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第65話 帝国最終決戦

「こ、こ……こうなったら、最後の手段だ! どうせなら進化の秘法をお願いしたかったが。エストール様、我に力をお与え下さい!!」


 スコッドはそう言うと懐から小瓶を取り出し、その中の紫色の液体をその目を血走させながら一気に飲み干す。

 飲み干された小瓶は地面に無造作に放り捨てられて転がっていった。


「う、う、ううううぉおおおおおおお!!!」


 スコッドのその瞳は真っ赤に染まり、苦しそうに頭を抱えて地面に膝をつく。

 その苦しそうな唸り声がしばらく続いていたが、唐突にその苦しんでいた様子が突然なくなり、頭を抱え地面に膝を付いていた姿勢からまるでなんでもなかったかのようにすっと立ち上がった。

 その瞳は真紅に染まり、皮膚も漆黒へと変化していた。


 スコッドは自らの両手を眺めて――


「おおーーー、素晴らしい! 力が……力が溢れてくるぞ!」


 嬉々とした表情で歓喜の叫びを上げる。

 その後、その視線をこちらに向けたと思ったら、突然自身の腰にぶら下げていた剣を抜いて、ソーニャの方へ斬りかかっていった。

 一瞬でソーニャの方へ移動したと思ったら、上段から剣を振り下ろす。

 ソーニャは両手短剣でその攻撃を防ぐが、余りの衝撃に後方に吹っ飛ばされる。


 大きな破壊音の後に噴煙が上がり、衝撃で吹き飛ばされたソーニャが壁を突き破った事が知れる。

 瓦礫の隙間から覗かれるソーニャは立ち上がろうとするが、かの攻撃によって大きなダメージを負ってしまったようで生まれたての子鹿のようにプルプルと立ち上がれない。


 また、その剣撃波は壁と地面にその凄まじい威力を証明するかのように大きな傷跡を残していた。


 ソーニャへの攻撃の後、間髪を入れずスコッドは今度はその手から眩い黒い閃光をミミに向けて放つ。


『ダークライトニング!』


 物理攻撃ではなく魔法攻撃。虚をつかれたミミは両手をクロスしてその攻撃を防ごうとするが直撃し、ミミはもまた勢いよく後方へと吹っ飛ばされた。

 その閃光波が放たれた範囲は建物の壁、屋根、地面部分はすべて破壊尽くされて綺麗に無くなっており、その攻撃力の強さを示していた。


「ゔゔっゔっ…………」


 建物の外まで吹き飛ばされたミミは傷だらけで戦闘不能状態にはなっているようだが幸いにもまだ息はあるようだった。


「どうだ驚いたか? 俺がただの宰相だと思ったか、愚か者め! 元々は盗賊の長を務めてそれから宰相まで成り上がったのだ。闇の眷属のポテンシャルを最大限引き出す秘薬があればお前らなど敵ではないわ!」

