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第70話 襲撃

「シドからの……こっちだ」


 約束の場所に行くと、人間の幼子くらいの背丈の男性から手招きを受ける。

 おそらく小人族であろう男性の案内で本通りから路地裏に入っていく。

 そこは複雑に入り組んだそびえ立つ建物郡の間の細い道で案内がなければ容易に迷子になってしまうと思われた。

 男は勝手を知っているようで迷うことなくそんな路地裏をドンドンと奥に突き進んでいく。


 しばらく進むと少し開けた広場と、倉庫であろう大きな開き戸がある建物に突き当たる。

 男はその扉の鍵を懐から取り出して鍵を解錠した後に重そうな引き戸の両扉を手で押し開ける。

 中からは木箱が何かしらの機械に山積みされて載せられていた。

 男はその機械にまで行くとその機械の操縦用なのかスロットを掴み、それを上にあげるとけたたましい音を立ててその機械が発動した。


「な、なんじゃ? その大きな鉄の塊は?」


 エヴァが興味津々といった様子で男に問いかける。


「何って運搬機だけど……」

「運搬機とはなんじゃ?」

「あーそうか、お前ら地上の人間だったな……。これは魔導技術で作成された魔導機械だよ。馬でも運べないようなかなりの重量の荷物であってもこれなら運ぶ事ができる。まあ、スピードは徒歩くらいの速度しかでないけど。後、俺の名前はダインだ」


