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第88話 神々の闘争

「千年前の続きだと……一体何のことを?」


 アトラスのその疑問の声は無視して、エヴァは問答無用で黒い太陽のようなその円球をアトラスに飛ばす。

 それは通常の人間であれば、一瞬で消滅してしまうような超級のエネルギーの塊だという事は、アトラスにもすぐに分かった。


 アトラスは宙に十字を切り――


『ホーリークロス/聖なる十字聖光射』


 その飛来してくる黒い太陽に巨大な光り輝く十字が重なるように出現したと思ったら、カッっと眩い黒と白の光のせめぎ合いが発生し、お互いが打ち消しあい、それは一瞬の内に対消滅するように消え去った。


「戦っている内に思い出すじゃろう。わざわざ生まれ変わったんじゃ。存分に楽しめ!」


 エヴァが宙を引っ掻くような仕草をするとその空間から突然何本からの黒色の斬空波が立ち現れて、猛スピードでアトラスに向っていく。

 アトラスはそれを空高く飛び上がりそれを躱すした後に右手を顔の前に持ってきて人差し指を立てながら――


『ゴッドサンダー/神雷』


 大木のようないかづちがエヴァに降り落ち、凄まじい地響きのような落雷音を周囲に響かせる。

 神雷が直撃したエヴァは――その全身を黒い闘気に包まれ、無傷のようであった。


「『極暗黒闘気』じゃ。見覚えあるじゃろう?」


 聖光闘気と並ぶ、闘気術の最高峰。それの極み。

 エヴァが言うようにアトラスにはその黒色に輝く闘気は確かに見覚えがある。

 だが一体何処で目撃したのか?

 すぐそこに出かかっているようでモヤがかかっているようにそれは明らかにならない。


「それにしても神々があそこまで集結するとはな。あそこにいるだけで1、2……4神も集結しておったぞ。前代未聞じゃろうて」


 神々……その思考がアトラスに及んだ時に過去の邂逅が突然訪れる――





 全てを無色の水晶で構成されたその宮殿の玉座に一人の女性が腰を下ろして佇んでいる。

 宮殿は天空に浮いているのか、その透明な水晶の壁からは青空と雲とが間近に垣間見える。

 その女性は絶世の美女、という言葉でも足りないが如くの輝きを放っており、透き通るような透明感のある肌に純白のドレスを纏っていた。


「ヨハン、あなたにお願いがあります」

「なんでしょう、アテネ様」


 その女性に対して片膝をつき畏まって返事をしている一人の男性。

 今はまるで映像のように鳥瞰した視点で見れているが、そのヨハンと呼ばれた男性が自分自身である事をアトラスは悟った。

 ヨハンは白髪に白眼で白の祭服ような服装を身を身にまとっていた。

 これは俺の前世の記憶? でもこの場所は一体……?


「あなたに人間界に転生して欲しいのです」

「……その理由は何でしょうか?」


 人間界に転生? であれば、今いるこの場所は?


「これから先、人間界で大きな変換期を迎えるとの予言が、予言神ホーネットより出されました。それには闇の勢力が大きく関わっているらしく、その力と影響力を増大させるだろう――との事です。そこで神の尖兵として神自身であるあなたに人間界に転生してその力を行使して欲しいのです」

「……なるほど、承知しました。神が介入するほどの事態が発生すると……」

「ええ、過去にないような事態が発生するとの神託が下りましたので」

「御意にて。それでは私めが人間界へと降りまして、世界をかくある形へと導きます」


 神……だと?

 アテネ……ヨハン……。

 その時、アトラスの脳裏に一筋の光明が差しこみ、それによって膨大な記憶情報が一瞬にして転記されたように全てを思い出す。


 そうだ俺は女神アテネの従神ヨハン。光神ヨハンだ。

 人間どもを導き、誤った道に進むようであれば矯正するのが俺の役目。

 そしてもう一つの役目として、光の神の尖兵としての役割は――




「そうだ、お前たち闇の神どもを滅ぼすのが俺の役目だった」


 すべてを思い出したアトラスは天の仰ぎながらそう呟く。

 頭上には幾千幾万もの数え切れない星々の嘘のような輝きが煌めいている。


 そのアトラスの様子を見ていたエヴァはニヤリとして――


「やっと思い出したか。それは決着をつけるぞ」


 決着をつける。そうだ……千年前に起こったこの魔神エヴァとの対決。

 数日間戦い続けて決着がつかずに持ち越しとなったその勝敗。

 その決着をつける時だ。闇の勢力はことごとく討ち滅ぼしてやる!!


『ゴッドインディグネーション/神の憤慨』


 巨大な光の柱がエヴァへと降り落ちるが、その光柱からエヴァは飛び出て――


 宇宙の何処か。惑星すら破壊しかねないような神々の凄まじい攻防がそこで始まった。

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