獣人国ズベーラと奴隷・2
「……え⁉ クリスの所であんなに仕事が出来るのに?」
エマが『力の無い者』として認知されていたという事実に、僕は驚いた。
彼女が戦えるかどうかはわからないが、彼女が優秀であることはクリスと一緒に働いている様子ですぐにわかる。
僕の発した言葉を聞いたエマはキョトンとした顔をした後、嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
「ふふ……リッド様、ありがとうございます。でも、獣人国では『戦える力』が前提となりますから、お褒め頂いた部分は残念ながらあまり評価されないのです。だから、私はクリス様のお父上に出会えた時に『身売り』を申し出たのです」
「み、身売り……」
彼女はその後、自分の身の上を僕に教えてくれた。
エマは獣人の猫部族で生まれたが、両親共に力が認められている者ではなかった。
また、彼女には兄妹もおり生活は非常に厳しく、飢えるか、国を出て奴隷になるかという状況だったらしい。
その時、クリスの父親が商売でエマが住む猫部族の集落を訪れた。
エマはここぞとばかりに自分を売り込んで、彼女はその賢さを無事に認められた。
そして、サフロン商会に身売りしたという。
「……認められたなら『身売り』はしなくても良かったんじゃないの? クリスのお父さんなら、そんな無理難題を言う人には思えないけど」
「いえ、身売りは私からお願いしたのです。両親と兄妹達が少しでも、楽に暮らしていけるようにと……」
「そっか……」
エマの身の上を聞いたことで、獣人国が改めて大変な国であることを実感する。
彼女は優秀だったが、その優秀さは獣人国では認められない。
家族を守る為、生きていく為にクリスのお父さんに、彼女は才能を売り込んだ。
だが、そこまでしないと生きていけない。
そんな、厳しい世界ということだ。
僕は、ディアナが淹れてくれた紅茶の残りを口にすると言った。
「ふぅ……ありがとう、獣人国のことは大体わかったよ。まとめると、バルストで販売される今回の奴隷は獣人国で『力がない』と判断されて、集められた各部族の子供達という可能性が高いということだね?」
僕の言葉にクリスは頷くと、力強く言葉を紡いだ。
「はい。その認識で間違いないかと思います。恐らく、バルストも獣人国で子供達を集めた者達も、あまり高い値が付くと思っていないはずです。だからこそ、情報を渋って価格を吊り上げようとしているのでしょう。ですが、人数も多い分、まとめて私達が購入することで価格交渉もスムーズに出来るはずです。私としてはこの機を逃すべきではないと思います」
彼女の言葉を聞いた僕は、おもむろに腕を組んで目を瞑りながら考えに耽った。
宿舎は元々、二〇〇名規模の物を建設している。
いずれはその程度の人数を用意する考えは、僕と父上にはあった。
ただ、数十名単位で受け入れながら、出て来る問題点の改善を行い、体制をより万全にしていくという認識だったのだ。
しかし、クリスの言う『この機を逃すべきではない』という言葉もわかる。
これだけ、大規模な動きがあった後は、獣人国から奴隷の子供たちはしばらく出てこない可能性が高い。
クリスは半年程度、奴隷に関する情報が出てこなかったと言っていた。
その点を考えると、今回と同様に情報が出てくるのは早くて半年後、遅ければ来年以降になる可能性が高い。
バルディアの今後のことも考えると、勝負に出るべきかもしれない。
僕は、深呼吸をすると目を開けた。
「わかった。その奴隷の子達をまとめて買う方向で父上に相談してみるよ」
「……‼ かしこまりました‼」
僕の言葉を聞いたクリスとエマはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
二人は小さい頃から、一緒だったと聞いているし、今回の件に関しては何か思うことがあったのかもしれない。
僕はそんな事を思いつつ、控えていたディアナに声をかけた。
「ディアナ、申し訳ないけど、父上に今から時間が取れるか聞いてきてもらっても良い?」
「承知致しました」
ディアナは僕の言葉に返事をすると、僕を含めた皆に会釈をしてから応接室を後にした。
僕は、クリスとエマに視線を戻すとニコリと笑った。
「何とか、二人の思いにも応えられるように、父上の説得を頑張ってみるよ」
「ありがとうございます……」
クリスは僕の言葉に安堵した表情を浮かべながらも、恐る恐ると言った感じで僕に質問をした。
「……あの、もしこの後、話し合いになった際には、こちらでお待ちしていてもよろしいでしょうか?」
「それはいいけど、もし話し合いとなったら長くなるかもよ? 大丈夫?」
「はい、私もエマも今日は時間を空けてきましたので大丈夫です」
二人の目線が何やら燃え盛るように熱い感じがする。
僕はその様子に少し驚きながらも、笑みを浮かべて微笑んだ。
「……わかった。屋敷の皆には伝えておくよ。それから、二人の思いも父上に話しておくから安心して」
「……‼ すみません、よろしくお願いします」
エマとクリスは、僕の言葉を聞くと頭を下げた。
その様子に驚いた僕は、二人にすぐに頭を上げるように言った。
何やら、二人には今回の件に並々ならぬ思いがあるみたい。
そう思った時、ふとクリスが思い出しだしたように言った。
「あ……そういえば、リッド様が目を瞑りながら考え込んでいた姿ですけど……ライナー様そっくりでしたよ」
「え……⁉ そんなに険しい顔していた⁉」
僕はクリスの言葉に驚いて、眉間を手で揉みながらディアナが応接室に戻ってくるのを待つのだった。
ちなみに、そんな僕の様子を見てクリスとエマの二人は微笑んでいたようだ。
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