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第98話 エビローグ1(ミミのその後)

最終章の始まりです

「じゃあ、お姉ちゃん、また帰ってきてね」

「気をつけるんだよ」

「体を大切にね」


 妹のララとお父さんとお母さん。

 三人に故郷のエルフの里から見送られてから早、1ヶ月くらいは経ったであろうか。

 結局ランスは最後の所、クリスティンを選んだ。

 はっきりとそう明言した訳ではないが、カラカスに留まり、クリスティンを支えるという事はそういう事なんだろう。

 カラカスを離れ、故郷、エルフの里に少し滞在した後に自分が選んだのは流浪の旅であった。


 王族としてララを支える。

 その気持ち変わりはないし、可愛い妹がもし困っていればいつでも駆けつけるつもりだ。

 しかし、家を飛び出し、ランスと出会い、共に冒険の旅を続けてはっきりと分かった事があった。

 自分はじっとしている事自体が苦手だし、お堅い事は性に合わないという事だ。

 綺麗にシステム化されているものよりも、カオス的なわちゃわちゃ感の方が好きだし、計画だてられた旅行よりも行き当りばったりの旅の方がいい。


「おい、ぼーっとしてんじゃねえ! 移動するぞ!」


 乱暴な男の声に急かされて、移動を始める。

 今、自分が身につけているものはボロ布のようなワンピースだけ。

 靴すら履かずに裸足であった。ランスたちと別れた時はそれなりに、というか世間一般では大金持ちと言われるくらいのお金は持っていたと思う。

 エルフの里を出て、最初に滞在すると決めた街。

 滞在を決めたのはカジノが有るためで、そこで遊んでいたらいつの間にか、人売りに売られるまでの借金をこしらえていた。


 自分の今の格好に、手首にはめられた手錠。粗暴な奴隷商。既視感を覚える。

 ランスに出会った時と同じだ。

 あの時も初めてギャンブルを覚えて、いつの間にか奴隷商に売られていた。

 何も成長していないなと自分で現在の状況に思わず笑いがこぼれる。


 ただ、前と違って武力で借金を踏み倒す事は容易に可能だ。

 おそらく冒険者としては今、自分はSランク相当の実力がある。

 滅多な相手に当たらなければ今すぐにでも逃げ出す事は可能だが、それも筋が通らないと自分の性には合わなかった。


「ここで待ってろ。買い手がつくまでな」


 乱暴に鉄格子で逃げられないようにされた牢の鉄扉が閉じられ、鍵をかけられる。

 買い手がつくまでか…………手持ち無沙汰な暇な時間が流れ、ぼーっとする。

 ぼーっとするのは好きだ。だがそれにも限度はある。余りにも長く勾留されるようなら……。

 固く、シミがあちこちについたべットに横になるといつの間にか眠りについていた。


「今日から二人だ。ほら、お前も買い手がつくまでここに入ってろ」


 金髪の長髪に透き通るような白い肌をした、娘が自分と同じ牢に入れられる。

 服装は同じようにボロ布のようなワンピースだけだが、自分とどこに違いがあるのか、にじみ出るような気品と、隠しようがない美しさを感じる。

 男はニヤニヤと娘の事を舐め回すように見ている。その様子に少しイラッとくる。

 男が娘に向けている視線は自分に向けるものとは全く違うものだからだ。


「仲良くな。後……お前は後で可愛がってやるから、楽しみに待ってろ」


 下卑た気持ち悪いニヤケ顔を浮かべながら男はその場を離れていった。

 娘は恐怖の為かプルプルと震えている。


「私はミミ、よろしく」


 私が差し出したその手を娘は少し、驚いたように、少しためらいながら掴み握手を交す。


「私はリヴァイです、よろしく……」

「何やらかして、売られた?」

「やらかして……? いえ、私は地方の村にいたのですが、村を盗賊に襲われて……そのまま攫われました」

「そ、そうか……」


 ただの田舎娘にしては美しすぎる気がするが、どうやら馬鹿な自分とは違ってこの娘に責はないらしい。

 青い顔をして震えている。あんな捨て台詞を吐かれて置いて行かれたら当然だろう。


「ここから出たいか?」


 私がかけたその言葉に一体この人は何をいっているのだろうという顔をリヴァイはした後に、


