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第72話 レジスタンス

「お前は、あの襲撃の時の!? ……落とし前をつけに来たって訳かい?」

「そのつもりだったが……少し、話しがしたい」

「話しって何の?」

「俺たちは最近地上からこの地下都市に邪神の情報を求めて来たばかりなんだけど。それで情報収集してたら双頭の蛇のシドからギブアンドテイクという事で、邪神に関係があるというアサシン教団の情報を得る見返りの為に例の荷物の警護の任務を受けたって訳なんだ。だけど、この子たちから聞いた感じではどうやら、裏がありそうだなと……」

「姉御! 騙されちゃいけないぞ! 双頭の蛇の手がかかった奴なんて汚い大人の仲間に決まってる!」


 俺たちに取り押さえられてる少年は必死に声を張り上げて叫ぶようにバティストに訴えかける。


「……こっちについて来な。お前ら、後は私たちに任せて大人しくしときな!」


 バティストは顎をシャクってついてくるように促す。

 俺たちは取り押さえていた少年たちをそっと解放する。

 少年たちは小動物が威嚇するような敵意を剥き出しにした表情を浮かべながらもバティストの指示に従い、その場から走り去っていった。

 無言で歩を進めていくバティストの後を俺たちは追う。


 地下都市のさらなる地下。

 直径で民家なら5軒くらいは入りそうな広さがある円筒状の大穴が空いており、その円筒の壁面にはそれぞれ住居らしい入り口が等間隔で配置されて、鉄格子の通路と階段が配置されていた。


 バティストを先頭に地下のさらなる地下と向って階段を下に降りていく。

 来訪者が物珍しいのかそこに居住している子供たちは、それぞれの部屋から顔を覗かせて可愛らしい好奇の眼差しを俺たちに向けていた。


「ここにいる子供はみんな孤児だよ。地上、または、地下で両親を亡くした子供たちだ」


 5階相当の高さのその階段を降りきると地面が表れた。地下のそのまた地下の地面だ。

 中央部にかなりの光を発する円球状の灯火器が吊り下げられている為、明るさは通常の地下都市よりも明るいくらいだった。

 上を見上げると多くの子供たちが鉄格子の通路からこちらを注視している。


「座りな」


 無造作に置かれている椅子にバティストたちは座り、俺たちも彼らに向かい合うように適当に椅子に座る。


「最近地上から腕の立つ集団が来たというのは噂には聞いていた。あんたらがその集団だね」

「ああ、そうだ」

「それで双頭の蛇のシドに、アサシン教団の情報を餌に良いように使われてたって訳か」

「良いようにかどうかは分からないけど……」

「良いように使われてんだよ。あんたらが運んでいた荷物、何だか分かってるのかい?」

「いや、詳しくは聞いてないけど……」

「あの中身はポーションやエーテルだよ。魔光液をベースにしたね。そしてそれを製造してるのは奴隷労働に駆り出されている地下都市の孤児たちだよ!」

「奴隷労働!? …………どういう事だ?」

「双頭の蛇の奴らが孤児を攫って、強制的に奴隷労働をさせてるんだよ」

「………………」


 ふと見ると子供の数人が好奇心に負けてこちらに恐る恐るといった感じで近づいてきていた。

 こちらが気づくと、きゃっきゃっと駈けて離れていく。

 バティストの方へ再度、向き合うと子供たちのその様子に彼女は優しい眼差しを向けていた。


「シドのクソババアは人を騙すのがうまいからね」

「うん? そっちも何か因縁でもあるのか?」

「別に……まあ奴らはクソ野郎だって事だよ!」


 そこまで話した所で上空の上層部から少し物音が聞こえる。

 上を見上げると……何かの集団が下にロープを垂らし一気に階下へと滑り降りてきた。

 バティストたちはその様子を確認すると一気に気色ばむ。


「みんな逃げな! シュガロ、ロータス、迎撃するよ!」


 バティストたちは俺たちを襲撃した時にも使用していた、2本の警棒をそれぞれ腰から抜き去る。

 子供たちは、予め言い聞かされているのだろう、最下部に空いている大きな地面の横穴に一目散に逃げていく。


 ロープから降りったってきた来訪者は、シドにダイン、それに酒場で見た顔がちらほらの総勢7名のメンバーだった。


「ランス、何、敵と仲良くテーブルを囲んでるのさ。こいつらは捕縛すべき敵だよ」

「黙れ! この、裏切り者が!」


 バティストは歯をむき出しにして怒りと憎しみの炎をその瞳に浮かべていた。

 対するシドはその冷笑を崩さない。やはり二人には何か因縁があるようだ。


「育ての親に随分な言いようだねえ」

「育ての親?」

「……元々は孤児たちを取りまとめていたのはこのシドだよ。それが2年くらい前から突然、奴隷労働に孤児たちを斡旋するようになって……。なんで……なんでなんだよ! シド!」

「なんでって、正当な対価をもらっただけの事じゃないか。そのままではなんの価値もない孤児たちを取りまとめてやっていたのだから、それを労働という対価で返してもらうのは当然の権利だと思うけどねえ」

「奴隷労働の工場がどれほど酷い場所かお前もよく知ってるだろうが! お前がやっているのは鬼畜の所業だ!」

「やれやれ、やはり分かり合えないねえ。私はお前の事を実の娘のように思っているんだよ」

「いけしゃあしゃあと、どの口が言う!」


 バティストはその感情の爆発によって、弾かれたように飛び出してシドに向ってその警棒を振り下ろすが――

 それはシドの魔導機械のアーマーの右腕によって防がれ、即時に左拳がカウンターで放たれる。

 バティストは腕を十字にその攻撃を防いでいたが、その体はその衝撃によって後方へと大きく吹っ飛ぶ。


「愛娘の教育もいいけど、今日の狙いはそうじゃないんだ」


 シドはその視線を横穴に向けたと思ったら、その横穴へと向って走り出した。


「クソぉ! 子供たちは渡さない!」


 バティストとその仲間たち、そして俺たちもその後を追った。

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