狼人族の姉弟②
狼人族の男の子が寝ているベッドの横に立った僕は、優しく声を掛けた。
「寝ているところ、ごめんね。ラスト、体調はどう」
「はい。来たときよりも大分良いと思います。リッド様、何も持っていない俺なんかの為に……ここまでして頂いてありがとうございます。必ず、御恩をお返し致します」
ラストは、シェリルの弟だ。
彼はきついだろうに、答えながら無理やりに体を起こそうとしている。
でも、シェリル同様の赤い目からはとても強い意思を感じた。
なお彼の容姿は、姉のシェリルと同じ白い肌に、白い髪と耳。
尻尾もあるだろうけど掛け布団に隠れて良く見えない。
体を必死に起こそうとする彼を、姉のシェリルは静かに見守っているようだ。
だけど、僕はそれを制止して、姉弟の二人に視線を向ける。
「無理に起きなくて大丈夫だよ。それよりも、辛いかもしれないけど大切な話が君達にあるんだ。『魔力枯渇症』という病気を君達は知っているかな」
シェリルとラストはお互いの顔を見合せた後、二人揃って首を軽く横に振った。
「すみません。私もラストもそういった事は、あまり知識がなくて……でも、それがラストの病気なんですか」
「うん。そうだね。知識についてはこれから学んでくれればいいから気にしないで。それよりも、この『魔力枯渇症』というのが厄介なやつでね……」
姉弟は病名がわかった事で、どことなく『病気が治るかも知れない』という期待に満ちた雰囲気があった。
でも、その淡い期待はこれから打ち砕かれることになる。
僕は丁寧に、優しく、でも厳しい現実を二人に説明していく。
魔力枯渇症は不治の病であり、治療方法は確立されておらず、確実に死に至る病である事。
そして、ラストを診察した結果、十中八九で魔力枯渇症だと伝えた。
先程まで、淡い期待に満ちた雰囲気を纏っていた彼らは一転、信じられないといった絶望の表情を浮かべている。
その中、シェリルが重々しく口を開いた。
「そんな……本当に治療方法はないんですか……」
「残念だけど……まだ治療方法は存在しないんだ」
僕の言葉に、シェリルの表情が暗く沈んでいく。
その様子を見ていたラストは、辛いだろうにニコリと笑みを浮かべた。
「リッド様、ありがとうございます。自分の病気がわかっただけでも、良かったと……思い……ます」
ラストは言葉を紡ぎながら、気付けば両手を拳にしながら体を震わしている。
そして、言い終えると、目から涙が止めどなく溢れ出て、必死に涙を拭いながら感情を吐露した。
「なんと…なく、わかっては……いたんです。この病気は、何か普通じゃないって……毎日、体の中から何かが……抜け落ちていくんです。それと合わせて…力が入らなくなって……でも、きっとなんとかなるって……そう……思って……でも、俺……」
彼は、嗚咽が激しくなりそれ以上、言葉が紡げなくなってしまう。
その様子を横で見ていたシェリルは、目に涙を浮かべながら力強い眼差しを僕に向ける。
「リッド様、ここまでして頂いたのに、厚かましいことを承知でお願い致します。どうか、何か方法を探して頂けないでしょうか。弟を助ける為なら、私は……私の人生すべてを……」
僕は彼女が言葉を発する前に、優しく右手で彼女の口を塞ぎ強制的に遮ると二人に微笑んだ。
「そこまで。シェリル、君は初めて会った時から自分を安売りしすぎだよ。もっと、自分を大切にしてあげて。それに、魔力枯渇症は治療方法がまだないのは事実だけど、研究はされていて、完治は無理でも延命はできる」
「……⁉ どういうことでしょうか……」
答えたのは、ラストだ。彼は僕の言葉を聞いて、目に小さな光が宿った気がする。
僕はシェリルの口を塞いでいた手をゆっくり降ろす。
しかし、彼らに新たな説明を始める前に、僕は微笑みから一転、真剣な面持ちを浮かべ重々しく問いかけた。
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