リッド、父上に相談する
「リッド様、ライナー様より時間が取れるので執務室に来るようにという事です」
「わかった。ディアナ、ありがとう」
戻って来たディアナの言葉を聞いた僕はサッとソファーから立ち上がった。
そして、エマとクリスを見るとニコリと微笑んだ。
「じゃあ、行ってくるね。二人がここで待つことは屋敷の皆に話しておくから、何か必要な物があったら遠慮なく言ってね」
「リッド様、ご無理を言いまして、すみません。宜しくお願い致します……」
彼女達は僕同様に立ち上がると、ペコリと頭を下げようとしたので僕は慌てて二人を制止した。
「そんなに気にしなくて、大丈夫だよ。どちらにしても僕達にも必要なことだしね。父上との話し合いが終わったらまた戻って来るね」
「はい、お待ちしております」
クリスとエマの二人との会話が終わると、僕は応接室を後にした。
父上の部屋に移動しながら、ディアナに二人が僕と父上の話し合いが終わるまで応接室で待っている件を伝えた。
「畏まりました。では、皆にもそのように申し伝えます」
「うん、お願いね」
ディアナは僕の言葉を聞くと立ち止まり、会釈してから僕とは違う方向に進んでいった。
クリスとエマの件を屋敷の皆やガルンに伝えに行ってくれたのだろう。
彼女を見送ると僕は一人、父上が待っている執務室に急いだ。
◇
執務室の前に着いた僕はドアをいつも通りノックしようとしたが、中から声が聞こえてきたので一旦、手を止めた。
「誰だろう? 聞き覚えのある声ではあるけど……」
僕は少し気になったが、ドアをノックした。
父上の返事が聞こえてから、執務室に入るとそこには二人の騎士が父上と話をしていたようだ。
一人は、ルーベンスより少し身長が低いけど、似た体格で逞しい顔つきをしている男性の騎士だ。
もう一人は、がっしりした体格に加えて、ハ……ではなくスキンヘッドと髭が印象的なタフガイと言った感じだ。
タフガイは僕を見ると、ニヤリと笑い元気な声を発した。
「おお‼ リッド様、ご無沙汰しております。お元気でしたかな?」
「ダイナス団長‼ 戻ってきていたのですか?」
ダイナス騎士団長、そうタフガイな騎士の正体はバルディア騎士団、騎士団長のダイナスだ。
彼は、バルディアと他国の国境警備、ダンジョン討伐、その他の犯罪取り締まり等が忙しくて屋敷にいないことが多い人物だ。
でも、剣技の実力は父上と互角らしく、その人柄と実力でバルディア騎士団をまとめている。
ダイナスは僕を観察するようにジッと見ると、先程より豪快に「ニヤリ」と笑みを浮かべた。
「ふむ……以前とは大分、顔つきが変わられましたな。結構、結構‼ ルーベンスからも『型破りな神童』ぶりは聞いておりますぞ。リッド様がいれば、バルディアは安泰ですな」
ダイナスは言い終えると上機嫌な様子で『ガハハハッ』と笑った。
僕は彼の豪快さに、少したじろぐも笑顔でダイナスを見据えた。
「そ、そう? ありがとう。でも、『型破りな神童』はやめて欲しいな」
「そうですか? 良い呼び名ではないですか。何も言われないよりはよっぽど良いと思いますぞ? 何を言われても胸を張っておけば良いのです‼」
僕の言葉に返事をしたダイナスは再度、『ガハハハッ』と豪快な笑い声をあげた。
その様子に父上も少し呆れた様子だったが、もう一人の騎士がダイナスに注意するように声を掛けた。
「団長、リッド様もライナー様も呆れておられますよ? 笑い声が少し……いえかなり大きいと思います」
注意されたダイナスはスッと笑うのをやめた。
そして、凄んだ怖い顔で騎士の彼を見据えてから、少し間をおいて表情を崩すとため息を吐いた。
「はぁ……クロス、お前は相変わらずお堅いなぁ」
「いえいえ、団長が豪快過ぎるだけですよ」
クロスと呼ばれた彼は、ダイナスと結構な体格差があるが物怖じせず、真っすぐにダイナスに言葉を返している。
その様子に思わず僕は苦笑いした。
「ふふ……クロス副団長も相変わらず大変そうですね」
「リッド様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。しかし……仰る通りです。団長のおもりを、そろそろ別の人にして欲しいと心から思っております。本日も、ライナー様にお願いをしていたところですよ」
彼は飄々とした様子でおどけながら、ダイナスと父上に困ったような視線を送っている。
クロスはバルディア騎士団の副団長だ。
彼も基本的にダイナスと共に活動しているので、屋敷に居ることが少ない。
豪快な騎士団長と少し茶目っ気がある感じの副団長と言ったところだろうか?
