第2話 草刈りと葦掘り
翌日曜日、朝。草彅とスコップを持って私は庭にいました。
引き渡しの時、更地だった庭は、春の暖かさに誘われたのか、大小さまざまな草が芽生えています。
カラスノエンドウ、スズメノカタビラなどのかわいらしい草が中心ですが、明らかに種から芽生えたのではないことが一目瞭然な、尖ったぶっとい芽も幾つか生えています。
葦です。
芒っぽい単子葉植物の芽もありました。
セイタカアワダチソウについては苗の状態をよく知らないのではっきりとはわかりませんでした。建物に近いところから生えている少し太めの苗でしょうか。
それにしてもこんなにワラワラと太い草が生えてくるとは……。地下の状況が非常に気に掛かります。
ちなみに地下茎といえばスギナも生え始めていますが、こちらはさほど大きくならないので優先度は低めです。草彅で掻いてもいいし、葦などの近くにあったら掘ってもいい。とりあえず、今日はまず一年草っぽい実生の草やスギナなどを草彅で掻いて、その後地下茎のある草を掘っていこうと考えてました。
『さあ、始めますか!』
私は地面に草彅を当てる土ごと草を掻き始めました。
《2時間後》
……やっと、草掻きが終わりました。
以前の家なら20分ほどで終わっていた作業が2時間。
確かに庭の面積は前に住んでいた家の倍以上ありますが、当初の想定では長く見積もっても1時間もあれば作業は終わるはずでした。
想定の倍も時間が掛かったのは偏に土質のせいです。見た目では気付かなかったのですが、掻いてみるととにかく石に引っかかり、スムーズに掻ける場所はほとんどありません。
こんな土の庭でした
しかも、引っかかった石が簡単には掻き取れず、掘りださなければならないケースも少なからずあり、中には土に10cm近く埋まってた石もありました。
すいすいと草が掻けるのが草彅の良いところなのに、少し掻いては引っかかり、少し掻いては引っかかりで、ストレスがたまることこのうえありません。
しかも引っかかった石を掘ろうと力を込めれば、最初は地面に対し、45°ぐらいだった鎌の角度がじわじわと広がって、気が付けば90°近くになっています。
このまま続けたら、刃が欠けるのが先になるか、金属疲労で根元から折れるのが先になるか……。
草彅の寿命は極端に短くなりそうな予感がします。
『いったいこの庭はどうなってるんだろう?』
こんなことを考えながら作業をした2時間でした。
現在の時刻は午前10:00。想定より長く時間はかかりましたが、丈の低い草の処分は終わりました。
さあ、今日のメインイベント地下茎掘りの始まりです。葦っぽい芽の生えてきた所の傍らにスコップを突き立て、体重をかけます。
ズッ、ガツッ
「!?」
刃先の位置を変えます。
ガツッ
「!!」
どこに刺しても感触は、ガツッ。ガツッ。ガツッ。
無理矢理掘り上げて詳しく見れば、石、コンクリート、アスファルト、ガラス片、釘、割れ瓦、貝殻、ビニール、ゴム、木片 etc……
出るわ出るわ、土5に対して1ぐらいの割合で異物が混入しています。
その上、土の中には粘土状の塊が多数含まれており、それを砕くとねじ曲がった真っ黒い根のようなのものがわさわさ出てきます。
スギナの地下茎です。
スギナは大きくならないし、葦や芒と違って手を切るようなこともないから放置するつもりでいたのですが、これだけ地下茎が蔓延っているということは、何も対処をしないでいたら、庭中がスギナの巣窟になってしまうということです。
いくらなんでもそれは避けなければなりません。
することが多すぎるので優先順位は低いままですが、スギナの地下茎も見つけ次第掘り捨てるように方針転換しました。
さて、少し脱線してしまいましたので、葦に話を戻します。
前述のような、いろいろなものを掘り出しながら掘り進めますが、葦の芽はどんどん地下深くに伸びていきます。
穴が深くなりすぎて、穴から土が取り出せなくなって、穴を広げ、広げたことで、まだ地上に出ていない芽を発見し、ということを繰り返しながらどんどん掘り下げていきます。
芽につながる最初の地下茎を発見したときには、穴の深さは50cmを超えていました。
穴を掘って、地下茎と目立つ異物を取り除いては埋め戻す。言ってしまえば単純な作業ですが、とにかく土が硬いうえに異物がいくらでも出てきます。
結局この日掘り取った葦の地下茎はたった3つだけでした。
翌日からはまさに戦いでした。
葦が出る。
掘り捨てる。
別の所から出る。
掘り捨てる。
茅が出る。
掘り捨てる。
芒が出る
掘り捨てる。
ヤブガラシが出る。
掘り捨てる。
正体不明の木の芽が出る。
根茎ごと掘り捨てる。
また葦が出る。
掘り捨てる。
また出……
草彅もフル回転させながら、毎週、休暇のたびに、このような涙ぐましい努力を続けた結果、二月もすると葦とスギナ以外の地下茎性の雑草はほぼ生えなくなっていました。
逆に、葦については、いつまでも芽生えが止まりません。
それだけでなく、新しく出てきた芽ほど大本となる地下茎が存在する深さが増していき、とうとう1m掘っても地下茎に行き着かなくなってしまいました。
当然、芽を1つ掘るための時間も激増し、芽の出るスピードにも追いつかなくなっていきます。
ことここに到って、私は無農薬での駆除をあきらめました。
子どもの健康への不安はありますが、硬い葦の芽がそこかしこから生え、掘れば釘やガラスがあちこちから出る、こんな庭にはそもそも子どもを出すことはできません。
それに農薬と言えば、50m先の水田では普通に大規模に散布しています。
広く噴霧器で撒き散らすのではなく、植物に近距離からピンポイントで撒けば、さほど害はないのではないでしょうか。
こういった意図の下、『ラウンドアップ』(グリサホート系の農薬。葉茎について吸収され、根まで枯らす。土に落ちてしばらく経つと無害化されるとされる)を生えてくる葦にかけまくりました。
それだけでなく、1m近く掘っても地下茎にたどり着かなかった芽の所は、掘った穴の中に『ネコソギ』という6ヶ月間効果が持続するという害が強そうwな顆粒状の農薬を撒き、埋め戻しました。
地表への害をなるべく避けた上でピンポイントで葦をやっつけてしまおうという作戦です。
これは功を奏し、次第に葦の尖った芽を見る機会は減っていきました。(※それでも完全に生えなくなるまでには3年かかりました……。)
今日の教訓:
家を買うときは建物だけでなく、庭の状態もよく見ましょう(確認しましょう)。そして、何かに気付いたら、この段階で追加施工をお願いする方が安く済む可能性もあります。
同時に短編エッセイも公開していますので、よろしければぜひそちらもご覧下さい。