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第56話 帝国地下牢

「面を上げよ」


 王子フィルドと俺はその顔を上げる。


「何かわしに話があるそうだが、フィルド」

「はい、陛下。本日は陛下にプレゼントを持って参りました」


 王子フィルドは真実の腕輪を皇帝へ手渡す。


「ふむ、金製ではあるようだが……なんの変哲もない腕輪のようにも見えるが……?」

「見た目には分かりにくいですが、陛下の為の特別製でございます。是非、装着頂ければ」

「……まあ、良いだろう」


 そう言うと皇帝はその腕輪を自信の腕へはめ込んだ。

 すると真実の腕輪が光だし。


「な、なんだ! この腕輪は! フィルド貴様!」


 皇帝は頭を抱え苦しみ出した。

 護衛の近衛兵たちが武器を取り俺たちを取り囲む。

 すると皇帝から黒いモヤのようなものが抜けていく。

 抱えた頭から手を離して、


「ん? 余は一体今まで……?」


 真実の腕輪の光は消え、正常に戻った皇帝がそう言う。


「陛下! 大丈夫でございますか? フィルド殿下からのプレゼントの腕輪を着けると、急に苦しみ始められましたが……」

「ああ、問題ない……しかし、余はなぜあんな判断を……フィルドへの討伐の命令などすまなかったな。余はどうかしておったわ」


 上手くいったようだ。王子は俺に頷くと、


「勿体無いお言葉。陛下にお渡ししたのは真実の腕輪にございます。ここにいるランスが、数百年ぶりのその試練達成してくれました」

「おお! あの真実の腕輪か! 大義であった、ランス! しかし、という事は余は何かしらの異常状態にあったという事か? 確かに頭にあったモヤのようなものが消えてすっきりした気がするのう」

「おそらくは陛下のご想像どおりかと」

「衛兵ども! 何をわしの息子に武器を突きつけておるか! 下がれ!」

「ははーー! 失礼いたしました!」


 俺たちを取り囲んでいた衛兵たちは皇帝の指示通り、また警護の定位置へと下がっていく。


「よし! フィルドよ、何か希望はないか? 褒美を取らせよう!」

「でありましたら陛下、元老院評議会でも希望しました、統治局の監督権限を希望いたします」

「許可する! それにしてもなぜ前は拒否したのだろうなあ……。まあ良い。お前を統治局の監督者に任命する! 大いに励め!」

「ありがたき!」


 王子と俺は王座の間から退出する。


「よし! やったぞ、ランス! これで宰相のクソ野郎は潰せたも同然だ! 奴は100%不正を行っている」


 王子フィルドは興奮した様子でそういった。


「よかったですね。それで王子、一つお願いがあるのですが……」

「なんだ? なんでも言ってみろ」

「帝国には地下牢がありますか?」

「……ああ、有るな。だが宰相のせいで、帝国の司法はまともに機能しているとは言い難い。地下牢にぶちこまれているのは冤罪者も随分居るかもしれん。その憂慮か?」


 俺は王子に惑わしの洞窟で自身の両親に会った事。

 そして自分の両親が勇者と魔王であった事。

 両親から帝国の地下牢を調べて見るように言われた事を打ち明けた。



「そうか、まさかお前が勇者と、更には魔王だと? の息子だとはな……ははっ、にわかには信じがたいが……」


 あまりに突拍子もない話で王子は話の途中で笑ってしまっているが――


「お前を信じよう! 地下牢の件は任せろ。統治局の権限で立ち入る事が可能だ。すぐに手配を掛けてやる」

「ありがとうございます」

「よし! それではリバーシにも報告してやるかな。これから逆襲の始まりだ!」


 その後は俺は王子とは別れ、帝都の宿に泊まっているミミとソーニャとエヴァと合流した。

 そうして2日ぐらい経過した後、王子から地下牢への立ち入り許可が出た事を伝えられた。




 薄暗い通路。空気は淀んだ感じがして何処かかび臭い。

 地下の灯りは通路の等間隔に置かれた小さな蝋燭台と、各牢屋の中に有る蝋燭台のみ。

 牢屋は左右あわせて30程はあるだろうか。

 空室もあるようだが半分くらいは囚人で埋まっているようであった。


「ここに収容されている囚人は、主に政治犯が中心だ。皇帝、並びに、皇族に叛意を抱き、何らかの行動をした者。ただ宰相の裁定で無実と思われる人間も随分と収容されている。それについてはこれから精査するが……」


 王子はそう話しながら地下牢が両サイドに広がる、その道を奥へと歩を進めていく。


「俺は無実なんだー、出してくれー」

「呪ってやるー、呪ってやるぞーお前らー」


 助けを懇願する者。呪詛を吐く者。

 無言で死んだ目をしている者。

 牢獄を通過する俺たちを確認した囚人たちの様々な反応。


「事前に収容されている囚人について、調査してみた結果、一人、収容理由がよく分からず、そして10数年に渡って投獄され続けている者が一人いた」


 通路の突き当りまで来て、王子は一つの牢屋に向かい合う。


「その者の名はクレム。見ての通りの小人族という事とその名前以外の情報が一切なかった。なんの罪で投獄されているのかもな」


 牢屋の中に収容されているその男は小柄な体に似合わず、その顔には今まで生きた年輪を感じさせるシワが刻まれている。

 その男、クレムと俺の目が合うと。


「ひぃ、ひぃいいいーーーッ!」


 クレムは突然恐怖の表情を浮かべ、悲鳴を上げた。


「……当然、初対面だよな……」

「はい、始めて会う男です……」


 王子もそのクレムの様子に困惑している。


「おい、お前、どうしてランスを恐れる?」

「う、ううー、エレインでは……お前……エレインの亡霊か生まれ変わりではないのか……?」

「エレインは俺の母さんの名だ」

「何? じゃあ、お前、奴らの息子か……息子がいたのか……」


 クレムは潜り込んでいたべットの布団から顔を出してそう言った。


「どういう事だ? なぜお前がランスの両親、勇者のエレインを知っている?」

「…………それは……いいだろう教えてやる、俺が犯した大罪を。あれから10数年経過して息子が訪れる……何かしらの運命だろうなこれは……」


 クレムはそう言うと、自身が犯したという大罪について、話し始めた。

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