狼人族の姉弟③
「……此処からの話は、絶対に誰も言わないと約束できないと話せない。それこそ、君達が本当に自分の命を僕に預ける程の覚悟が無ければね。でも、僕の話を聞く覚悟があれば……ラスト、君を救う事に全力を掛けると、改めて約束するよ。どうする、話を聞く覚悟はあるかな?」
姉弟は顔を見合せると、力強く頷き、最初に声を発したのはラストだった。
「あります。奴隷としてやって来たこの地で、俺の病名がわかったのも、きっと何かのめぐり合わせだと思います。それに……どの道、此処に来られなければきっと……」
ラストが決意を述べたのを見届けると、シェリルは僕の前に跪き、僕を真っすぐに見上げる。
「私は、もうリッド様に一生を捧げるとお誓いしました。それに、先程のお言葉を返すようですが、私は自身を安売りなどしておりません。リッド様の『徳』に感服した故、私の意思です。改めてお願い致します。どうか、弟を救う方法をお聞かせ願います……‼」
僕は二人の答えに悠然と頷いてみせる。
だけど、内心では彼らが想像以上に畏まった態度をみせたので、「これは、少し煽り過ぎたかな……?」と心の中で反省していた。
勿論、僕の言った言葉に嘘はない。
でも、彼らがここまで従順たる姿勢を見せるとは思わなかった。
それにしても、二人は他の獣人族の子供達と比べて、言葉遣いや態度などがしっかりしている気がする。
狼人族の子供達は皆こんな感じなのかな。
そう思いながら、僕は彼らに説明を始めた。
まず、二人には僕の身内に、『魔力枯渇症』を患い、闘病中の人が居る事を打ち明ける。
その身内を救うため、魔力枯渇症について治療方法の研究を始めたこと。
さらに、治療方法を探す過程で『魔力回復薬』の開発に成功。
これは、完治は出来ずとも現状では唯一の対症療法であり治療方法の確立まで時間を稼ぐことが出来る。
しかし、『魔力回復薬』は様々な国が作ろうとしているものである為、もし公表すれば原料の高騰、奪い合いは目に見えていた。
その為、身内の治療方法が確立するまでは内密にしているというわけだ。
勿論、治療薬が完成して身内の快復に目途が付いた時点で世間に公表するつもりであるとも話した。
二人は、僕の身内に『魔力枯渇症』の患者がいる事。
また、研究について自主的に行っている事に驚き、目を丸くしている。
僕は説明し終えると、あえてニコリと笑みを見せた。
「さて、ここまで話せば大体わかると思うけど、何か質問はあるかな」
「……ありません。ですが、リッド様は、私達に何をお求めになるのでしょうか」
「姉さんの言う通りです。俺なんか、魔力枯渇症で出来る事なんて限られています……とても、お役に立てるとは……」
僕の話を聞き終えた二人は、顔を見合せると自信なさげに俯いてしまう。
そこで、僕は彼らにお願いしたいことの説明を始める為、まずラストに視線を向けた。
「とんでもない。ラスト、君には『魔力枯渇症』の治験に参加してもらいたいんだ。勿論、治験と言っても研究になるから、見方によっては人体実験と言えるかもしれない。辛く、苦しい事も多いと思う。それでもやってくれるかい?」
僕は自分で言っていて卑怯だと思う。
彼らの立場を考えれば、『命令』をすれば従わざるを得ない。
でも、あえて決断を委ね、誘導することで僕の命令ではなく彼の意思となる。
そうなれば、多少の辛い治験であっても、彼は自ら進んで協力してくれるようになるだろう。
そして、ラストは僕の言葉に頷いた。
「俺、やります‼ 少しでもリッド様のお役に立てるのであれば……姉さん同様、この身を捧げます」
「ありがとう、ラスト。その言葉、本当に感謝するよ」
僕はラストに微笑みながら答えると、次はシェリルに視線を移す。
「シェリル、君にして欲しい事は二つあるんだ」
「はい。私に出来る事であれば、なんなりとお申し付けください」
シェリルの目は、強い決意の色が宿っている。
その目を見据えながら、ラストに伝えたように僕は言葉を紡ぐ。
「そう言ってくれると心強いよ。一つ目は、此処に来た獣人族の皆の様子を毎日、僕に教えて欲しい。僕達には話せないこともあるだろうからね。二つ目は、君達に教える事に積極的に取り組んで欲しい。どんなに厳しく、辛くても、君が前向きに取り組むことで皆を引っ張って欲しいんだ。きっと君の想像以上に辛いかもしれないけど、約束出来るかな?」
「問題ありません。必ず、リッド様のご期待に応えて見せます」
彼女は僕に頷き、力強く答える頭を垂れる。
シェリルとラストの二人が畏まる様子に、僕はあどけない笑みを浮かべて喜ぶのであった。
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