武術訓練の引き継ぎ2
「少し話には聞いておりましたが、凄い訓練内容ですね。これほどの訓練をずっと続けておいでとは、リッド様の将来が末恐ろしいですね」
「そ、そうかな? 別に『帝国史上最強』とかには興味ないけど、武術訓練は楽しいからさ」
クロスは僕の最近の訓練内容を聞いて最初は青ざめていたが、今は驚嘆した様子で頷いている。
彼は先程までルーベンス達と話していた少しおどけた雰囲気が消えて、今は少しピシっとした雰囲気を醸し出していた。
メリハリをつけるのが上手な感じなのだろう。
クロスは少し考え込んだ後、ルーベンスに声を掛けた。
「ルーベンス、リッド様の武術訓練のことで聞きたいことがある。こっちに来てくれ」
「承知しました」
ルーベンスが返事をしたのを確認すると、クロスは僕に視線を戻した。
「リッド様、ルーベンスと話してきますので、少し失礼いたします」
「え? あ、うん。わかった」
クロスはルーベンスを引き連れて僕から少し離れたところに移動して何やら、二人で話し始めたようだ。
何を話しているのだろうか? そう思っていると、僕の後ろからカペラの声が聞こえて来た。
「クロス副団長殿は、ルーベンス様やディアナ様とはまた違った雰囲気に加えて非常に実戦慣れしているような感じが致しますね」
「そうなの? 僕が見た感じだとあんまりわかんないけど、カペラが言うならそうなんだろうね」
カペラはレナルーテの暗部に所属していたダークエルフだ。
当然、対人戦や修羅場を何度も経験しているはず。
そのカペラがクロスを見て『慣れている』と言う事はかなりの実戦経験があるのだろう。
その時、カペラの言葉を補足するようにディアナが会話に入って来た。
「クロス副団長は、バルディア騎士団に入団する前は『名うての冒険者』だったと聞いております。確か、今の奥さんと結婚する為に安定した生活を求めて騎士団に入団することを決めたそうですよ」
「……そうなんだ。クロス副団長が元冒険者というのは知らなかったよ。でも、『名うての冒険者』が安定を求めてバルディア騎士団に入団というのは、あまり夢がない話だね」
ディアナの言葉に僕は率直に思った事を口にした。
冒険者と言えば、やはり『夢とロマン』を追う印象がある。
それなのに、冒険者として実績を積んでも落ち着く先は『安定』というのは少し寂しい気がする。
だが、ディアナは僕の言葉にキョトンとした後、補足するように説明をしてくれた。
「リッド様が冒険者にどのような印象をお持ちか知りませんが、冒険者と言っても年齢には勝てませんから、怪我をしたらそれまでです。『冒険』という言葉の響きは良いですが、常に『冒険』しなければ収入はありません。それに、冒険者で実績を積む理由は大体、傭兵団や騎士団、貴族の護衛などの就職に有利になるからです。一生涯を冒険者で働こうとする人はいないと思います」
「お、思ったより冒険者って世知辛いのだね……」
冒険者のことがディアナは嫌いなのだろうか? 彼女の中で冒険者に対する印象がかなり悪い気がする。
だが、ディアナはまだ言い足りないようで、話を続ける。
「はぁ……子供の頃の話ですが、ルーベンスが『冒険者』になると言い出して全力で止めたことがあります。『冒険者』との『結婚』なんて親が許してくれませんから」
「……そうなんだ。ディアナも大変だったね」
僕はディアナの言葉を軽く聞き流すことにしたのだけど、彼女はわかっているのだろうか?
今の発言は自爆している気がするのだけど。
そう思った時、まさかのカペラがそこを突いた。
「……なるほど。ルーベンス様が子供の頃から、ディアナ様はご結婚を意識していた。ということですね」
「え……⁉ あ、いや、別にそういうつもりで言ったわけじゃありません‼」
じゃあ、どういう意味で言ったのだろうか? と突っ込むとまたややこしいことになりそうなので、僕は何も言わずニコニコしながらカペラとディアナのやりとりを聞き流していた。
その間に、クロスとルーベンスの話し合いが終わったようで二人がこちらに楽しそうに戻って来た。
「リッド様、申し訳ありません。ルーベンスとの話が少し長引いてしまいました」
「気にしないで大丈夫だよ。ちなみに、何を話していたのか聞いても良いかな?」
クロスとルーベンスは僕の言葉を聞いた二人は顔を見合わせて笑みを浮かべた後、クロスが頷いてから呟いた。
「はい、実はルーベンスにリッド様の実力を伺っておりました。リッド様を目の前にすると、流石に言いづらいこともあるかと思いましたので、失礼ながら少し離れたところで話させて頂きました」
「そっか、ちなみにルーベンスから見た僕の実力はどうなの? 折角だから聞いてみたいな」
実は僕の実力について皆にはあまり聞いた事がなかったりする。
僕は目を輝かせながら興味津々でルーベンスに訊ねた。彼は少し考え込むとニコリと微笑んだ。
「……そうですね。恐らく同年代でリッド様に敵う相手はほとんどいないと思います。ですが、世界は広いですから慢心は禁物です。それに、まだ私には勝てませんが今のまま訓練を続ければいつか私にも勝てるかも知れませんね」
「……嬉しいけど、そこは素直に『将来は私に勝てますよ』でいいんじゃないの?」
僕はルーベンスの言葉にちょっと引っ掛かりを感じて、口を尖らせながら呟いた。
彼はそんな僕を見ながら微笑んでいる。
「駄目ですよ。私を倒せるようになるまでリッド様には強くなって頂きたいのです。勿論、私も今より強くなりますから簡単には負けてあげませんよ」
ルーベンスは言い終えると少し意地の悪い顔をしている。
どうやら、まだまだ僕に勝ちを譲るつもりはないらしい。
僕は諦めたような、呆れたような顔をしながらため息を吐いた。
「はぁ……わかったよ。でも、僕も強くなるからそのうち絶対にルーベンスを倒すからね?」
「ふふ、その時を楽しみにしております」
ルーベンスと僕はお互いに顔を見合わせると、お互いに顔を綻ばせて笑った。
その時、僕達のやりとりを見ていたクロスが手を『パン』と叩いた音が辺りに響く。
「リッド様、ルーベンス、お二人共の気持ちはわかりますが、お話はその辺で良いでしょう。次は、私から今後の武術訓練についてご説明させて頂きます」
「うん、わかった。でも、今後ってことは訓練内容を変えるってことかな?」
クロスは僕の質問に頷いた後、ニコリと笑った。
「今後はルーベンスと訓練していた内容は予定通りに私が引き継ぎます。ですが、その際には武術と合わせて魔法も含めた、より実践的な武術訓練を致しましょう」
「魔法も含めたより実践的な……訓練?」
僕はクロスの答えに嫌な予感を感じながら、顔を引きつらせて首を傾げるのだった。
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