「……はい、出たいです、もちろん。村に帰りたいです」

「よし、じゃあ助けてやる」

「え!? どうやって……」

「あいつらをぶちのめして」


 私は細腕で拳を作り、リヴァイに見せつける。

 拳には闘気をこめたのだが、リヴァイには通じず、

「そ、そうですか……」と現実逃避をした気狂いの戯言と受け取ったようで私から目をそらした。


「ぎゃはははは」


 品のない笑い声を響かせながら複数人の男がまた牢に近づいてきている事が知れる。

 リヴァイは牢屋の端に、入り口から一番遠くの場所に小走りで避難する。


「ほら見ろ、すげー上玉だろう」

「ほー、確かにいい値で売れそうな上玉だな。……じゃあ、売っ払う前に味見といくか」


 牢の扉に手を掛け、私には目もくれず、まるで空気か何かのように無造作に牢の中に入ってくる。

 抵抗されるという事も微塵も頭にないほど舐められているらしい。

 リヴァイは遂には泣き出し、恐怖と嫌悪で錯乱状態になり、何事かを喚いていた。


「おい」


 男が錯乱したリヴァイに手を掛けようとしたその時、私は男たちに声をかける。

 男たちは、そう言えばお前も居たのかとでもいうような驚きの表情からニヤニヤとした嘲りの表情へと変わる。


「なんだ? お前も相手して欲しいのか? 生憎ロリコン趣味の野郎は今はいなくてな。心配しなくてもしっかりロリコンに売り飛ばしてやるから安心して待ってろ」

「リヴァイを解放してやれ」

「は!?」

「頭でもいかれたか? 何言ってやがる」


 男の一人は筋骨隆々の巨体。こいつもしが暴れだしたとしたら止めるには大人の男が数人ががり必要になるだろう。

 もう一人の男は体格こそ普通であるが、目の奥の光がとても冷く鋭利な刃物を思わせる。

 軽口を叩いていても周囲への警戒を怠らないタイプで経験的にはこちらの方が危険タイプだと思われた。


 私は両手の拳をゴキゴキ、ゴキゴキっと鳴らす。

 その様子を確認した男たちは弾かれたように哄笑を上げた。


「おいおい、おままごとかぁ!? お前の細腕で俺達に敵うわけねえだろうがぁ」

「まあ、こういうタイプには……」


 冷たい目をした男が後ろ腰に手を――おそらく、ナイフでも取り出そうとしたのを見て、その脇腹に闘気を込めたボディーブローを差し込む。


「て、てめえッ!」


 巨体の筋肉ゴリラが両手で覆いかぶさるようにしてくる。

 組み伏せれば力では負けないと思っているのだろう。

 あえてその手に乗ってやる。


「ぐ?……ぐぐぐっ……ば、馬鹿な……いてててて!」


 組み合ったその腕をへし折れんばかりに曲げてやる。

 そして半泣きになったその顔に前蹴りを入れて後方にふっ飛ばす。


 腹を押さえた剣呑な目つきをした男が短剣を手に憎悪の視線をこちらに飛ばしていた。

 殺気をビンビンに感じる。やはり事前に感じていた通り、こいつは刺せる人間のようだ。


「てめえ、ぶち殺してやるッ!!」


 短剣片手に躍りかかり、突き入れてきた短剣のカウンターに顔面に拳を打ち込んでぶっ飛ばす。

 潰れた鼻から吹き出した鮮血が綺麗に宙に舞った。


「呼んでこい」

「は!?」

「まだ仲間がいるんだろう? 呼んでこい、まとめてぶっ飛ばしてやるから」

「くっ……、ま、待ってろ! ぶっ殺してやる」


 目つきの悪い男は鼻を押さえて捨て台詞を吐きながら駈けていった。

 筋肉ゴリラはたった一撃の前蹴りで昇天したらしく、気持ちよさそうに気を失っている。

 リヴァイは目に涙を溜めたまま、キョトンとしている。


「ほら、こんな所はさっさと出よう」


 リヴァイは戸惑いながらもは私の手を取り、牢を出て部屋の扉を開けると――

 太陽の光が眩しく顔をしかめる。逃亡防止の為か牢には小さな小窓しかなかった為、薄暗い空間にすっかり慣れてしまって久しぶりの日中の晴天の太陽の光はきつかった。


「こっち、こっち、あ! あいつだ、あいつッ!!」


 目つきの悪い男は十数人の柄の悪い、ついでに頭も悪そうな顔をした荒くれ共を連れてきた。

 男たちは私を確認するとすぐに侮り――


「おい、スタン! あんな小娘にお前やられたのかよ!」

