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第89話 雷神

 雷の化身となったロータスは腕を横に少し薙ぎ払うだけで――


 その横一列に一世に雷撃が放たれ、俺は間一髪でその攻撃を避ける。

 と次の瞬間、俺は自分の目を疑う。


 雷、それ事態が生き物のようにその姿形をあるものは竜。あるものは狼。あるものは虎。

 という風に姿を変えて、ロータスの周りに出現していた。


「ランス、お前が目にしているのは古に伝えられていた、いかづちの化身たちよ。我が従者としてお前をその雷の疾さと威力によって打ち殺すまでその活動を止める事はない。では行け!」


 ロータスがそう命じると竜と狼、そして虎の姿形をした、いかづちの化身たちは俺に次々と襲い掛かってきた。

 凄まじいスピードだ。すでに瞬神(しゅんしん)のスピードは今までのレベル、領域を遥かに超えている。

 一つの瞬きをする間に数度の攻撃が加えられてくる。

 いかづちの化身達はまるで物理法則を無視するがの如く、ある地点からある地点へと一瞬で移動を続ける。

 俺は奴らに剣で攻撃を加えるが、雷が本体だからか、ダメージを負っている様子がない。


「素晴らしい! 最早人の領域など超えた世界でここまでついてこれるとは……素晴らしいぞランス! だからこそ――」


 ロータスもまた雷撃のように一瞬で俺に近づき、その槍で連続で突き入れてくる。


「お前をここで殺すのは惜しい!」


 四方向からの同時攻撃。しかもそれぞれ音速が如くの攻撃スピードである。

 最早瞬神(しゅんしん)での発揮スピードも限界を感じ、これ以上は捌ききれない……と絶体絶命のピンチとなったその時。

 おそらく瞬神(しゅんしん)の限界スピードに達した事を知覚したその時の事である――


 急に俺の周りの世界が漆黒となり、また周りの動作、音速の如くの攻撃を加えてきているはずの4者それぞれの動きがスローモーションのようになる。

 なんだこれは? と戸惑うが、俺の心には、はっきりと――


『ライトニングワールド/光速世界』


 という言葉が想起される。

 これは……どうやら新たなスキルを獲得したようだ。

 瞬神(しゅんしん)やエンペラータイムを習得した時と同じ獲得感覚であるからに。


 そのライトニングワールドの世界の中で俺は剣を振るうと剣は剣自身が光輝き、振るう剣の軌道に光の帯びの残照が引かれてていく。

 どういった原理でそうなっているのか分からない。光速世界であるから空気摩擦によって?

 或いは、また別の原理、原因があるのかもしれないが、その光を帯びた剣でいかづちの化身たちを攻撃していくと――


 強い光の発光とともに化身たちは消滅していく。

 物理攻撃はその一切が通じなかったにも関わらず、ライトニングワールドで振るう剣には特殊な効果があるのだろう。

 俺が新たなスキルを獲得して一瞬にして3体のいかづちの化身を消滅させると、ロータスは俺との距離を取り、驚愕の眼差しでその結果を受け止める。


「何をした? 一瞬の内に我が化身が消滅したぞ!! 何をしたのだ!? 何も見えなかったぞ!」

「新たなスキルを獲得した。それが俺が今まで使っていた瞬神(しゅんしん)をも超える超スピードだったって訳だ」

「新たなスキルだと……超スピードだと……雷撃を超えるような超スピードだと! そんなものがあってたまるか! 神の如き! いやその神の如きを超えるような能力ではないか! 俺は認めんぞ!!」


 ロータルに更なる雷撃が降り落ちり、身に纏ったその雷の量は更に倍ほどの大きさに膨れ上がる。


「うぉおおおおおおーーーッ!!!」


 咆哮を上げながらロータスは俺に槍で連続攻撃を加えようとするが――


『ライトニングワールド/光速世界』


 時が止まったようになる。辺りは暗闇に包まれ、無音となる。

 音ですら最早、届くまでに永遠の時間がかかるような光速の世界。

 俺は妖精王の剣を光の帯をたなびかせながら上段から下段、下段から上段と上下振り下ろしの剣撃を加える。


 ライトニングワールドを解除し、正常世界に戻ると、俺が振るった光剣の残照が上下に二筋、綺麗に残っていたが、儚く消える。

 その残照が消えると同時にロータスのその黄金の鎧の剣撃の跡から鮮血を吹き出した。


「……ふはははは……」


 ロータスは膝をつき、俯いた状態でなぜか一人笑い声を上げた。


「……なにがおかしいんだ?」

「人生を掛けて、強者を追い求め続けていたはずが、実際に俺を超える強者に出会った時にそれを受け入れられず。……そして恐怖という懐かしい感情を感じた事が滑稽でな」


 俺はその剣撃を与えた時の手応えで分かっている。

 ロータスが受けたダメージは致命傷であるという事を。


「最後にお前のような強者と出会えて俺の一生は幸せなものとなった。感謝する。お前程の強者に巡り会えたのはどれ程の幸運か。お前に出会えてなければ俺の人生は呪いのままで終えていた事だろう」

「お前の連れの、あの白髪白眼の奴は……?」

「ああ、奴も強者であるが、なぜか俺と戦おうとすると奴は本来の力が発揮できなかったらしい。ごふっ」


 ロータスは血潮を吐く。


「何か言い残しておく事はあるか?」

「ない。我が人生に一片の悔いはない。願わくば来世でもまた戦いにまみれた人生を……」


 ロータスの目の光は消え、床に膝をついた姿勢のまま、あの世へと旅立っていった。

 その表情は敗者の恥辱や辛苦を感じさせるものではなく、安らぎと満足に満ち溢れているようにも感じられた。


 俺はバティストたちが戦っている方向へと向き直る。

 すると戦闘しているはずのバティストやシドの姿がその集団の中には見受けられなかった。

 ミミとソーニャはランドフルたちと戦闘していた。

 バティストはどうしたんだろう?


 とその時、空間に黒い裂け目が突然できたと思ったら――

 そこからエヴァが飛び出してきた。


「エヴァ、どうしたんだ、大丈夫か!?」


 エヴァはその体を傷だらけに……というか右腕を失っていた。


「おお、ランスか! あやつと戦っておったのよ。勝ったがな」

「勝てたのはよかったけど、大丈夫なのか……その……」

「ん、ああ、これか。大丈夫じゃ、わしは不死身じゃから欠損部分はそのうち生えてくる」

「そうか……それでバティストの姿も見えないんだけど……」

「ん……」


 エヴァは辺りを見渡す。

 そしてその後、天を仰いで瞠目した後――


「邪神の神域に連れていかれてようじゃの」

「邪神の神域?」

「ああ、助けにいくか?」

「もちろん」

「そうか、なら送ってやる。だがわしはここまでじゃ」


 俺はエヴァのボロボロのその体に目を向ける。


「違う、戦うのはいくらでも戦えるが神には神の流儀があっての。同じ闇の神。邪神の神域にわしは入ることはできんのじゃ。という事でわしはここまでじゃ」


 エヴァは片手を俺にかざす。


「じゃあ、頑張れよ」

「あっ、そういえば、ミミとソー……」


 俺はその言葉の途中でフッと眼の前が真っ暗になり、虚空の空間に突然放り出され、そして――

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