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第87話 千年前の続き

 ロータスの槍から放たれたその突きは、丁度、その攻撃を躱した俺の後方にいた味方の顔面に直撃し、その顔面部を綺麗に消し去って、頭部を失った首からは噴水のように鮮血が吹き出していた。

 俺はすでに発動されている瞬神(しゅんしん)のスピードそのままに、槍の一突きを躱すとその懐へと入り込み、剣を横薙ぎに強撃した。

 その強撃はロータスによって防がれるが、その一撃はロータスの体を遙か遠くへと弾き飛ばず。

 ロータスとの攻防の二次被害であっても命を容易に落とすような状況である為、周りと距離を取るためのロータスを弾き飛ばしたのであった。


 数百メートル程弾き飛ばされた後、ゴミ山に降り立ち体勢を立て直すのもつかの間、ロータスの元にはすでに瞬神の超スピードの俺が追いつき、お互いに目にも止まらないような攻防が繰り広げられる。


「はっはーーーッ! 楽しいぞぉッ!! わざわざ地下くんだりまで来たかいがあったというものだッ!!」


 ガァキィイイイーーーーンッ!!!


 と剣と槍とが大きく弾き合う音を響かせると、お互いにのけぞりながら、再度距離を取り合った。


「素晴らしい。しかもお前もまだ本気ではないな? まさかこんな上玉と出会えるとは思ってなかった。お前もそうなんだろう? 自身の本気を出せないもどかしさ。数割の力しか発揮していないにも関わらずに周りから受ける過度な称賛。うんざりするような弱者との戦いばかりで戦闘と呼べるような戦いになる事自体が極めて稀。やっとだ! やっと本気を出せる相手に巡り会えた!!」


 そう宣言を行うとロータスは槍を天高く掲げる。

 すると地下世界にも関わらず辺りに暗雲が立ち込めだした。

 一体どんな原理だ? 暗雲はゴロゴロと音を鳴らし、その内で雷を育てているようであった。


「幼少の頃の話しだ」


 ドカーーーンっと近くの高い建物に雷が落ちた音がした。

 暗雲によりすっかり暗くなったロータスの顔が雷の光で一瞬だけ照らされる。


「その頃から俺は武芸に励み、ゆくゆくは勇者や英雄と呼ばれるような強者となる事を目標としていた。

 そんな折り、今のような暗雲が立ち込め、小雨が降り出した時の事だ。

 俺は平原の辺りに何も雨除けになるようなものがない状況でひたすら剣を振り続けていた。

 雨脚は強くなり、雷の音を暗雲が響かせさせ初めた時の事だった。

 頭を思いっきり殴られたかと錯覚するような轟音を耳にしたと思った時には、俺がその時掲げた鋼の両手剣を避雷針に天から雷が降り落ちてきた。

 普通なら即死だろう。雷がその威力が緩和されるような大木もなにもない状態で俺だけに直撃したんだ。

 だが俺は死ぬことはなかった。凄まじい衝撃は体感したが不思議と痛みはなかった。

 死なないばかりか俺は落ちてきた雷を俺の体に留め街まで雷を保持した状態で帰る事ができた」


 そう言って話しているロータスの周りではすでにバチバチと所々、電気がその一瞬の閃光を煌めかせていた。


「その日から周りからの俺を見る目が180度変わった。

 奴は人間の面を被った魔族なのではないのか?

 もしかしたら魔術師としてどんでもない才能があるのでは?

 特異体質のゴム人間なのではないか?

 いろんな事を言われたよ。心無い言葉も向けられたが、俺には強くなる事がすべて。

 そんな雑音を無視して修練を重ね、その後、俺は雷撃魔法を習得したある時。

 俺は自身に雷撃魔法を――初級の威力が弱いものを当ててみる事にしてみた。

 結果は? 分かったのは俺には雷撃は一切効かないという事。

 それどころか俺は雷撃を帯びた状態の方が身体能力、スピードも力も格段に上がるという事だ。

 雷撃自体の攻撃もプラスした状態でな。その時からだ。俺に敵がいなくなったのは。

 心の奥底を虚しく風が吹き抜け、誰もいない地平の荒野に一人ぼっちになったのは」


 鼓膜が破れるかのような凄まじい轟音と共にロータスに複数の雷が直撃した。

 ロータスは全身に雷撃を帯び、その体の色まで雷のような白色の光を帯びたような色へと変化していた。

 バチバチと音をたて、雷の電撃が上下左右に作用している。

 目の前にいるのは最早同じ人間とは思えなかった。


「勝てなくても残念に思うことはない。それは自然の摂理のようなものだ。

 俺にここまでの力を発揮させた事を誇りに思うがいい。

 人間は神に勝てないだろ? 今の俺は正に――――雷神だぁッ!!」





「ほう、あそこにも神気を発しとるものがおるのう。ランスは大丈夫か? 流石にあれは厳しそうじゃが……」


 お互いの陣営が戦いを繰り広げている中、エヴァはアトラスと向き合い、まだ戦闘自体は開始していなかった。

 エヴァはランスたちの方へと余所見していたその視線をアトラスへと戻して尋ねる。


「お前の今の名はなんという?」

「それは俺に向って尋ねているのか?」


 アトラスの胸中に疑問が想起される。

 妙な事を聞く女だ。今の名は、だと?

 今までの人生でアトラスは改名した覚えなどなかった。


「そうじゃ、まあお前がそちら側の陣営にいるというのはたちの悪い冗談のようで面白いがな」

「……アトラスだ」

「お前は?」

「エヴァじゃ……その様子じゃとまだ記憶は取り戻しておらんようじゃな?」

「……記憶だと?」


 アトラスは記憶喪失になった事もない。

 しかし、目の前に入る少女のような見た目の女に、強烈な既視感となぜか心の底から湧き上がってくるような敵意を感じるのは事実だった。


「よく分からんがまあいい、お前は気に入らんから全力を持って滅してやる」


 アトラスは普段は抑えているその力を解放する。

 それはエヴァが言う、神気であり、神気が発揮された周辺はすでに神域となっており、それは人外の領域だ。

 神気に当てられた周囲の人間たちは強烈な圧力、圧迫感を感じ、戦闘を行っていたものたちはその戦っている手を止めて、その圧力と圧迫の大元と思われるアトラスの方へと視線が集中する。


「そうじゃ、力を出し惜しみする必要はないぞ。最初から全力でこい。しかし、地下の、いや人間世界で我々が全力で力を振るうとこの世界自体が壊れてしまう――という事でな」


 パチンっとエヴァは指パッチンを一つ行った。

 するとアトラスに周囲の光景と景色が一瞬、真っ黒に変わったと思ったら――次の瞬間には全く見覚えのないような場所に降り立っていた。

 アトラスは辺りを見渡す。そこにいるのはエヴァ一人のみ。

 大理石でできているような光沢をもった真っ白な地面が無限に広がるかのように地平が平行に広がり、頭上には眩いばかりの星々が宇宙に煌めいていた。


「……何処だここは? 時空間魔法か?」

「とある宇宙の一角に作ったわしの領域じゃ。とはいっても安心しろ。わしを倒せばの時空間は消滅して元いた場所に戻れるし、お前の力が制限されるという事もない。逆にわしへの制限もこの空間では撤廃される」


 エヴァは頭上に手を掲げるとそこに黒色の円球が現れた。


「それじゃあ、始めるとするか! 千年前の続きをな!」

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