「……そんなものがあるなら、なぜさっきの魔族共は飲まなかった?」

「あれは人間にのみ作用するものだ。まあ、一度でも服薬すれば人間を止める事になるがな」


 一瞬のうちにスコッドは俺の方へと移動して、強烈な剣撃を放ってきた。

 その攻撃を防御はするが、俺もまたその一撃により壁を突き破り建物の外に弾き飛ばされた。


 スコッドは浮遊術によりゆっくりと外へと弾き飛ばされた俺の方へと舞い降りてくる。


「命乞いをしろ! 俺の足を舐めろ! そうすれば、仲間のあの女どもの命は助けてやらんでもないぞ?」


『瞬神』


 俺はスコッドの首跳ね飛ばそうと横一閃の剣撃を放つが間一髪の所でスコッドに防がれてしまった。

 驚愕の表情をしたスコッドは警戒して上空へと退避しまう。


「な、なんなのだ、お前の先程からのそのスピードは! 人間が出せるスピードではないだろうが、この化け物め!」


 俺のスピードを警戒して事だろう、スコッドは自身の周囲にバリヤを構成した。


 だが一重のそこまで強度が強よそうには見えないこの程度のバリアなら、破れそうだ。

 俺は火、雷、風の3つの魔力を剣に集中させていき高威力の魔法剣を構成していく。

 スコッドは俺が魔法剣を構成する様を眺め、先程の魔法剣の威力を確かめていた事もあるのだろう、焦りながら両手を天に掲げると――


「く、くそっ! 邪神エストール様、お助けください! 我に力をお願いします!」


 天を仰ぎながらそう叫んだスコッドに突如黒い雷光が降り落ちた。

 雷光が降り落ちたその場所は黒い霧が立ち込める。


 その霧は徐々に晴れていきスコッドのその姿が明らかになっていく。

 背中からはデーモン種のような翼が映え、体躯も大きくなっている。

 そして漆黒のオーラがスコッドから凄まじい勢いで立ち上がっていた。

 少し距離の離れた俺にもビリビリとその潜在魔力の凄まじさが感じとられる。


「エストール様、ありがとうございます! はははっ! 溢れてくるぞう力がぁ! これでもう俺に敵はいない。素晴らしい!」


 おもむろにスコッドは小さな黒色の魔力弾を俺へと放つ。

 俺はそれを避けるが魔力弾が地面に着弾した瞬間、凄まじい爆発とともに衝撃波が発生して、辺りのものを吹き飛ばして噴煙が立ち上がる。

 その噴煙がしばらくしてたち消えるとその地面には大きなクレーターが穿っていた。


「ちっ、ちょこまかと避けやがって。だが素晴らしいパワーだ。ほんの少しの力であれ程の威力とはな。さて……」


 スコッドは俺からは検討違いの方向へとその視線を向ける。


 何を見ているのだろう?

 その視線の先を確認すると、その先には虚ろな顔をした子供たちの姿があった。

 スコッドはニヤリを笑みを浮かべるとそちら方向へと向かって今度は魔力波を放った。

 まずい!


『瞬神』


 間一髪で俺が構成したバリアが間に合う。

 その魔力波はバリアに到達すると凄まじい爆発音の衝撃が発生する。

 バリアは魔力波を防ぎきるギリギリのタイミングで破壊されてしまった。


 その防ぎきれなかった僅かな魔力波によって、子供たちの一部に直撃してしまう。


「うわーーんッ!」

「痛いよーーーッ!!」


 手傷を負った一部の子供がその痛みによって洗脳状態が解けたようで後方で泣き出している。

 俺も少しではあるがダメージを負った。


「ははははッ!! やはり素晴らしい力だ! 肉壁のゴミで威力を試してみようと思ったんだが、しかしなぜお前、わざわざ攻撃の進行方向へ立って受け止めるのだ?」


 顔を傾けながら心底理解できないという表情でスコッドは俺に問いかけてくる。


「人の心を持たないお前には分からないだろうな」

「ああ、先程人間をやめたからな。ただ、人間だった時でも特に何も感じる事はないぞ? 感じると言えばお前の後方から聞こえてくるガキどもの泣き叫ぶ声に対する喜悦ぐらいだ」


