鳥人族の姉妹
「く……皆、怪我はない?」
「は、はい、ありがとうございます、リッド様」
僕の後ろにいるディアナやカペラが心配そうな面持ちを浮かべている。
彼等は魔法が発動される時、僕の前に出ようとしたが咄嗟に制止した。
正直、魔障壁に関しては二人より魔力量がある僕の方がすでに耐久力があるからだ。
しかし、僕と変わらない歳で、しかも無詠唱であれだけの魔法を使える子がいるなんて思いもしなかった。
僕は改めて目の前にいる鳥人族の少女に視線を移す、彼女は魔法を防がれた事に驚き、動揺を露わにしている。
「……なんで⁉ どうして、あっちに行ってくれないの? やっぱり……やっぱり私達をいじめるんだ‼ みんな……皆を失敗作、期待外れっていじめて……そして、いらなくなったらまた私達を捨てるんだ。そんなの、もういやだよ……だから……だから、お姉ちゃんの私が皆を守るんだ……‼」
彼女は言い終えると、僕に再度両手を差し出す。
恐らく先程と同じ魔法を使うつもりだろう。
その様子を察したディアナとカペラの二人が前に出ようとするが、僕はそれを再度制止すると、彼等に向かって首を横に振った。
今の彼女には威圧的な事をするのは逆効果だと思ったからだ。
僕は錯乱している彼女に両手を左右に大きく広げて、ゆっくりと歩み寄る。
そして、彼女に優しく微笑えみながら語り掛けた。
「大丈夫、僕は君をいじめたりなんて絶対にしない。それに……君には妹達がいるんだね。君と……君の妹達は僕が必ず守って見せるから、安心して……ね?」
彼女は僕の言葉を聞いたあと、警戒した様子で僕の目をじっと見つめてくる。
僕はその視線を真っすぐに見つめ返す。
それから間もなく、彼女が僕を見つめる瞳から殺気が消えていくのを感じた。
「お兄ちゃん……優しい瞳をしているんだね。本当に……本当に私達を守ってくれるの? 見捨てないでいてくれるの?」
「約束するよ。それに、美味しいごはんやお菓子にベッド。あと、温泉……っていっても伝わらないか。えと、大きなお風呂もあるから、きっと気に入ってくれると思うよ。だから、僕を信じてくれないかな?」
「……うん、お兄ちゃんの事……信じる。私の名前はアリア……良かった……優しい瞳の人に会えて……」
「……⁉ 危ない‼」
アリアと名乗った少女は、言い終えると同時に意識を失ったようで、前のめりに倒れ込む。
僕はすかさず、駆け寄り彼女を支えるように抱擁する。
思った以上に華奢なアリアは、気を失っているようだが息が荒い。
恐らく、見知らぬ場所での緊張と、体調の悪さが相まって錯乱したのだろう。
僕は、彼女を支えながら、荷台の奥に目を移すと「な……⁉」と驚愕する。
なんと、荷台の奥にはアリアと良く似た鳥人族の少女が、ざっと十名以上はいたのだ。
姉妹だろうか? だが、それにしては数が多すぎる。
しかし、彼女達にも意識はなく、息が荒くうなされているようだ。
僕はすぐに彼女達を宿舎に移動させるように周りに指示を出していく。
すると、先程の騒ぎを聞きつけた様子のクリスが宿舎から血相を変えて駆け寄って来た。
「リッド様‼ 大丈夫ですか⁉」
「あ、クリス。うん、大丈夫だよ。それより、この鳥人族の子達は姉妹なの?」
心配そうな面持ちのクリスに、僕は余裕の表情を見せながら騎士やメイド達に運ばれる鳥人族の子達に視線を移す。
「はい……鳥人族の子達は引き渡しの際に、姉妹である事と体調があまりよくない事がわかりました。体調の悪さから狐人族の子と同様に優先して移送させていたんですけど、まさかあんな騒ぎを起こすなんて思いもしませんでした……本当に申し訳ありません」
「ううん、気にしなくて大丈夫だよ。彼女達の健康状態を見ても、優先して移送させる判断は間違ってないと思うしね。心配してくれてありがとう、クリス」
彼女を安心させるように、僕は謝意を伝えながらにこやかな表情を見せた。
クリスは、僕のお礼の言葉に対して謙遜しながらも、安堵して胸を撫でおろしたようだ。
そして、彼女とのやりとりをしている間にも、辺りは慌ただしく動いていくのだった。
◇
「ふぅ……ようやく一段落つきそうだね」
「はい。リッド様、お疲れ様でございます」
僕の言葉に、ディアナが会釈をしながら返事をしてくれる。
先程のアリアを含めた鳥人族の少女達を宿舎に移動させ終わると、馬車の荷台は空になりようやく辺りが落ち着いた。
だが、この動きをあと四回行わなければならない。
僕は周りにいる騎士やメイド達に聞こえるように声を轟かせた。
「皆、ありがとう‼ でも、馬車の受け入れはあと四回あるから、気を引き締めてお願いね‼」
すると、周りから力強い返事が聞こえてきて、僕は皆の士気の高さに胸を撫でおろす。
その時、僕の横に控えていたカペラが怪訝な面持ちを浮かべて、話しかけてきた。
「リッド様、先程の鳥人族の少女達はもしかしたら『強化血統』の子供達かもしれません。クリス様に確認して、念のために調査をしておくべきと存じます」