 軽く俺たちも名乗りを上げた後。

 へー、ほーっと俺たちは生まれて始めて見る、その運搬機を興味深く見る。


「地上では魔導機械はほとんど普及してないんだろ?」

「ああ、地下に来て始めて聞いたよ」

「はっ! 地上のクソさ加減がよく分かる話だな」

「どういう事だ?」

「情報統制されてんだよ。魔導機械は自分たちが保持してない技術でコントロールできないものだから不利になる可能性があるからな。じゃあ、行くぞ」


 ダインは器用に運搬機を操り、その運搬機に積み上げられた木箱を運んでいく。


「それじゃあ、地上への運搬リフトまでの警備を頼む」


 俺達は運搬機を中心に上下左右に分かれて、移動していく。


「なあなあ、それちょっと運転させてくれ」

「だめだよ、すげー高い荷物なんだから、事故でも起こされたら俺、殺されちゃうよ」


 エヴァは願いを拒否されて口を尖らせる。


「その荷物ってなんなの?」

「魔光液の一種だって聞いてるけど、詳しくは分からない」

「魔光液?」

「この魔導機械の燃料になったり、後は人に魔力回復の効果があるヒーリングタイプのやつもあるらしいけど」


 運搬機は人間の徒歩と同じくらいのスピードで進んでいく。

 路地裏から本通りに出た事によって、俺たちはより警戒を高めていく。


「運搬リフトって言ってたけど、じゃあこの荷物って地上に行くの?」

「ああ、くそったれの神聖教徒教会への納品だ」

「くそったれって……なんで教会を嫌うんだ?」


 その俺の問いかけにダインは驚きの表情を浮かべる。


「まったく、これだから地上連中の奴らは……俺たち地下の人間がどれだけ辛酸を舐めているか、情報統制されてるせいで知らないんだもんな」


 ダインは滔々と地下都市ソドムが置かれている不平等な現状について教えてくれた。


 地下都市には地上の神聖教徒都市の咎人が送られてくる事。

 咎人となるのは普通に犯罪を犯すものもいるが、金持ちを優遇して貧乏人に厳しい政策をしており、税金を収められないケースが一番多い事。

 一度地下に落ちたら、地上に上がるのに白金貨1枚相当の高額な通行証が必要になる事。

 そしてその通行証の値段も暴利だし、地下の正業でそこまで稼げるかって言われたらそもそもが無理ゲーなんだよと。


「過去に反乱が起きた事もあったが、神聖教徒教会の打倒まではいかなかった。地上と地下に甚大な被害が発生して、今はお互いに利用しあいながら睨み合ってるという状況だ」


 その時、プップーと運搬車に向って、人を運んでいる対抗方向を走る乗り物から警笛が鳴らされた。

 うるせーばかやろー! とダインはそれに返す。


「おっ、見えてきたな。あれが上層をぶち抜いた地上まで続く運搬用リフトがある建物だ」


 ダインの示したその先には真っ白な四角柱の建物が見えた。建物は地下の天井まで続いている。

 地下では白い建物というのは基本的に見受けられないので純白のその威容は場違いに感じる。

 四角柱の正面に恐らく教会の所有物を示すものであろう、紋章が刻まれていた。


「あの紋章は?」

「ああ、あれは神聖教徒教会の所有物っていう紋章だ。女神を形どった紋章らしいぜ」

「地下にも神聖教徒教会の物があるのか?」

「ああ、あそこぐらいのはずだけどな。地下に教会なんか建てた日にはすぐさま放火されるだろうからな」


 建物の前にもゲートがあり、すでに顔馴染みなのだろうダインを確認するとそのゲートは開かれた。

 ゲートを管理しているのは白装束を着て、目だけが露出されたフードを被った者たちだ。

 彼らは地上でも見た事のある、神聖教徒教会の祭司たちだ。


「約束の品を10ケースだ」


 祭司たちは簡単に木箱の中を簡単に確認し――


「よし、じゃあリフトへ頼む」


 建物の大きな扉が左右に開かれていった、その時、突然の事だった――


 カランコロンと俺たちの足元に何か小さな筒が投げ入れられてと思ったら、その小筒から煙幕が勢い良く吹き出し周囲の視界をゼロにする。

 ブオンブオンと風切音が聞こえ、その音で上空を凄まじいスピードで移動しているらしいものを察知する。

 そして、打撃音が散発的に聞こえてきた。

 どうやら何者かに奇襲を受けているらしかった。


 そんな中、一人の敵が煙幕をすり抜けるように猛スピードで俺に向かってきて、そして、一撃を加えられるすんでの所で剣でガードする。

 相手の武器は警棒のような物だと思われた。


『ウィンドーサイクロン!』


 ソーニャが風属性魔法で小規模な竜巻を俺たちの周囲に発現させる。

 煙幕は見る見る内に消え去り、襲撃者たちの姿が顕になった。


 襲撃者たちはボードのような薄い板にそれぞれ乗っており、そのボードが何か発進する為の強烈な噴射装置を備えているようで、それによって空中を猛スピードで自由自在に飛び回っているようであった。

 それぞれ両手に警棒のような武器を手にしており、ダインを初め、祭司たちもその武器による攻撃で戦闘不能状態となっているが、ミミやソーニャ、エヴァは問題なさそうだった。

 それぞれ顔には違ったお面を被っており、年齢性別ともに不詳だ。


「あれ!? ランス、木箱が消えてますわ!」


 ソーニャのその呼びかけによって先程まで木箱を積み上げていた運搬機が、綺麗サッパリ消え去っている事に気づく。

 くそ、やられた。周囲を確認しようとするが襲撃者たちは攻撃の手を緩めようとしない。

 俺たちに対して次々と猛スピードで襲いかかってくる。

 ちょこまかと空中を動き回れて埒が明かない。


 俺は魔力球を左手から出し、それをスピードがでるように思いっきり俺に向かってきている一人の襲撃者へ対してと投げ込んだ。

 襲撃者はすんでの所でその魔力球を交わしたが、かすったお面がはずれその顔を顕になる。

 その襲撃者は若い女性で左目の周囲に竜のタトゥーが入っており、一見では男のようにも見える刈り上げをしたソフトモヒカンの紫の髪の毛をしていた。


 対峙して女が俺の後方まで猛スピードで移動するその一瞬の時の中で俺と彼女の目が合い、何かが通じ合う。

 女は俺の後方からまた上空高くへ飛び上がると――


「よし、もう引くぞ! 時間は十分稼いだ!」


 襲撃者たちは女を先頭に猛スピードで飛び去っていく。

 襲撃が始まってから逃走するまでを時間にするとわずか数分間の事だろうか。

 開け放たれた巨大リフトの建物の扉と地面に転がる祭司とダイン。

 電光石火のその襲撃の衝撃に俺たちはすぐには動けず呆然としばらくその場に立ちすくんだ。

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