音の秘密
「さて、誰もいない場所って言われたから『鉢巻戦』の会場に来たけど……アリアは何を教えてくれるのかな?」
「えへへ、昨日お兄ちゃんに言ったでしょ? 『音の秘密』だよ」
執務室でアリア達との『強化血統』についての話が終わると、アリアから僕とディアナに内緒で教えたいことがあるから誰も来ない広い場所に行きたいと言われたのだ。
執務室ではダメ。
出来れば屋外が良いという希望もあったので近場で考えた結果、この場所になったというわけだ。
アリアの言葉に僕とディアナが顔を見合せてきょとんとすると、アリア達は楽しそうに笑う。
すると、アリアが不敵にニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふ、お兄ちゃんって『雷の属性素質』を持っているでしょ?」
「へぇ……凄いね。確かに持っているけど、どうしてわかったんだい」
内心では驚愕しているが、僕はそれを表には出さないように答えた。
他人の属性素質を感じることが出来るなんて聞いた事が無い。
恐らく、サンドラ達も知らないだろう。
アリアは意味深に笑いながら話を続ける。
「言ったでしょ。『音の秘密』だよって。昨日お兄ちゃんは、私が出した魔法を感じたんだよ。こんな風にね?」
アリアが答えると同時に、『バチ』っという昨日と同じ音が聞こえた。
いや、これは聞こえたというより『感じる』もしくは『感じた』という言い方が正しいかもしれない。
ディアナは、何も感じなかったようできょとんとしている。
僕は、今度は驚きを隠せず彼女に視線を向けた。
「驚いたな。今のは……雷の属性魔法の一種なのかい?」
「うん、私も詳しくはわかんないんだけど、この魔法は『雷の属性素質』がないと使えないの。でも、慣れると『人の気配』とか『気持ち』とか色んな事がわかるようになるんだよ。お兄ちゃんと初めて会った時、この魔法でとっても優しくて温かい気持ちを感じたの」
彼女の説明を聞いた僕は、思わず目を丸くする。
雷の魔法にそんな使い方があるなんて思わなかった。
それに、アリアが魔法で僕の気持ちを感じとっていたなんて驚きを隠せない。
僕が驚愕している様子を見て、アリア達は楽しそうに笑った。
「あはは‼ お兄ちゃん、すっごく驚いているでしょ? 顔もだけど、心も驚いているのがわかるよ」
「そうですね。お二人共、驚いているのを感じます」
「……うん、感じる」
アリアの言葉に、シリアとエリアも頷いている。
つまり、彼女達も雷の属性素質を持ち、アリアと同様の魔法が使えるという事だ。
目の前で見せてもらった魔法に驚いていた僕だけど、ハッとして咳払いをしてからおもむろに尋ねた。
「皆、『音の秘密』を教えてくれてありがとう。でも、どうして教えてくれたんだい。僕達に教えない方が色々便利だったかもしれないよ」
僕の言葉を聞いたアリア達は、首を横に振ると微笑んだ。
「違うよ、お兄ちゃん。この魔法はね、実はすっごく難しいの。だから、教えても私達以外は誰も真似できないんだ」
彼女の言葉に、シリアとエリアが頷きながら言葉を続ける。
「アリア姉さんの言う通りです。それに、私達も使えますけど、感じる力は個人差があります。私達の姉妹の中では、アリア姉さんとイリア姉さんが群を抜いて上手でした」
「……うん、一番うまかったのがイリア姉」
「なるほど……ね」
アリア達の説明を聞いた僕は考え込むようにその場で俯いた。
恐らく、アリア達が扱っている『雷の属性魔法』は鳥人族。
もしくは、彼女達がいた『パドグリー家』における秘匿魔法の一種だろう。
あと、ビジーカやサンドラ達の話を聞く限りだと彼女達が、もし僕のところに来なければ亡くなっていた可能性は非常に高かったそうだ。
それほど、弱っている状態で奴隷としてバルストに出したということは、彼女達が死ぬことが前提だったはず。
つまり、いま彼女達が見せてくれている魔法は『鳥人族』もしくは『パドグリー家』からしたら、とんでもない情報漏洩になるのではないだろうか?