「強化血統……? 何それ?」
何やら不穏な言葉に、僕は怪訝な表情を浮かべる。
その後、カペラから簡単に『強化血統』についての説明を受けた。
何でも、獣人族で開催される『獣王戦』を勝つために、より強い戦士を生み出す方法として、強い獣人族同士で子供を作り続けるという文化が昔の獣人族にはあったそうだ。
だが、そんな活動を何代も続けた結果、強化血統の子供達は虚弱体質になりやすいそうで、最近は廃れつつある文化でもあるという。
しかし、今もその文化を続けている獣人族は一定数いるそうだ。
そして、強化血統の影響で虚弱体質と判断された子供は獣人族内において「失敗作」や「期待外れ」と称され、悲惨な運命を辿ることが多いらしい。
なるほど、前世の記憶にある、競走馬の仕組みを『人』でしているということだろう。
カペラの説明が終わると、僕は嫌悪感を露わにして呟いた。
「最低だね。……人の良し悪しは生まれや血筋。そして、才能や強さだけで決まるものじゃないよ」
その時、横で一緒にカペラの話を聞いていたディアナが僕に同意するように頷いた。
「……さようでございます。もしかしたら、アリアや彼女の妹達は、私達では想像できないような辛い目にあっていたのかも知れませんね……」
僕は彼女の返事に頷くと、カペラに視線を移した。
「わかった。カペラ、説明ありがとう。この件は、クリスにも確認をお願いするよ」
「とんでもございません。少しでも、リッド様のお役に立てれば幸いです」
カペラは言い終えると僕に会釈をする。
彼が顔を上げると僕は再度謝意を伝え、少し離れた場所にいるクリスに声を掛けた。
彼女はすぐに僕の声に気付いたようで、こちらに駆け寄ってきてくれる。
「リッド様、いかがされましたか?」
「うん、実はね……」
僕はクリスに鳥人族の少女達と強化血統について伝え、今後の事を考えて調査をして欲しいとお願いする。
しかし、彼女は僕の話を聞いて心当たりがあったのか、険しい面持ちを浮かべ、畏まった様子を見せる。
「承知しました。実は、エマからも彼女達のことで気掛かりな事があると聞いていたので、多分その事なんだと思います。受け入れ作業が終わり次第、すぐに調べてみます」
エマは獣人族だし、鳥人族の少女達を見て何か心当たりがあったのかも知れないな。
「ありがとう、よろしくね。ちなみに、エマはどこにいるの?」
僕は、クリスの言葉に頷いてから返事をすると、辺りを見回した。
「あ、エマは、最後の一団でルーベンスさんと一緒にこっちに向かっているはずです」
「そっか、この場に居れば少し話を聞いてみたかったけど、それはまた今度かな」
クリスに返事をしてからそのまま少し雑談をしていると、少し離れた場所から、こちらに近付いて来る一団に気付いた。
移送の馬車とは違うようだけど、なんだろう?
だがその疑問は彼等がこちらに近づくとすぐに解消する。
一団を率いていた騎士が一歩前に出て僕を見て表情を緩めた。
「リッド様、ライナー様の指示で受け入れ作業の支援に参りました。指示をお願い致します」
「クロス……⁉ ありがとう助かるよ。でも、父上は?」
そう、近づいて来ていたのはクロスが率いていた騎士達の一団だ。
今回の受け入れ作業において、クロスを含めた一部の騎士は通常業務もあるので、騎士が全員参加するというわけにはいかなった。
しかし、父上の指示があったということは、何かしら段取りをしてくれたのだろう。
だが、見渡しても父上の姿はない。
辺りを見回す僕を見たクロスは、楽し気な笑みを浮かべて呟いた。
「リッド様、ライナー様からの伝言です。『今回の件、現場指揮はすべて任せる。しっかりやってみせろ』だそうです」
「……⁉ わかった。クロス、改めてよろしくね」
僕はクロスにお礼を言うと、すぐに受け入れ作業の手伝いをお願いする。
元々、当初の打ち合わせにおいて、騎士達の必要人員は確保していた。
でも、状況的には人手はあることに越したことは無い。
その時、クロスが「リッド様、失礼致します」と言って僕に耳打ちをしてきた。
「実は、心配してライナー様もこちらに来ようとしていたのですが、そうなると現場の指揮をリッド様から奪ってしまうと悩んでおられましたよ。ですが、落雷のような音が聞こえた時に心配が限界に達したようです。その結果、私と騎士が派遣されました。リッド様は愛されておいでですね」
「あ、あはは……そうなんだ」
僕は乾いた笑い声をあげながら、父上が執務室で心配で苛立っている様子を想像しながら呟いた。
「父上は……案外、心配性なんだよね……」
だが、そうこうしているうちに新たな馬車の一団がこちらに向かってくるのが見えて来た。
受け入れ作業はまだ始まったばかりだ。
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