力』を創り出すとは……つまり前世の記憶で馴染み深い『電気』をこの世界でも生み出そうというわけだ。


実は、木炭車を開発した目的も此処に繋がっている。


発電機を含め、今後の『動力』となる『内燃機関』の開発自体が大きな目標であり、木炭車は有効活用の一つだった。


だけど、ここまで早くことが進んだのは、ドワーフのエレンとアレックスのおかげである事は間違いない。


その時、僕の横にいたディアナが不思議そうな表情で発電機を見ながら呟いた。


「……何やら、グルグルと回っていますけど、あれだけで『雷属性魔法の力』を引き出せるのですか?」


「はは、説明は省くけどちゃんとした仕組みはあるよ。ところでエレン、一緒にお願いしていた物は作れそうかな」


ディアナの言葉に軽く返事をすると、僕はエレンに視線を移して問いかけた。


すると、エレンは笑みを浮かべた後、少し険しい表情を見せる。


「いやぁ、そっちはまだまだです。アレックスにもこっちの作業を手伝ってもらっているんですけどね。僕は武具や木炭車の生産。アレックスは懐中時計の生産と……人手は増えましたけど、それ以上に忙しくなって、また人手が足りない感じです」


「そっか、それならしょうがないね。だけど、発電機の試作機がここまで出来ているなら、電気を溜められる『蓄電器』の目途はどうかな」


『蓄電器』……つまり、バッテリーや電池のことである。


発電することが出来ても、それを有効活用する為には『蓄電器』の存在が必要不可欠だ。


発電機がここまで出来ているなら、蓄電器の目途も立ったのではないか。


そう思いエレンに問い掛けるが、反応したのは彼女の弟であるアレックスだった。


「あ、そうだ‼ 俺、そのことでご相談したいことがあったんですよ。リッド様の仰る『蓄電器』って要は電気を溜めるものですよね」


「そうだね。その認識で良いと思う」


アレックスは僕の答え聞くと、確信めいた笑みを浮かべた。


「それでしたら、『雷光石』を蓄電器として試したいのですが、クリスさんにお願いして追加で仕入れても大丈夫ですかね」


「……? ごめん『雷光石』って何かな」


『雷光石』というものについて聞き覚えがなかった僕は、アレックスの言葉に首を傾げる。


すると、横に控えていたカペラが補足するように説明を始めた。


「リッド様、『雷光石』とは雷の力を宿した『魔石』と呼ばれる石の一種でございます。しかし、扱いが難しいうえに、力を使い果たすとただの『黒い石ころ』になってしまいます。その為、流通はあまりしておりません。故に、一般的には価格と商品が割に合わないと言われているものです」


アレックスの『雷光石』という言葉だけだと聞き覚えが無かった僕だけど、『魔石』の『雷光石』となると何やら聞き覚えがあるような気がする。


なんだっけと、僕は口元に手を充てながら俯いて、思い出そうと考えに耽る。


「……魔石……雷光石……あ⁉ ひょっとして、アレのことかな」


僕が突然発した言葉に、周りにいる皆がきょとんした表情を浮かべる。


その様子にハッとした僕は、慌てて取り繕いながら咳払いをするとアレックスに問い掛けた。


「それで、アレックスはその『雷光石』を仕入れて何をするつもりなんだい」


「はい。『雷光石』は、カペラさんの言う通り雷の力を使い果たしたら『黒い石ころ』になります。ですが、もう一度『雷の力』を送り込めばまた使えるようになります」


彼が話し終えるとカペラとディアナは驚いたような表情を浮かべた。


「そのような話はあまり聞いた事がありません。何故、そう思ったのでしょうか」


「私も騎士団で『雷光石』の話を聞いたことはあります。しかし、失礼ながら再利用できるという話は聞いた事がありません」


カペラとディアナが怪訝な表情を浮かべてアレックスに答えるが、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「勿論、そのままではダメですね。雷光石を『加工』しての話です。その技術はすでに、鳥人族のアリア達に渡した『魔槍弓センチネル』で用いていますから。ただ、リッド様の使用方法に応じてもう少し研究する必要があります。リッド様、どうでしょうか」


「リッド様、僕からもお願いします。アレックスの言う通り、『魔槍弓センチネル』に使った技術を応用すれば、リッド様が求める蓄電器に近いものは作れると思います」


エレンが補足するように言葉を発する。


二人の言動を見た僕は、ゆっくりと頷き微笑んだ。


「わかった。じゃあ、『雷光石』の仕入れは僕からもクリスに言っておくよ」


「……‼ リッド様、ありがとうございます」


仕入れを了承すると同時に、アレックスがペコリと頭を下げた。


僕は慌てて首を横に振りながら彼に頭を上げてもらうと、優しく声を掛ける。


「いやいや、無理を言っているのこっちだからね。今後も何か気になることがあったら気軽に相談してね」


「はい、承知しました」


アレックスが嬉しそうに笑みを浮かべる中、僕の心の中にはある閃きが生まれていた。


もしも本当に『雷光石』が僕の知っている『雷光石』であり、電池やバッテリーの代用品として使え、しかも今は価値が認められていない。


ということであれば、これは新たな可能性になるだろう。


僕はバルディア領の発展に繋がる発見と閃きを得たことに、心の中でニヤリとほくそ笑むのであった。






本作を読んでいただきましてありがとうございます!

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247話時点 相関図

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
バッテリー結構作るの手間だしそれ使うより、魔石で代用出来るならそっちの方が魔法世界っぽくて良いね。
[気になる点] > 「はい、勿論です。レナルーテの王族や華族にお渡しすると伺ったので、装飾の少し趣向も変えています」 少し流れが悪く感じます。ちょっと変更して 「装飾 も 少し趣向 を 変えています…
[一言] 電気溶接の技術に手が届きそうな気が リベット止めって普及してたっけ あと、雷光石の性能次第でEV化の波が1900年代でも電気自動車有ったみたいだし アルミも電気分解使う前は 金より高かった …
感想一覧
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