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第74話 大人の階段

 ダインとの攻防。 

 お互い連撃を繰り出し、双方、その手数が数百は優に超えたであろうその時。

 バディストたちが戦っていた方向から激しい爆発音がしたと思ったら、地下通路の壁が破壊され、そこからものすごい勢いで水が吹き出して一気にこちらに流れてきた。

 踏ん張ろうとしたが、その水量と勢いは凄まじくあっけなく流されていく。

 ダインも流されていたが途中、二股の通路を俺が右方向、ダインは左方向へと流されていった。

 同じ方向に流されているバディストの姿を確認し、そちらの方向へ手を伸ばす。

 何度か失敗した後にバティストも伸ばしたその手を掴み、彼女を俺の方へと手繰り寄せ、抱きしめて自身が盾になるような態勢を取る。


 一体何メートル流されたのだろうか。

 幸い流されるままで二人とも何かの障害と激しくぶつかる事もなく、排水の貯水か、または、何かの倉庫にでもしようとしていたのかという広い空間に当たり、そこの上段部分の手すりのような鉄の棒を掴み、上段の地面に浮き上がって俺たちはその水流から命からがら逃れた。

 お互いビショビショのまま、そこの地面に座り込む。

 地下水は続けて勢いよく流れた後、しばらくして勢いが弱まり、溜まっていた地下水が流れきったのか水は続けて流れてこなくなった。


 俺たちは顔を見合わせ――

 お互いに笑い合った。


 何が面白いのか?

