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第84話 忌み子

 感情が薄いとよく言われる。

 幼い時、生まれた時からの白髪と白眼。

 もしかしたらそんな見た目も影響しているのかもしれない。


 名はアトラス。齢いは若干16歳で神聖教徒都市の神官の中でも最高位の最高神官位を承っている。

 そもそも神官という役職は極々限られた高い魔術の才能と、それに加えて聖属性の適合率が高い者、数十万人に一人と言われるような聖属性への適合率を見せた者のみがなれる役職であった。

 時には何年も神官にたる才能と実力の持ち主が新たに見つからない時もある。

 そんな神官の中でも頭が何個も飛び抜けているような才能の持ち主。

 最高神官という役職は彼という存在があって、教会の長い歴史の中で初めて用意された役職であった。


 アトラスは辺境の田舎、北部の冬は極寒となる寒村で生を受けた。

 アトラスが生まれた時、最初は忌み子が生まれたのかとその村には動揺と不安が広がる。

 理由はアトラスの見た目。白髪と白眼による為であった。

 処分するべきだ、という意見。

 いや、山に捨てるべきだ、という意見。

 ネガティブな意見が多数を占める中で、結論を決めきれない時にその村の小さな教会の祭司をしていた男が一つの啓示を受ける。

 その男の夢の中に女神アテネが現れて、その子供、アトラスを大切に育てるように仰せつかったというのであった。


 その村は田舎の辺境にはあるが神聖教徒教会、ないしは、女神アテネへの信仰は比較的強い村であった。

 祭司といっても折に触れて儀式の手順を知っているにすぎず、普段は農作業をしている、農家が本職のような男の言うことだ。

 半信半疑といった形でネガティブな意見を持っていた村人たちは、渋々その男が受けたという啓示に従い、アトラスの成長を見守る事にする。


 アトラスは変わった赤ん坊であった。

 泣くことがほとんどない。笑うような事もなく感情の起伏がほとんどない赤ん坊であった。

 そんなアトラスの様子を聞きつけると、やはり山に捨てておけば……などと口汚く蒸し返すものも中にはいた。

 彼への評価が一変したのは彼がほんの3歳の頃であった。


 魔力鑑定屋。そう呼ばれる男が何年ぶりにその村に訪れる。

 彼は世界中を周り、魔力やその適正を判定して、才能がある子どもを青田買いする、という職業を生業としていた。

 魔術への適正が分かる彼のその鑑定は、無料で受けられるという事も相まってその村では重宝されるものだった。

 才能の優劣ではなく、魔術への適正の有無だけで一喜一憂する村人たち。

 そんな彼らの様子を微笑ましくも見守っていた魔力鑑定屋は一風変わった幼子の話しを村人から聞きつける。


 アトラスはその時、齢いがまだ3歳という幼子だったため、両親もまだ鑑定を受けさせるつもりはなかった。

 娯楽の少ないその村では、子や親類の中に鑑定を受けるものがいればお祭り騒ぎのようにもなっているそんな中、彼らは家に引き込もり、ひっそりと過ごしていた。

 魔力鑑定屋が興味本位といった感じで鑑定を申し立ててきた際に、最初、両親は断りを入れるが、もし魔術の才能でも垣間見れれば村人たちのアトラスを見る目ももう少し良好なものになるかも、という期待も湧いてきて受けるだけなら無料なのでその鑑定を受けてみる事になった。


 魔力鑑定屋の青年の名前はバモスという。

 代々が魔力鑑定屋の家計で、僅か12歳の頃には父について世界中を鑑定の旅に出て、見聞を深め、鑑定の流儀と注意点とを把握し、18歳の時に独立して、それから7年くらいの間、一人で世界中を鑑定の旅で廻っている。

 今の所、彼はまだ、ダイアモンドと言えるような素材、光り輝くような才能には出会えていない。

 一方、父は20年以上の鑑定の旅を続け、遂に伝説級と言われるような才能を掘り当てて、ささやかな生活であれば、それで一生を過ごせるというような報酬を経て、その鑑定の長い旅路を終えて引退して静かに母と隠居している。


 机の上に下敷きを敷き、魔力を鑑定する特別な水晶玉をその上に載せる。

 その水晶は世界でもただ一箇所でのみ取れる特別な水晶で、乱獲されないように魔力鑑定屋を継承した人間だけがそれが存在する場所を知らされていた。

 その水晶はその人間が持っている潜在魔力に反応し、灰色から始まって、水色、青、緑、赤、黄色というように魔力の強さに応じてその色を変化させていく。

 潜在魔力が全くなければ水晶の色は透明なまま、もっとも弱い潜在魔力で薄い灰色、強ければ赤に更に強ければ黄色。伝説級だとオレンジに、神級だと黄金色に光り輝くと言い伝えられている。