 その歪んだ欲望と同様にその顔を歪ませながらスコッドは気持ちの悪い笑みをその顔に浮かべていた。

 俺はそのスコッドの様子に沸々と怒りの炎が勢いを増していった。


「……一体どんな子供時代を過ごしたら、お前みたいな歪んだ大人が生まれるんだ。お前は人に愛情を感じる事はないのか?」

「はん! 愛だの幸せだのというのは女が作り出した幻想でしかないだろうが!?」

「かわいそう奴だな……」

「ほざけ!!」


 そう叫けぶような声を上げるとスコッドは再度、俺の方へ向かってその手をかざす。

 先程よりは時間的余裕がある為、俺は全力でバリアを何重にも構成する。


「死ねぇ!!」


 スコッドのその手より強烈な閃光と共に魔力波が放たれ、それが俺が構成したバリアによって凄まじい轟音を奏でながら弾かれる。

 何層にも構成してあるバリアだが魔力波によって次々と破られるが、俺は魔力を注ぎ込んでそれを破壊された側から修復していく。

 魔力波は勢いを増していくが、俺も全力で魔力を注ぎ込み、バリアの破壊と修復の綱引き状態となっている。

 そうしてしばらくお互いの攻撃と防御の均衡状態が続いた後、いつしかスコッドの手から放たれていた魔力波は途切れた。

 今度のスコッドからの攻撃については完全に防ぎ切る事ができたようだ。


「ちぃ、今度は無傷か……」


 その言葉の通りにスコッドは悔しそうにするのかと思ったら、その歪んだ笑みは変わる事はなかった。

 それどころかその歪みと笑みの強度は徐々に強くなっていき――


「一つ良いことを教えてやろうか? 俺の今まで攻撃は力をセーブして放っている。大体50%くらいか」


 ニヤニヤとしながらそう告げてきた。


 防御のバリアについては今ので限界に近い。

 100%で来られたら後ろの子供たちを守りようがなかった。

 また帝国軍本体も別の子供たちが人質状態となっていて攻めあぐねているようで、援軍は期待できそうにない。

 どうするか?俺は頭をフル回転させて考える。

 そして一つの問いかけが頭に浮かび――


「お前は俺の両親を殺したのか?」

「あ? ああ、そう言えばお前はあの勇者と魔王の息子らしいな。リバーシからのそんな報告が来てたわ。そうだ俺だぞ、お前の両親をはめ殺したのは」


 両手の平を天に向け、愉快でしょうがないといった感じでスコッドは告白する。


「そう言えばお前は復讐者だったな。くっくっく。邪神様に感謝しないとな。日頃の行いがいいからこんな僥倖が舞い込んでくるんだろう。俺の一番の楽しみって奴を教えてやろうか? お前みたいなリベンジ野郎を返り討ちにする事だよ!!」


 スコッドはそう言うと自身の魔力を急激に高め、その手へと集中させている。

 その様子から今度は全力に近い力で魔力波を放つ為の前準備らしかった。


 対策を考える時間稼ぎの為のスコッドへの問い掛けだったが、策を考える事ができない程に俺の頭には血が上ってしまっていた。

 そうだ、こいつが俺の両親をはめた張本人なのだ。

 あの安息の幸せの時間を、温もりを、そして得られるはずだった愛情を奪った人物なのだ。

 身体中の血が逆流するように熱くなっていき、心拍の鼓動が最大限に早くなっていく。

 絶対に許す事はできない!


「今度は100%だ! あの世で……なんだっけ? はははッ! 名前を忘れてしまったが、あのバカな勇者と魔王によろしくな!」


 スコッドの手から眩い閃光が放たれたと思ったその時。

 発動した瞬神により極限まで圧縮されたその時の中で――


「ランス……ランス……」


 どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「この声は…………父さん?」

「そうだ……よかった……瞬神という通常とは違う時間軸の中ではお前に接触できるようだ……ランス、お前も魔力波で対抗するんだ」

「魔力波って俺、使えないよ? 使ったこともないし」

「大丈夫だ、お前は父さんの息子だ。父さんが一番得意だったのは使用制限のある絶対時間よりかは、むしろ魔力波の方だ。自信を持て。手をこうして」


 俺は見えざる何か……父さんによって両手の平を前方で開き、そしてそこに魔力が集中されていく感覚を味わう。


「そうだ……その感覚だ……全力で放って……そして……父さんと母さんの……仇を……うってくれ……」


 そこで一気に現実感覚に引き戻される。

 俺はありったけの魔力を前方の両手の平の先に集中させる。

 キィイイイイーーーンッ! と魔力が圧縮される音が響き渡る。


「うぉおおおおおおおッ!!!」


 凄まじい勢いで魔力波が俺の両手から放たれる。

 魔力波はスコッドのそれと激突して、周囲に凄まじい衝撃波と轟音を響かせながら均衡状態となる。

 余りの衝撃音とその人智を超えたような闘いの光景に戦闘を行っている帝国軍や光の教団の者たちも魅入ってしまっていた。


「な! ば、馬鹿な!? 貴様使えたのか魔力波を? それにこの威力……俺の100%と同等だと!? ぐぬぐぐぐぐーーーーッ!!」


 俺とスコッド。

 双方の魔力波の均衡によってその凄まじいエネルギーが光に変換されて眩いまでの光量を周囲に発しているちょうどその時。

 なぜかしら俺はその手と身体を父さんが支えてくれているような気がした。


 その刹那。

 傷ついた子供たち。

 道中で目撃した虐殺された人々の亡骸。

 そして……父さんと母さんの姿。

 それらの光景が刹那のうちに俺の脳裏に宿り――

 それが俺の限界を超える力を引き出すトリガーとなった!!


「ぐぅうううお゛お゛お゛お゛ーーーッ!!!!」


 魔力波の均衡は一気に崩れてあっという間にスコッドを包み込み――


「ば……か……な……」


 その断末魔だけを残してスコッドのその身体は塵となり消滅していった。

 魔力を限界を超えて使い果たした俺はその場に膝をついて、そのままフッとその意識が途絶えた。

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