第二騎士団の活動報告
僕は今、本屋敷の執務室でバルディア第二騎士団の活動状況を報告する為、いつものように机を挟んでソファーに父上と対面に座っていた。
深呼吸をした僕はおもむろに言葉を紡ぐ。
「父上、では第二騎士団の活動報告をさせて頂きます」
「うむ」
父上が厳格な面持ちで静かに頷いたことを確認した僕は、第二騎士団についての報告と説明を始める。
第二騎士団が本格的に稼働してから、バルディア領に訪れた変化は劇的だった。
まず、領内からレナルーテに続く道を最優先で、土の属性魔法を使用できる子達がどんどん平らで強固な道にしている。
近日中には、国境の砦付近まで綺麗な道になるだろう。
すでに綺麗になった道では『木炭車』の燃料補給場所も建設が進められている。
これも、近日中には完成するのでレナルーテとバルディア領の国境地点には、『木炭車』で問題なく行くことが出来るようになる。
獣人族の子供達が整地する時に使用する魔法は、僕が基本を創り出して、彼らに教えた魔法だ。
地面をただ平らにするだけでなく、地面固めも同時に行い強固な地面に出来るというもの。
一応水はけも考えて、道の中央が少しだけ盛り上がっており水は左右の端に流れるようになっている。
土の属性魔法を使って主に道を整備してくれているのは、第二騎士団陸上隊の第一分隊と第二分隊だ。
第一分隊は、熊人族のカルアを隊長とした分隊で仕事が早い。
第二分隊は馬人族で、少し寡黙な『ゲディング』という男の子が隊長をしてくれている。
魔法は熊人族の方が上手だけど、馬人族は移動速度が速い為、活動範囲が広い。
熊人族が領地に近い道を整地。
馬人族が領地から少し離れた部分を整地するという役割分担で、効率良く作業を進めてくれている感じだ。
ちなみに、土の属性魔法を使う時は地面にしゃがみ込み、両手を地面に付けて発動させる。
これは、地面に手を付けていた方がより魔法を覚えやすいと思ったからなのだけど、思った以上に使いやすいのか、皆は魔法発動に慣れてもその体勢を崩さない。
その為、彼らが全員横並びでしゃがみ込み、両手をつけながら魔法を発動させる姿は中々に絵になっている。
道の整備は想像以上に、領民にも好評だ。
最初は第二騎士団の子供達の姿を見た領民は、訝しい視線を向けていたけど、彼らが魔法で道を綺麗にすると目を丸くする。
結果、第二騎士団の活躍は瞬く間に領内を駆け巡った。
会談と今後のことを考えて、レナルーテと繋がる道を最優先で作業をしているけど、領内のあちこちから道の整備依頼は来ているので順次対応していく予定だ。
また、第二騎士団陸上隊の第三分隊と第四分隊が『樹の属性魔法』で『樹木成長』を使い、木炭の原料となる木材を生産。
それを、制作技術開発工房にて『木炭』に加工する作業も行っている。
これにより、領内においての『燃料』が安定して地産地消できるようになった。
勿論、クリスティ商会を通じて販売も行っているので、これもバルディア家の収益に繋がりつつある。
『樹の属性魔法』を扱う、第三分隊の隊長は牛人族のトルーバだ。
彼は、牛人族の男の子では一番小柄だけどリーダーシップにとても優れており、第三分隊を上手に引っ張ってくれている。
同様に『樹の属性魔法』を扱う第四分隊は、猿人族の『スキャラ』という女の子が隊長だ。
スキャラは、鉢巻戦後の訓練で頭角を見せ始めた子である。
普段は大人しい感じの子なんだけど、訓練中や魔法を使う時に何故か少し性格が荒くなるそうだ。
ちょっと変わったところがあるけど、とても優秀な女の子であることには間違いない。
ちなみに、樹の属性魔法の『樹木成長』に関しては、食べ物になる果物や野菜などでも試したけど、ある問題が発覚した。
それは、『樹木成長』だけで育てたものは『あまり美味しくない』という問題である。
リンゴで言うなら、甘みがなく蜜もないスカスカなリンゴという感じだ。
『食べられなくはないけど、好き好んで食べたくはない』という感じなので、背に腹は代えられない飢餓対策には良いかもしれないけど、売り物にはならない。
木からなる果実であれば、成木にした後の工夫次第で味が変わる可能性はあるけど、その点にはまだ時間がかかりそうだ。
辺境特務機関に関しては、バルディア第二騎士団の情報を安易に他国へ漏らさないように動いてもらっている。
特務機関はアリア達姉妹の航空隊と連携を取りながら、迅速に動いてくれており、すでに人攫いの類やスパイと思われるような者達の取り締まりにも成功した。
取り締まりに関しては、第一騎士団とも連携をしているので特務機関だけの手柄ではない。
それでも、設立して間もない中の実績としては十分だろう。
父上も、人攫いやスパイ活動をしてくる輩の取り締まり強化に繋がり、実績がすでに出たことはとても喜んでくれた。
しかし、父上が一番関心を持ち可能性を感じたのはアリア達姉妹で組織した『航空隊』であった。
勿論、『通信魔法』が使えることによって、その可能性が広がった部分は強い。
それでも、航空隊が先行偵察を行い、第一騎士団に事前に情報を伝えることで現場効率は段違いになったそうだ。
結果、騎士達の環境改善にも繋がったようで、アリア達姉妹の皆は第一騎士団から大人気の存在になっているらしい。
僕が大体の報告を終えると、父上は感嘆した面持ちで頷いた。
「ふむ……今のところ収益が見込めているのが地産地消となる『木炭』だけか。しかし、永続的に得られることを考えれば、第二騎士団設立はそれだけでも十分に価値がある。それに、道の整備は迅速な行動を可能とするのに必要不可欠だ。魔法が使用可能になる騎士団がこうも恐ろしいとはな」
父上の言葉に、僕は首を軽く横に振り不敵な笑みを浮かべて答えた。
「いえいえ、これはまだ始まりに過ぎません。これからが肝心ですよ、父上。第二騎士団の皆が、これから順調に成長していけばより活動の幅は広がります。それに、今回の教育課程を領民の子供達に施せば可能性はさらに広がると思います」
獣人族の子供達に施した『教育課程』は試行の段階に過ぎない。
すでに、サンドラ達が今回の教育課程にあった問題を洗い出して改善点を確認中でもある。
改善点の修正が終われば、次はいよいよバルディア第一騎士団に所属する騎士の子供達に教育課程を施す予定だ。
この件も、原案を父上に提出して了承をもらっている。
今のまま順調に進めば十年後のバルディア領は、帝国内において様々な影響力を持った領地になるはずだ。
そうすれば、『断罪』という運命にもきっと立ち向かうことが出来るだろう。
父上は、僕の答えを聞くと『やれやれ』と言った様子で呟いた。
「リッド、お前は本当に末恐ろしい息子だよ。魔法に関しても、ただ使えるだけでは意味がない。どう使うかが重要だ。お前が開発した魔法と使い方は、今までの常識では考えられないものばかりだった。数年後……いや近いうちには帝国内における魔法の認識も大きく変わるだろう」
父上の言葉に、僕は微笑みながら頷いた。
「ふふ、そうでしょうね。その時、最先端を行くのがバルディア領でありたいと思います。しかし、父上。僕は数年後よりもまずは、母上の病の件が気になります。レナルーテとの会談はどうなりそうでしょうか」
「うむ。その件についてもこれから話そう」
僕の問い掛けに、父上は表情を厳格にしてから頷く。
そして、話はバルディア第二騎士団の活動報告から、レナルーテとの会談について移っていくのであった。




