獣人国ズベーラと奴隷
「……では、僭越ながらまず、獣人国ズベーラについて、リッド様はどの程度ご存じでしょうか?」
「うーん、正直あまり詳しくないね。良ければ、その辺から教えてもらってもいいかな?」
「承知致しました」
エマは僕の言葉に頷くと、緊張した面持ちで獣人国ズベーラ(以降ズベーラ)について説明を始めた。
ズベーラは、猫、犬、狐、鳥、牛、兎、熊、猿、馬、狸、鼠、以上の十一部族が集まった部族国家。
獣人族の各部族には、個別に部族長が存在して領地を治めており、各部族の領地と繋がる中心地に王都がある。
だが、王都に『王』として君臨できるのは数年に一度開かれる『獣王戦』を勝った部族の代表のみ。
『強き者が、国を導く』ということで、ズベーラは『弱肉強食』の世界になっているということだ。
『武力による統治』が基本となっている国ということだろうか?
僕はエマの説明をあらかた聞き終えると、気になった事を尋ねた。
「なるほどね……でも、数年ごとに『獣王』だっけ? 国の王が、武力次第で変わるというのは国が不安定になりそうだけど、その辺はどうなのかな?」
僕の質問に、エマは残念そうに表情を曇らせた。
「……リッド様の仰る通りです。武力のみで決まった獣王によっては、悪政を敷く場合があります。その際は、各部族が協力して『獣王』を討伐すると聞いております。実際、過去にはそういった『獣王』もいたそうです」
エマの説明を聞いた僕は、背筋がゾッとした。
そもそも武力で選別した、『獣王』に政治が出来る要素が必ずしも備わっているとは思えない。
選別後に『獣王』としての資質が無ければ各部族が協力して、王を打倒する。
つまり、『クーデター』が常に起こりえる国というわけだ。
僕はエマの言葉に思わず眉をひそめた。
「うーん。そうなって来ると場合によっては『獣王』よりも、各部族の方が権力というか、影響力が強い時もある感じがするね」
「はい、ズベーラにおける『獣王』は国の代表という事になり、各部族に指示を出すことができる立場にはなります。ですが、必ずしもその指示を各部族が受け入れるわけではありません。武力だけの無能な『獣王』に従えば、部族が滅んでしまいますから」
「なるほどね……」
彼女の説明をまとめると、ズベーラという国は十一部族の中から、もっとも武力の優れた者を『獣王』という国の代表に選別する。
だが、その『獣王』が無能であればまた武力により淘汰されるということだ。
当然、『獣王』を目指す者はその辺を理解して挑むわけだから、武力だけの無能な者が各部族の代表に選ばれる可能性はそもそも低いのだろう。
エマは緊張した面持ちのまま、補足するように『獣王』について説明を続けた。
「それでも、各部族は自分たちの部族から『獣王』を出そうと必死です。部族が衰退するような、無理難題な内容でなければ『獣王』の指示には従うというのが獣人族の基本的な決まりです。下手なことをしなければ、『獣王』になった部族が得られる利権はとても大きい物になります」
「つまり、普通に政治が出来る者を『獣王』として部族から出せれば、利点は大きいということだね」
確認をするようにエマに問いかけると、彼女はコクリと頷いた。
「その通りです。その為、各部族は力や才能を持った者を優遇するのです。結果、生まれつき体が弱い者や、戦いが苦手な者にとってはとても辛い環境が多い状況になっています。そして、獣人国から奴隷として国外に放出されるのはそういった者達が多いのです……」
エマは言い終えると、少し辛そうな顔をして俯いた。
彼女の横に座っていたクリスが、エマに心配そうな視線を送った後、僕を見据えた。
「リッド様、バルストの伝手から来た情報によると、今回奴隷として売り出されるのは6~7歳前後の子供がほとんどで、獣人国の全部族から最低でも十名以上は出るようです」
僕はクリスの言葉を聞いて愕然とした。
十一部族で各十名以上、それで一五〇名程度の大規模になったというのはわかる。
しかし、年齢が6~7歳ということは、僕と年齢がほとんど変わらない子達ばかりということになる。
僕は怪訝な表情をしながら質問した。
「人数の理由はなんとなくわかったけど、なんでそんなに年齢の低い子達ばかり集まったの? 何か理由がありそうだけど……」
「……それは、先程お伝えした獣人族の『弱肉強食』という仕組みの問題が関わっております」
先程まで俯いていたエマが、僕の言葉に反応して顔を上げると説明をしてくれた。
獣人族はどの部族も『獣王』を輩出しようとしており『力と才能が有る者』として認められると優遇される。
だが、その逆である『力と才能の無い者』として認知されてしまうと、日々の生活にすら困る状況が待っている。
その中で生まれた子供や、力が無いと認知されてしまった子供達は生きていくだけでも非常に困難となるそうだ。
その結果、口減らしともいうべき流れで、奴隷として販売されたりする結果になる。
獣人国内では生きていくのが厳しい場合は、奴隷とならざるを得ない状況もあるということだ。
エマは説明を終えると、思い出すように呟いた。
「……私も、『力の無い者』として判断されたので、あの国で生きていくのが困難になった子供の一人です」
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