僕が考え込んでいると、何やら名前を呼ばれていることに気付いてハッとする。
「え……あ、ごめん。呼んだかな?」
「もう……さっきからずっと『お兄ちゃん』って呼んでいたよ。折角、この魔法を教えてあげようと思っていたのにさ。私達の魔法に興味なかった?」
アリアは答えると頬を膨らませて口を尖らせた。
「いやいや、そんなことないよ‼ アリア達の魔法を是非、教えてほしいな。お願いしても良い?」
「本当? ふふ、いいよ。それに……お兄ちゃんは私の音を聞いたから絶対に出来ると思うんだ」
僕の答えにとても嬉しそうに微笑んだ彼女は、ふとその視線をディアナに移す。
「お姉ちゃんはどうする。難しいけど、やってみる?」
「……私ですか? 私は……残念ながら雷の属性素質を持っておりませんから、お気持ちだけ受け取ります」
しかし、ディアナの答えにアリアを含めた三人は顔を見合すと勢いよく首を横に振った。
「うそ⁉ お姉ちゃん、雷の属性素質を持っているって気付いてないの?」
「この感覚は、間違いなくお持ちだと思います」
「……うん、他の属性素質はわかんないけど、雷の属性素質は絶対あると思う」
彼女達は目を輝かせながら、ディアナに近寄っていく。
さすがの彼女もいきなりのことで驚きを隠せず、たじろぐ様子を見せている。
僕は皆のやりとりを見て笑みを浮かべると、ディアナに声を掛けた。
「あはは、折角だからディアナもやってみようよ。この間、魔法を僕と勉強するって言ったじゃない。それに、アリア達がここまで言うんだからさ、やってみる価値はあると思うよ」
「リッド様がそう仰るのでしたら……」
この後、僕とディアナの二人は早速、アリア達から魔法を教えてもらうことになる。
だが正直なところ、アリアの教え方はあまりに抽象的に過ぎた。
おかげで、僕とディアナの二人は絶望して、一時は諦めようとすることになる。
だけど途中から、見かねたシリアとエリアが説明に加わってくれた。
二人が言うコツとしては、微弱な電気を全身に纏いつつ、耳の奥に魔力を集中させる感覚らしい。
ちなみに、アリアの説明は「ここをキーンとして、体でビビッと感じるんだよ」という天才肌な教え方だった。
僕は、三人に言われたことを集中してしばらく行う。
すると、今までにない何かを感じる感覚に突如襲われた。
突然、バチっという音が頭の中で響いて、温かさやイラっとする気持ちを感じる。
さらに、驚いたのは周りにいる人の気配をとても強く感じ始めたのだ。
「……これが、アリア達の使っている魔法なのかな?」
「うわぁ⁉ お兄ちゃん、やっぱり凄いね‼ その感覚を忘れちゃダメだよ。その感覚にどんどん慣れていくと、すぐに色んな事がわかるようになるんだ」
「へぇ……なるほどね」
アリアは、僕がコツを掴み始めことに驚嘆した面持ちを浮かべて喜んでくれる。
ふと、ディアナを見ると彼女は大分苦戦している様子だ。
僕は、彼女に自分が感覚を掴み始めたことを伝え、それを掴むまでに行ったイメージを出来る限り具体的に伝えた。
ディアナは半信半疑な様子だったが、「さすが、リッド様ですね。私もやるだけ、やってみます」とそれからも続けた。
◇
ディアナは、僕が土魔法で作った椅子に綺麗な姿勢でずっと座っている。
その姿は、まるで瞑想するような感じだ。
すると、何か変化があったのか、彼女がその場で突然立ち上がって驚愕の表情を浮かべた。
「こ……これは……」
アリア達は、すぐに彼女の変化に気付いたようで嬉々とした声を上げた。
「すっごーい‼ お姉ちゃんも出来たんだね。ね、雷の属性素質を持っているって言ったでしょ」
「本当だ。できていますね。ディアナ姉さん、おめでとうございます」
「……姉様、おめでとう」
「三人共……ありがとうございます」
彼女は少し困惑した表情ではあるが、アリア達に向かってペコリと綺麗な所作で一礼する。
そして、僕に視線を移すと、嬉しそうに微笑んだ。
「まさか、私が本当に雷の属性素質を持っているとは夢にも思いませんでした。今後はリッド様の言う通り、魔法もしっかり学んでいきたいと思います」
「うん、僕も出来る限り協力するよ。ディアナ、一緒にがんばろうね」
こうして、僕は新しい魔法と可能性を得た。
そして、ディアナは自身の新しい属性素質を発見したのに伴い、魔法の修練に向けて気合が入ったようだ。
何より彼女が今度、属性素質をエレンの開発した機械で調べると言っていたのは微笑ましかった。
……ちなみにこの日以降、ディアナの『勘』が以前にも増して突然鋭くなった。と、ルーベンスが困惑しながら戦々恐々としていたことを僕が知ったのは、大分後のことである。
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