【外伝】狐人族
獣人国にある狐人族が治める領地の首都と言われている城塞都市がある。
その都市の名前は『フォルネウ』と呼ばれていた。
そこで優秀な狐人族の職人の手で作られる武具はドワーフに、勝るとも劣らないと言われており、国内外に有名である。
そんな街の中心には、『マグノリア』や『レナルーテ』のように大きくはないが、城が聳え立っていた。
その城は狐人族の族長、他国で言うところの『王族』が住んでいる場所でもある。
ただ、その城は見る者に威圧感を与えるような不気味な雰囲気がある城だった。
その城の主である族長、ガレス・グランドークが居る執務室のドアがノックされ兵士の声が聞こえてきた。
「ガレス様、ご子息のアモン様が面会をご希望されております。よろしいでしょうか?」
ガレスは行っていた書類作業の手を止めて、ため息を吐くと軽く首を横にふりながらドアの向こうにいる兵士に返事をした。
「はぁ、またか……わかった。通せ」
「承知しました」
兵士が返事をして間もなく、ドアが開かれて狐人族の少年が勢いよく執務室に入って来た。
彼はその勢いのまま、ガレスに睨みつけるように見据えると強い口調で言った。
「父上‼ あれほど、領民を奴隷として販売することを反対したのに、何故また販売を許可したのですか⁉ 国を支える『子供』を他国に流失させていては、国は良くならないとあれほどお伝えしたではありませんか‼」
アモンの言葉を聞いたガレスは、呆れた表情で彼を見据えた。
「アモン、以前も言っただろう? お前の言葉には具体性がない、ただの理想論だ。それに、売りに出すのは将来も担えない、クズで弱者の『子供』を選別している。優秀な人材は国に残っているというのに何が不満なのだ?」
「……年端もない子供達をどのように優秀か否かを判断するというのですか? 奴隷販売を今からでもお止めください」
ガレスはアモンの言葉を聞き終えると面倒くさそうな表情を浮かべて、息を吐いた。
「ふぅ……そこまで言うなら、兄のエルバに相談するのだな。今回の件もすべてエルバが取り仕切っている。私はそれを許可したに過ぎん。お前がどうしてもというなら、兄を説得するのだな。まぁ、お前に出来れば……だがな」
「また、兄上ですか。父上はご自分でご判断をされないのですか……」
アモンはガレスの言葉に諦めたような表情を浮かべて、彼を憐れむように見据えた。
アモンの父親であるガレスは、いつからか兄のエルバの言いなりになっていた。
どんなに、アモンが意見を言っても聞く耳を持たず、聞いたとしても必ず『エルバに相談しろ』と言うばかりだ。
アモンの目線に気付いたガレスは、怒気のこもった目で彼をギロリと睨みつけた。
「エルバの話を聞き、有効だと思ったから話を進める『判断』をしたのだ。私が何もできないという言い方は許さんぞ」
「……失言、申し訳ありませんでした。それでは、兄上に相談して参ります」
アモンはガレスに向かい、一礼すると諦めたように執務室を後にした。
執務室を出たアモンは、ため息を吐きながら俯いて自身の力の無さを嘆いた。
「くそ……また兄上か。今のままでは近い将来、狐人族は立ち行かなくなってしまうというのに……」
狐人族はドワーフに負けず劣らずの武具製作能力があり、以前はその技術力によって他の獣人族や他国との貿易が盛んだった。
それが、兄であるエルバが政治に関わるようになってから、税の取り立てが厳しくなり、領民達の生活が苦しくなった。
それだけではない、武具の交易も制限が掛かり、国内の軍備増強にその技術力を活かすようになったのだ。
狐人族の首都である『フォルネウ』の町並みは美しく、町民達にもそんな様子は見えない。
だが、領内に点々とある小さな村々では見るも悲惨な状況も出始めている。
奴隷として販売される子供達は、そんな悲惨な町や村から集められた者ばかりだ。
いずれ、その波は少しずつ首都であるフォルネウにも押し寄せるだろう。
思い悩んでいたその時、彼は声を掛けられた。
「あら、アモン。また、無意味なことを考えているの? ふふ、気を付けないと髪の毛が無くなるわよ」
アモンは声を聞いてハッとすると、顔を上げて声の主を見据えた。
「ラファ姉上……姉上も奴隷の件を承知しているのですか?」
「そうね……兄上がなさることに間違いはないわ。それに、あなたの理想論よりも兄上の方が、現実的なのよ。じゃあね」
ラファと呼ばれた女性は、言い終えるとアモンの横を通り過ぎてガレスのいる執務室に入って行った。
アモンはそんな彼女を見送ると呟いた。
「理想がなければ、先に進む事も、新しいことを成すことも出来ません……」
その後、アモンは足早に兄であるエルバがいる部屋に向かうのだった。
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