「じゃあ、この水晶に触れてみてくれるかな」


 白髪に白眼の奇異な見た目のその幼子。

 一目みてバモスは直感によってこれは期待薄かなと感じる。

 彼のその長い鑑定の経験によって、その人がどれくらい潜在能力を秘めているのかが見ただけでもある程度は測れるようになっている。

 もっとも大きく外す事もあり、まだ父ほどの目利きの精度には至っていない事も事実であるのだ。


 その幼子は頷く事も口頭で同意する事もなく、無表情にすっとその手を水晶へと重ねる。

 特別な術式を組み、バモスはその水晶へ魔力を共有する。すると――

 水晶の色は何も変わらない。やはりダメだったか――とバモスが鑑定の終わりを告げようとした、その時――


 眩いばかり黄金色の光が水晶から発せられたと思ったら、その光量はあっという間に増していき、目を開けていられないような光の強さとなる。

 突然の想定外の事でアトラスと両親とバモスとの悲鳴にも似た驚愕の叫び声が発せられた後――


 バリンっと何かが砕けた音がした後に、その目も開けていられない眩い光が消え去っている事に気づいて、バモスは恐る恐る、その瞳をゆっくりと開く。

 するとそこには信じられない光景が――粉々に砕け散った水晶の姿がそこにあった。

 そしてそれを無表情に見つめる幼子のアトラス。

 その様を確認した時、バモスは背筋が凍るような戦慄を覚える。


(一体、俺が今、目の前で目にしている光景はなんなのだ?)


 長く言い伝えられている伝承の中にも鑑定の水晶が粉々に破壊されたなどという話しは聞いた事がなかった。


「あ、あの、鑑定の結果はどうだったんでしょうか?」


 アトラスの母親が恐る恐るといった感じでバモスに聞いてくる。

 父親も身を乗り出して鑑定結果に興味津々の様子であった。

 どう伝えるべきか…………そもそもこの鑑定結果をどう判断するべきか…………。


 聞く所によるとこのアトラスという幼子。

 奇異な見た目もあって生まれた当初は忌み子という声も上がり、恵まれない生い立ちとなっていると聞く。

 鑑定結果は良い方にも、だが悪い方にも判断する事はできた。

 水晶を破壊するほどの異質な何かをこの幼子が持っているという可能性も……。


「…………今の所はなんとも言えません。いや、この水晶寿命だったみたいです。最後はこうして強い光を発して粉々に破壊されるんですよね。また新しい水晶が用意できて、この村に立ち寄る事があったらその時にお願いします」

「そうですか……今回はありがとうございました」


 両親はバモスが咄嗟についたその嘘を信じ、彼に二人は深くその頭を下げる。

 バモスが若干の罪悪感とともに感じるのは恐怖と歓喜が混じり合ったような複雑な感情。

 もし光の種類と強度で判断するなら彼は間違いなく神級の才能。

 神級の中でも今まで魔力鑑定屋たちが見出してきた中でも最高の才能という事になる。

 そうなれば彼は一攫千金を手にして一気に億万長者へと上り詰めるだろう。


「では」

「はい、ありがとうございましたー」


 アトラスの住居を出た後。

 バモスは元々は長旅の疲れもあるので少しこの村でのんびりしようと思っていた。

 しかしアトラスの鑑定を水晶で測れない以上、今度は潜在魔力を測る特別なスキルを持っている上級魔術士を連れてくる必要がある。

 それには費用がかかるが、それを補って余りある結果が得られる可能性が高い。

 もし他の魔力鑑定屋がアトラスの鑑定をしたとしたら……。

 こんな辺境の田舎村を立て続けに絶対数が少ない魔力鑑定屋が訪れる事はほとんど可能性として考えられない事であるがそれはゼロではない。

 そう思うとアトラスはもう居ても立っても居られない心持ちとなった。


 現実味を帯びてきた富豪への夢。

 大金を手に入れ早々に引退をして悠々自適の生活を送るというその夢。

 それが叶えられるかもしれない。

 彼は彼が乗ってきた馬車へと走って向かう。

 一刻も早く魔術師を捕まえて連れてこなければならない。

 馬車への道中、幾人かの村人に声をかけられたような気もしたが、彼の頭の中は触れるとすぐにでも消え入りそうな夢芥の事で一杯になってしまっていた。

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