「お嬢ちゃん、おいたしたからお仕置き、折檻ですよー」

「おっ、後ろの女はいいじゃねえか。おい、スタンなんで俺らに教えねえんだ……」


 最後の男が軽口を言い終える前に、そこまで一瞬で間を詰めて、アッパーカットを食らわして――男は宙高くを舞う。

 すでに昏倒した男が受け身もろくにとらずに地面に倒れると、男たちは蜘蛛の子を散らしたように私から間合いを取る。


「な、何しやがった、こいつ? 殴り飛ばしたのか? 全然見えなかったぞ」

「落ち着け、みんな! いくらスピードがあってもあの細腕だ! 掴んで組み伏せればそれで終わりだ!」


 その男の一声でじりじりと男たちは私の間合いを詰めてくる。

 いい判断だ。組み合いなら勝てるという目算については間違っているが。


 そこで、私は獰猛な笑みを浮かべている自分自身に気付いてはっとする。

 ランスと別れてからどこか刺激が足らずに、物足りない毎日だった日常。

 そんな日常から非日常のこの鉄火場。血が沸き肉が踊るとはこの事か。


 楽しい!!


 組み伏せようと一人、二人と飛びかかってくるが、それぞれがまるで演劇のように綺麗に私の拳撃によって宙を舞う。

 半分ほど殴り飛ばした所で、残りはあからさまに及び腰になり、それも片付けて最後の一人となった男は逃げ出そうとした。


「仲間を置いて――逃げるんじゃない!!」


 拳を上から振り下ろし、まるで頭上からハンマーを振り下ろされたかのように男は地面にへちゃげ倒れた。


 リヴァイは腰が抜けたように地面にへたり込んでおり、私と男たちとの立ち回りとその結果に呆気にとられていた。

 私は彼女の前に進み出て、仁王立ちでから手を差し伸べて――


「もう大丈夫だ! 故郷に帰れるぞ」



 ミミがぶちのめした男たちはその街の侠客の組織の一員だった。

 その後、ミミはその街に少し滞在する事になり、その組織とは最初は半目していたが、ミミの余りの強さに慕うものも出てきて、最後にはミミはその組織の頭としておさまる事になる。

 通り名は鉄拳のミミ。理不尽に奴隷として囚われている人がいれば救い、強気を叩き、弱気を助けるミミのその姿勢は、最初、ミミを一種の気狂いとも見ていた街の人間たちからも信頼と支持を勝ち取っていき、その街になくてはならない侠客の一人になる。

 定住を嫌うミミはその後、旅に出るが、旅先でもまたその気性から筋ものたちと争いになり、それを傘下に収め、ドンドン慕うものが増えていき……。

 ミミ自身が意図した事ではなかったが、何年か経つと鉄拳のミミの通り名は世界中に広がり、ミミが一声かければその筋のものがすぐに数千人集まると言われるまでにその権勢を強めていった。


 ランスも後世にその名をクリスティンとともに残した。

 ソーニャはひっそりと、エヴァは言わずもがなの生きた伝説だ。

 だが後世に一番語りづがれたのは誰かというと――それはミミかもしれない。


 破天荒で気性が荒く、何をしでかすか分からず、情に厚いその人柄は語り部たちの題材として格好の的だったからだった。

 美談に、感動物語、激しい戦闘に、時には国を相手どって戦い、すぐに泣き、騙され、怒り、ギャンブルで一文無しになるような同じ事を繰り返す。

 生涯、旅を続け、子をもうける事も結婚をする事もなかったが、孤独ではなく、多くの人々にその人柄を愛された。


 ランスとミミの表だった繋がりというのは世間一般には知られていない。

 ランスの知り合いというとランスの権勢を借りているようでそれをミミが嫌ったからだった。

 だがランス、ミミ、ソーニャ、クリスティンにエヴァの絆は生涯続き、誰か困っている人がいればみんなで助け、(それぞれが強者だったため、滅多にそんな事はなかったが)、折りに触れてはみんなで集まり、その親交を温めていった。


 彼女の生前はそれを許す事はなかったが、彼女の死後、しばらく経つと一つの書籍が発売される事になる。

 タイトルは――【ミミの大冒険】。

 こうして、ミミはかつては彼女自身が憧れた冒険譚に登場し、そしてまた、第2、第3の彼女のような存在を生み出していくのであった。

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