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第76話 お楽しみ

 到着したのは入り組んだ路地裏の先の空き地。

 四方を地下天井まで高くそびえ立つ建物に囲まれ、袋小路となっている場所だった。


「あら、どこなのここは? 何もないみたいだけど、今日は最初は市場やお店を見て廻る予定ではなかったかしら」


 ヒルデガルドは馬車を降り、キョロキョロと周りを見渡している。


「エドガーさん、こちらはどこでしょうか?」

「………………」


 執事のランドルフは問うが、エドガーはそれに答えず下を向き、そして右手を上に上げたかと思うと――

 ワラワラと袋小路のその空き地の入り口を塞ぐように10数人の男たちが現れた。

 男たちはみな人相は悪く、それぞれその手には剣にメイス、鉄鎖、短剣などを携えている。


「くっくっく、クソうぜえ我儘なクソガキのおもりはもう終わりだ」

「なっ、何を言ってますの? そんなに大勢の人たちを集めて……どうするつもりですの?」


 ヒルデガルドはその顔を青くして狼狽してみせる。


「執事は殺す。従者の女二人はお楽しみの後に売り飛ばす。お前は……そうだな、俺たちの中にロリコンがいるだろう。そいつに可愛がってもらっている様を見て楽しむとするか」

「そんな、私がエストール家の者だと知っているのですか!? 教会都市でも非常に力を持った大貴族ですわよ!」

「だから、身代金をふんだくれるんだろうが。貴族だあ? はっ、地下都市で地上の貴族なんぞくそ程の力もねえよ。てめえのような我儘なクソガキ、礼儀から何からたっぷりと教育してやるから覚悟しな!」

