次の相手
兎人族との戦いが僕の勝利で終わり、会場は観客の大歓声に包まれていた。
僕はその中で、先程魔法で場外の水堀に吹き飛ばした彼女達がいる場所に向かっている。
やがて、彼女達が水堀から這い上がっている様子が見えてきた。
二人の獣化状態は解除され、普通の姿に戻っている。
そして、距離的に聞こえないけど、二人は何やら唖然とした面持ちを浮かべて何かを話しているようだ
「はぁはぁ、くそ……なんなんだ、リッド様のあの強さ」
「オヴェリア、リッド様は……絶対に貴族の皮を被った得体の知れないなにかよ」
何を話しているのだろうか?
彼女達に近付いていくと、二人は僕に気付いてギョッとした顔を浮かべる。
そして、すぐに表情がバツの悪そうな面持ちに切り替わった。
そんな彼女達に僕は苦笑しながら声を掛ける。
「君達は素晴らしいね。それに、今後は僕の魔法も出来る限り教えるからさ。きっと、今よりもっと強くなれると思うよ」
彼女達は僕の言葉を聞くとハッとして、驚愕の表情を浮かべると僕に怪訝な視線を向ける。
そして、オヴェリアが恐る恐る僕に問い掛けた。
「本当にリッド様の魔法を教えてもらえんのか……?」
「うん、勿論だよ。でも、その代わり約束は守ってね」
『約束』という言葉を聞いた二人は顔を見合せてきょとんとした顔を浮かべる。
僕は呆れ顔でやれやれと首を横に振った。
「もう忘れたのかい……オヴェリア。君は僕に忠誠を誓うと約束しただろ? なら、君に何を教えても問題はないさ」
「……はは、あはははは‼ リッド様、あんた本当に変わってんな。あたしの言う事を信じるってか。いいぜ、気に入った。そうだな、約束通り忠誠でも何でも誓ってやるよ」
オヴェリアは、嬉しそうな笑顔を浮かべて僕に答える。
アルマはその様子を嬉しいような、少し寂しいような眼差しで彼女を見つめていた。と、その時、可愛らしい感じの声が後から聞こえ思わず振り返る。
すると、そこには耳が垂れた兎人族のラムルがディリックに肩を貸しながら立っていた。
「すみません。僕達のことを忘れていませんか?」
「あ……あはは、勿論だよ。ラムルとディリックもね。二人共素晴らしかったよ。でも、皆はとりあえず鉢巻戦が終わるまで武舞台の外で休んでいなよ」
ラムルとディリックの二人は頷いて「はぁ、そうさせて頂きます」と呟き、武舞台を降りる。
オヴェリアとアルマもその場でおもむろに立ち上がると、武舞台を降りた。
その時、手を叩く音が聞こえてふいに会場を見上げると、彼女達に拍手を送る人達が目に入った。
拍手をしてくれていたのは父上やディアナ等、観覧席にいる皆だ。
父上達の拍手の音は観客に伝わり、兎人族の健闘を称えるように会場に伝播していく。
その様子に、彼女達を含めた兎人族の皆は、満更でもない表情を浮かべながら武舞台を後にする。
僕は、オヴェリア達を見送ると武舞台の中央に振り返り悠然と歩を進めて行く。
「さて、次は誰が相手をしてくれるのかな?」
高らかに声を上げてみるが反応は薄い。
初手の水槍、ラガード達とオヴェリア達との激戦の混乱と流れ弾によって、武舞台に残っている子供達は大分減っている。
恐らく、残っているのは各部族で、二~四名程度だろう。
ただ、上空でずっと様子見をしているアリア達は、いまだに減っていないけどね。
しかし、僕とオヴェリア達の激戦を見たせいか、彼らは尻込みをしてしまって中々仕掛けてこない。
ふむ、ならばこちらから嗾けるか。
僕は、目を瞑り深呼吸をする。
そして、ダナエ達との練習で得た、僕がもっとも冷酷に見える顔を浮かべおもむろに声を響かせた。
「いいだろう。君達が闘う意志を見せなければ、僕は武舞台にいる皆を蹂躙し尽くすだけだ……‼」
言葉と同時に、僕は風の属性魔法を駆使して自分中心に暴風を発生させる。
さらに、土の属性魔法も使い、武舞台に亀裂っぽい傷を作った。
中々の演出だとおもう。
その後、武舞台にいる皆を一瞥する。
しかし、皆は予想外にも顔を思いっきり引きつらせていた。
(……やり過ぎたかな?)と、僕が心の中で呟いたその時、一人の狼人族の少女と、彼女に付き添う少女と少年の狼人族。
計三人が僕の前にゆっくりとやってきた。
「シェリルか……」
「リッド様……私達がお相手させて頂きます……‼」
彼女はそう言うと、静かに構える。
恐らく何か考えがあるのだろう。
僕は、シェリルの目に強く暖かい意志が宿っているように感じるのであった。
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