 明確に面白いことなんかない。

 突然の襲撃から戦闘。そして地下水の激流に飲まれ、命からがら助かる。

 あり得ないような状況からの生還に精神が弛緩したのも作用したのかもしれない。

 お互いにひとしきり笑い合った後――


「ビショビショだね……微妙に臭いし、ちょっと水で流したいけどこんな所にシャワーなんか有るわけないよね」


 バティストは上半身に着ているシャツを摘みながら顔をしかめている。

 俺は辺りを見渡す。近くに鉄製の扉があるのを確認し、そちらに向った。

 鍵がかかっているかと思ったが、そのドアノブはなんの取っ掛かりもなく回り、その扉は開いた。


 部屋は何かの詰め所か何かのように思われた。

 但し、その埃の溜まり具合から昔の施設でおそらく今は日常使いはされていないだろうと思われた。

 部屋には5つのロッカーと、その奥に鉄パイプで作られたべットが一つ。

 布製のカーテンの仕切りで区切られたシャワーまでも完備されており、小型のキッチンシンクまであった。

 シャワーの給水の蛇口を捻ってみると、冷たい水が流れ出る。

 匂いを嗅いでみるが変な匂いはせず、色も濁る事なく、透明な水で普通に使えそうだった。


「あっ! シャワーあるじゃん!」


 遅れて部屋に入ってきたバティストが嬉しそうにいきなり上半身のジャケットを脱ぎ去る。

 その下に着ているのは薄手のシャツで、水に濡れている事もあり、その胸部からはピンク色の突起が確認できた。

 俺は慌ててそれから目を逸らせる。


「先にシャワー使うね」


 バティストはシャワーのカーテンで仕切りを作ると、ぽいぽいと自分が着ていた衣服を無造作に傍らに放り投げ。

 最後にパンティーが投げ捨てられた後、シャワーの蛇口を捻り、その水を頭から被っている様がカーテンの向こうに見えるその影によって確認できた。


「タオルってないよね」


 シャワーが終わったバティストはカーテンの隙間からひょっこりと顔を出して尋ねてくる。

 俺はいくつかあるローカーを開けて確かめてみると、一つのロッカーにバスタオルが重ねて積まれていたのでその一つをバティストに手渡した。

 バティストは身体を拭いた後、バスタオルを身体に巻いて出てきた。


「ランスもシャワー浴びなよ」

「ああ」


 途中バティストとすれ違った時、彼女から漂ってきたなんとも言えない匂いが俺の鼻孔に入ってくる。

 どこか生活感があるような匂い。水のようであるが水そのものではない匂い。どこかで嗅いだ事はあるがそれを思い出す事ができない匂い。

 服を脱ぎ蛇口を捻り、シャワーを浴びる。


 先程、彼女の双丘の頂きを確認した為であろうか。

 それとも先程嗅いだ匂いからだろうか。

 シャワーを浴びた後の濡れ、艶やかで、そして無防備な彼女の姿を確認した為であろうか。

 俺の股間部は自身の意思に反してどうしようもない熱みを帯び始めていた。

 俺はカーテンの影からそれが確認できないように気をつけて彼女がいる方向を背にしてシャワーを浴びる。


 一通りシャワーを浴びた後にその蛇口を締める。

 腰にバスタオルを巻くが熱を持ってしまった股間部はそのままの状態であった。

 このまま出ればその不自然な盛り上がりは彼女にバレてしまうだろう。

 どうするか……。


 苦肉の策で多少不自然ではあるが、俺は片手で股間を抑えながらカーテンを開ける。

 どこからか見つけたのかバティストは部屋の端から端に紐を掛けてそこに俺たちの衣類を掛けてくれていた。

 彼女はべットに腰掛けその瞳から……涙を流していた。

 何かあったのだろうか?


「……大丈夫?」

「う、うん」


 その涙を拭って彼女は何でもないように振る舞う。


「服、一応、そこの洗面所で洗って干しといたから」

「ああ、ありがとう」


 その部屋には何故か椅子もテーブルもなかった。

 撤去したのだろうか。俺は手持ち無沙汰になり、股間を抑えながらその部屋で突っ立っていると、彼女はべットの隣を手で叩きながら――


「何してんの、ここ座りなよ」


 促されるままに俺はべットの隣に座った。

 隣に座ると彼女から漂う先程嗅いだ匂いが俺の鼻腔を刺激する。

 その首筋から顕になっている肩。双丘の膨らみは隠されているが、その控えめな谷間から柔らかな盛り上がりは確認できる。

 シャワーを浴びたばかりのその肌は瑞々しく感じられ、白いその肌はまるで透き通るように美しい。

 手で抑えたままのそれは、勢力を弱めるどころかますますその力を強大なものとしており手に負えなくなっている。


「さっき泣いてたように見えたけど……」


 俺はバティストに問いかける事によって自身の状態を誤魔化そうとする。


「……シドはさ」


 と伏し目がちな様子でバティストは言葉を続ける。


「実は私にとっては育ての親同然でさ……孤児になって地下世界に堕ちた時に拾ってくれた恩人なんだよね。なんで今みたいになってしまったのか分かんないんだけど、昔をちょっと思い出したら、どうしようもないような寂しさを感じてしまってさ……」

「そうか……」


 俺は自分で問い掛けたにも関わらずバティストのその返答に気の利いた事を返せない。

 若くしてレジスタンスを引いているその様により、非常に強い女性なのかと思っていたが、年相応な部分もあるのかもしれないなと思っていると突然――


「あのさ……」

「何?」

「その右手に何隠してんの?」

「いや……別に何も隠してないけど……」


 狼狽して俺は答える。


「いや隠してるでしょ! ちょっと右手出しなさいよ!」

「ちょ、ちょっと止めて!」


 バティストがバスタオルの中に隠した俺の右手を出させようとするのを、俺は必死で抵抗する。

 しばらく揉み合いがされた後に――俺の股間の盛り上がりが彼女の瞳に顕になる。

 彼女はそれを確認して少しフリーズした後にその頬を赤く染め、そして恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 だから止めてって言ったのに……。


 気まずい空気が辺りに流れる。


「その……それって苦しいの?」

「うん? まあ、苦しいって言えば苦しいかな? でもまあ生理現象みたいなもの……」


 なんとか取り繕おうとした俺の言葉を遮るように彼女は突然、自身の唇を俺の唇と交わしてきた。

 最初はあまりの突然の事で頭の中が真っ白になるが、しばらくして柔らかい彼女の唇の感触をしっかりと感じる。


 唇を交わしているその間、まるで時が止まったようにも感じられた。


 キスを交わした後、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

 その様子は何かの弾みでうっかりやってしまったという風にも見えた。

 その様を愛おしく思う。

 先程、彼女が言っていた寂しさに今の行動は何か関係があるのだろうか?