「な……なな……ランドルフーーーーーッ!! なぁんとかしなさあーーーいーーッ!!!」


 ヒルデガルドはヒステリーを起こして空気を切り裂くような、非常に高音の不快感を覚える金切り声の叫び声を上げる。


「ひゃははははぁあーーッ! それじゃあ、今までのフラストレーションを解消させてもらうとするかぁ! みんな手筈通り頼むぞ!」


 エドガーのその合図で男たちは歩みを初め、ヒルデガルドたち一団との距離を詰めていく。


「ランドルフ! アリーゼ! ヘルガぁ! なんとかしなあさあいいいいいーーーッ!!」


 パニックに陥り、恐怖に震えながら叫ぶヒルデガルドその言葉を受け、アリーゼとヘルガがおろおろと健気に男たちに向かっていく。

 一方のランドルフはどこかに逃げ場はないのかと周囲を必死にキョロキョロとしていた。


「お願いします。私たちはどうなっても構いませんのでお嬢様だけは……」


 アリーゼとヘルガに後、2、3メートルの所まで到達すると男たちは歩みを止めて、期待の笑みを浮かべながら好奇の目を彼女たちに注ぐ。


「どうなっても構いませんかあ、じゃあ、俺たちの相手をしてもらおうかあ」

「透明感のあるきめ細やかな白い肌! たまらねえなあ! むしゃぶりつきたくなるいい身体してやがる!」

「おい! 最初は俺だぞ! クソ面白くないクソガキのおもりと案内を担当したんだからな!」


 そう言ってエドガーが一歩前に歩みより、それに合わせてアリーゼもエドガーに歩み寄り、二人は向かい合う。


「へへへ、いい心がけだあ。大人しくしてれば優しくしてやるからな。もっとも泣き叫んでもいいぞ。俺はそっちでも興奮するたちだかららなあ」


 エドガーはアリーゼの胸部ブラウスのボタンで止められている部分に両手を当てると――

 ビリビリビリーっと服は破かれ、その隠されていた胸の膨らみが顕になる。

 それと同時にエドガーはアリーゼの口に自身の唇を重ねて、そして舌をアリーゼの中に侵入させて、アリーゼの口の中を貪る。


「ううーーー」と抵抗しようとするアリーゼの両手を抑え、そして今度は双丘の頂きを隠しているブラも剥ぎ取り、それを強引に揉みしだく。

 アリーゼの口からは恥辱と嫌悪の喘ぎが漏れ出る。


「たまんねえなあ、おい」

 男たちは安場のストリップショーでは見れない、素人娘の陵辱ショーに鼻息を荒くして目を奪われている。

 すると一人の男がガバっと今度はヘルガに強引に抱きつき、服の上からその身体中をまさぐりながら、その唇を奪う。


「あっ先越された! ずるいぞ!」

「くそぉ!」


 他の男たちの不満の声が上がった、その時――

 アリーゼの口を貪っていたエドガーがその身体をビクっとさせたかと思うとうめき声を上げ始めた。

 エドガーは目を血走らせて必死にアリーゼと交わしていた口づけを止めようとしているようにも見受けられる。


「ゔゔゔぅーーーッ!!」

 エドガーは遂にはその瞳に涙を溜めながら声にならない悲鳴を上げ始めた。

 一方のアリーゼはエドガーの口を貪り、何やら咀嚼しているようにも見てとれた。


 エドガーはアリーゼを跳ね除けるようにして、二人はようやく離れた。

 すると、どういう事だろう。エドガーとアリーゼのその口は鮮血によるものなのか真っ赤に染まっていた。

 それにアリーゼは何か咀嚼をしている。


「お゛ゔぇのゔぃあ゛お゛ーー」


 エドガーは何かの言葉を発しているがそれが何を意味しているのかみんな読み取れない。

 一方、アリーゼは咀嚼していたものを飲み込むと――


「久しぶりに殿方のタンを食しましたが、やはり美味しゅうございますねぇ」


 口周りを真っ赤に染めながらニィっという笑みを浮かべる。

 その笑みはか弱い乙女がするものではなく、上位の捕食者がするものだという事を集結している獣の男たちは本能的に悟り、総毛立つ。


「てめぇ何者だぁ!」

「エドガーの舌を食べただと!? このキチガイめ!」

「キチガイだなんて心外ですわ。あらエドガーさん、まだ食事の途中ですよ。逃げないで下さい!」


 いつの間にかアリーゼのその口からは人間ではありえない、大きな牙が垣間見える。

 徐々に顔形が人間の女から獣、肉食獣のように口は巨大化していき、身体中から白い体毛が生えてきている。

 爪が突き出たその体毛にまみれた手でがっしりとエドガーの両肩を掴むとその大きな口を開けてがぶりっと男の肩口にアリーゼは噛み付いた。


「こいつぁ、ライカンスロープだ!」


 男たちに一気に緊張が走り、それぞれの武器を構えて戦闘態勢へと移行する。



「あひぃいいいいいいいーーーッ!!」


 一方、今度はヘルガを襲っていた男の口から素っ頓狂な叫び声が上がる。

 叫び声を上げた男の表情はどこか狂気を携えた恍惚を覚えているようにも感じられる。

 ヘルガの顔は男との首筋に埋まり、男の足は震えて、遂には失禁をしたようでその足元の地面を濡らした。


 ヘルガがその顔を上げるとアリーゼと同様にその口は真っ赤に染まっている。

 そして鮮血で濡らしたその口と同様にいつの間にかその瞳も真紅の瞳へと変わっていた。

 首筋をおそらく噛みつかれていたであろう男はその場の地面に崩れ落ちる。


「はあああーーー。久しぶりの食事、最高ですわぁ。でもこんなにもたくさん……食べきれるかしら」


 ヘルガはまるで好物の食事を目の前にした乙女のような期待に満ちた笑みを浮かべている。


「て、てめえは、ヴァンパイアだな! こいつらを売り飛ばすのは無理だ! 遠慮はいらねえ、ぶち殺せ!」


 アリーゼとヘルガ。

 二人の正体をようやく認識した男たちはその化け物に向かって一斉に躍りかかる――


 が、アリーゼの前蹴り。ヘルガの右フック。

 その攻撃をくらった二人の男はそれぞれ、紙風船のように軽々と宙高く舞い吹っ飛ばされる。


 前蹴りをくらった男は信じられないような吐血をして、おそらく内蔵が破裂したのだろう、その後、絶命し。

 右フックをくらった男は左顔面を大きく陥没させ、右後頭部からは衝撃で頭蓋骨が一部破裂したのだろう、何かしらの汁と中身とを外に撒き散らしながらピクピクとした後に絶命した。


「あら、弱すぎますわねえ、この肉袋たちは」

「私、人を食す時は生きたままの踊り食いが好きですの。殺してしまわないように、後で楽しんで食事できるように気をつけないといけませんわね」


 それから後にされたのは一方的な虐殺だった。

 アリーゼは時に攻撃してくる者の身体を、首を腕を足を噛みちぎり、その味を存分にゆっくりと咀嚼しながら堪能し、ヘルガは吸血によってその命の最後の灯火が潰えるまで吸血によって生じる恍惚を男たちに味あわせてやった。


 一人の男が逃げようと這いつくばって地面を這っている様を目撃したヘルガ。

 彼女は這いつくばっている男の足を無造作に持つとそれを重力を無視したように振り回し、最終的には地面に叩きつけられると、その衝撃で頭蓋骨は粉砕されて脳が飛び散る。


「あははははーーははははーーひゃああーーはっはっはっーーーッ!!!」


 彼女たちの狂ったような嬌声が周囲に響きわたる。


 ランドルフは行き止まりの建物にもたれかかり喜悦の表情でその虐殺の光景を眺めている。

 ヒルデガルドもまた先程までの演技はどこにいったか余裕の表情で、口元に笑みを浮かべながらその饗宴の様を楽しんでいた。

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