彼等がいることで、執務室の雰囲気がいつもより明るい感じがする。
その分、部屋の温度も高い気はするけど。
僕達のやり取りを見ていた父上は、少し疲れた表情をしながらダイナスとクロスを見据えた。
「もう良いだろう。団長と副団長の報告と申請の件はわかった。特に、申請の件は前向きに考えよう」
父上の言葉に反応したクロスは、嬉しそうに目を爛々とさせながら顔を綻ばした。
「ライナー様……私の妻は二人目を近々出産予定です‼ どうぞ、申請の件は宜しくお願い致します‼」
「わかった、わかった‼ そんなに暑苦しく必死になるな‼ 前向きに検討すると言っただろう⁉ それよりも、リッドと二人でこの後、打ち合わせがあるのだ。悪いが二人共、席を外してくれ」
「承知致しました。では、本日はこれで失礼いたします。行くぞ、クロス‼」
ダイナスとクロスは父上の言葉を聞いた後、僕達に向かって会釈をすると執務室を意外と礼儀正しく、静かに退室した。
彼らが去った後の執務室は途端にシーンとなり、部屋の温度がいつも通りになったが気がする。
さしずめ、嵐が去ったという感じだろうか?
僕は苦笑しながら父上を見据えた。
「ふふ……久しぶりに二人に会いましたが、団長と副団長は相変わらずですね」
「うむ……二人共、仕事も出来るし、実力や人柄も申し分ないのだが……」
父上は僕の苦笑に釣られるように少し笑みを浮かべるが、すぐいつも通りの厳格な表情と緊張感のある雰囲気を纏い、僕を見据えた。
「それで……ディアナから『急用』ということで時間を作ったが、どうしたのだ?」
「実は、クリスから奴隷購入の件で報告を受けました。その件で、急ぎご相談したくお時間を頂いた次第です」
僕の言葉を聞いた父上の目が鋭くなった。
「……わかった。話を聞こう」
「ありがとうございます」
父上は、執務室の机を立つと僕をソファーに座るように促した。
いつものように机を挟み対面になるようソファーに腰を降ろすと、僕は力強く父上を見据えた。
「単刀直入に申します。本日、クリスからあった報告と、助言に従い奴隷購入を進めたいと思っております」
「……わかった。それで、購入する奴隷はどの程度の人数だ? 一〇名程度か?」
奴隷購入という言葉に、父上の眉がピクリと反応して表情が険しくなった。
僕はそんな、父上の表情を見据えながら、おもむろに言った。
「……一五〇名程度です」
「……? なんだと?」
」
珍しく父上の表情がキョトンとなった。
そんな父上に、僕は淡々と購入する奴隷の人数を再度伝えた。
「えーと、ですから一五〇名程度です。ちなみに、全部族を一〇名以上かつ、年齢も僕と変わらない、前途有望な六~七歳の子供達だそうです」
「はぁ……詳細を教えろ、話はそれからだ」
父上は僕の言葉が聞き間違いではないことを理解したようで、額に手を当てながら俯き、首を軽く横に振った後に、ため息を吐いてから言葉を紡いだ。
僕はその様子に乾いた笑い声を出した。
「アハハ……さすがに『よし、わかった』とは……なりませんよね」
「当たり前だ‼」
先程のダイナスが出した豪快な笑い声が可愛く感じるほどの大きな怒号が、僕によって父上から引き出された瞬間だった。
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