 俺の事をもしかしたら好きなんだろうか? キスをするぐらいなんだから。

 いろんな考えが俺の頭の中で渦巻くが――


 俺は彼女の右肩を手で掴み、自分の方へと引き寄せる。

 考えての行動ではない。身体がかってにそう動いていた。

 少し不安そうに、その濡らしたようにも感じられる瞳を上目遣いで彼女は俺に向ける。

 今度は俺の方から彼女に自身の唇を重ねていく。


 何かの拍子に重ねられた唇のその口が開らかれ、俺の舌先が彼女の舌先に触れる。

 その瞬間、彼女は身体をビクッと震わせる。

 俺の舌はそのまま彼女の中へと侵入し、彼女の舌と絡み合う事になる。


 まるで脳が痺れるかのような快感を感じる。

 たかだかキスがこんなにも気持ちがいいものなのか。

 快感のままにお互い、俺は彼女の唇を貪り、最初は躊躇していた彼女も俺の首へと腕を回して唇を貪る。


 いつしか俺の手は彼女の胸部へと向かう。

 その膨らみと柔らかみを手の平で感じる。

 胸部の頂きに触れた時、その身体はビクッと振動する。

 まだ唇は交わしたままだ。


 バスタオルの上からその柔らかな膨らみを揉んでみる。

 重ねた彼女の口から吐息とともに声が漏れる。

 布の上からもしっかりとその膨らみと柔らかみは感じられるが――

 バスタオルを下に引き剥がすとその美しい双丘が顕になる。

 俺はキスをするのも忘れて感嘆のため息をついた後、その美しいその双丘に目を奪われる。


「やだ……恥ずかしい……」


 頬を染めた彼女が俯いて言う。

 俺はそのまま彼女をべットに押し倒した。





 目を覚ますとべットの隣にはソーニャが裸で寝ていた。

 そのふくよかな胸はシーツに隠されて寝息と併せて僅かに上下している。


 バティストと肌を重ねた後。

 大人の階段を登ったその日から俺のパーティーメンバーたちを見る目が少し変わった。


 最初に覚えたのは罪悪感だ。

 バーティーメンバーの彼女たちの自身への好意は当然知っていた。

 不貞を働いたような、裏切ったような罪悪感。

 それとともに彼女たちをただの仲間ではなく女として明確に見るようになった。

 それまでは気づくことがなかった彼女たちそれぞれに女としての魅力を感じ、時折情欲を覚えるようになってしまったのだ。

 女を知ったという事。それに地下世界特有の退廃的な雰囲気も影響したのかもしれない。

 覚えた罪悪感を振り払うかのようにミミを誘い、エヴァを誘って夜を共にして今日はソーニャを誘った後の事後であった。


 もしかしたら、これで今までの関係性が崩れてしまうかもしれない。

 でも、もしそうなったとしてもそれはそれで良いと思っている。

 そしてそうなった時に悪いのは自分だ。

 その責と咎を負うしかないだろう。


 部屋の中で控えめに灯っている蝋燭の灯りによって、ソーニャのその肌は幻想的な白みを帯びている。

 事後の心地よい倦怠感は少し寝たことによってもう薄れていた。

 不意にバティストと肌を重ねた時の事を思い出す。

 彼女はその時、かすれるような声で鳴いた。

 それは今まで聞いた事がない種類の声であり、その声は俺の情欲を非常に刺激した。

 彼女とはあの時がまるで泡沫の夢であったかのようにそれ以後関係を持つ事はなかった。

 だが彼女のあのハスキーボイスはその後も時折俺の脳裏に想起されて情欲を強く刺激する事になる。


 下半身にまた熱が帯びている事に気づく。

 目の前の素晴らしい肢体。

 艶やかで、なめかしく、貪りつきたくなるような肌。

 俺は寝ているソーニャをびっくりさせないように優しく愛撫を加えていく。

「ん……あっ……」 と目を覚まして喘ぎ声を上げたソーニャの口を塞ぐように貪る。


 彼女はそんな俺の首に腕を回して、その愛撫と愛情と情欲とを受け入れて快楽の深い海の底へと溺れていった。

いつの間にか「いいね」機能が実装されている事に気づいて機能を有効にしました!

これいつから実装されたんだろ?

こういう機能実装をお知らせで知らせなさいよ、なろう運営さんと思う今日この頃。


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