ランス追放される
「ランス、お前を我が冒険者パーティーから追放する!」
酒場で任務完了をお互い労う場のハズだった。
寝耳に水のパーティーリーダーのセオルドのその言葉に、ランスは我が耳を疑う。
「一体どういう了見だ?」
「どうもこうもない。ランス、お前は我がパーティーには実力不足だよ」
「俺の何が実力不足なんだ! 実際問題として、今回のオーガの討伐依頼。B級の俺がいなければ厳しかったと思うぞ!」
ランスは本当は冒険者ランクはS級を有に超えている。
だが諸事情によりB級と偽ってパーティーメンバーなどには知らせていた。
瞬神などは使わず、力は温存しているが、オーガ討伐に貢献したというのは嘘ではない。
「何が貢献だ。たまたま運良くタイミングがあってクリティカルが出ただけだろう。あんなものお前の実力でもなんでもないわ。なんなら今すぐ、実力が不足していることをわしが分からせてやろうか?」
セオルドは挑発的にランスに述べる。
セオルドは高齢の冒険者で、すでに髪は白髪で構成されている。
もちろんベテラン冒険者でA級なのは伊達ではない。
だがランスが本気を出したら敵ではなかった。
分からせてやってもいい。
だがランスは実力を隠さないといけない事情があった。
「セ、セオルドさん。ランスさんはよくやってくれていました。何も追放までしなくても……」
「うるさい、小娘があ! 貴様程度がわしに意見するなど100年早いわ!」
「ひぃ、ご、ごめんなさい」
パーティーメンバーの一人の女性サーシャはセオルドに怒鳴られて、簡単に引っ込む。
幼顔をして幼児体型をしているが、年はもう20代に突入しているらしい。
彼女の存在がランスが追放されることに、抵抗する理由の一つであった。
横暴で独善的なセオルドにいつも怒鳴られている彼女。
いつもランスが間に立ってサーシャを庇っているのだ。
「いいんじゃない。所詮野良の素性の確かじゃない冒険者でしょ。私が所属するパーティーメンバーに相応しいとは言えませんことよ」
真っ赤な長髪をたなびかせながら魔術師のカミュが述べる。
魔術学園を主席で卒業した貴族出身とかで、彼女はエリート意識が強かった。
カミュもよくサーシャをいじめている一人であった。
「ポー、お前はどう思う?」
「ぼ、僕は……セオルドさんが言う通りでいいと思う」
「そうか、そうだよな」
ポー。
僧侶で大人しく従順な男だ。
サーシャの次の、セオルドのいびりターゲットになっていた。
メンバーにはランス追放で総意が取れた。
「ということだ、ランス。退職金などは当然無いぞ。じゃあ、さっさと去れ」
ランスはセオルドを睨みつけて唇を噛むが、ここは引き下がるしかない。
ランスには大切な目的がある。
ここで揉めてその目的が達成できなければ元も子もない。
「じゃあな、お前ら」
「できたらこの町からも出ていってもられるとありがたい」
「誰が」
ランスは最後にその言葉を残して、慰労会が開かれるはずだった酒場を後にした。
数日後の冒険者ギルド、依頼ボードの前にて。
「なあお前、冒険者狩りって知ってるか?」
「いや、知らねえ。なんだそれ?」
二人の冒険者の男が話しをしている。
「なんでも冒険者を狩って金銭を奪う専門の、強盗をしてる奴がいるらしいぜ」
「なんだそりゃ。随分命知らずの奴だな。返り討ちにあったらどうすんだ?」
「でも今まではうまくやってるらしいぜ。隣町でも、そのまた隣町でも冒険者狩りがされたらしいからな」
「ほんとかよ」
「ああ、それでその冒険者狩りの経路と時期から、そろそろこの町でも冒険者が狩られるじゃないかなんて噂が流れてるんだけどな」
「面白えじゃねえか。そんな冒険者狩りなんか返り討ちにしてやるよ!」
「お前みたいなやつが真っ先にやられるんだよ」
「なんだと!?」
ランスは依頼ボードから離れる。
依頼ボードの前で冒険者狩りについて話している二人は、まだ盛り上がっているようであった。
「おーい、ランス」
そこで冒険者ギルドの受付カウンターからランスを呼ぶ声がする。
ランスはそちらを振り返ると、そこにはその町の冒険者ギルドのマスターの姿があった。
「聞いたぞ、追放されたってな、お前」
「ああ、もしかしたら感づかれたかもしれん」
ランスは冒険者ギルドの応接室に通されて、ギルドマスターと向き合って座っている。
出された紅茶を口にする。
「頼むぞ、今のところは密命で動いてる、お前だけが頼りなんだ」
「わかってるよ」
「セオルドと張り合うことができるほどの実力者。そしてこの町で素性が知られていない男。そんなの滅多にいないからな。これは中央の統括ギルドからも強く頼まれている。なんとしても成功させてくれ、ランス」
「はいはい」
「はいは一回だ」
「わかったよ。最大限努力する」
「すまないな。本来S級以上が担うような任務じゃないんだがな」
「やり手がいないんじゃしょうがないだろ。グランドマスターの爺さんにもしつこく言われてるしな」
「ほう、ザンフォート卿か! 元気にされているのか?」
「元気、元気、元気すぎて周りが困ってるよ。ほんとに100歳超えてるのかあの爺さん」
「懐かしいな……まあ、よろしく頼む。ギルドにできる支援があれば何でもいってくれ」
「ああ、何かお願いしたいことがあればいうよ」
紅茶を飲み干したランスは立ち上がる。
ギルドマスターに最後促され、握手を一つ交わして応接室を後にした。
「それじゃ今日は高難易度ダンジョンに挑む、気合い入れていけよ」
セオルドはメンバーたちに発破をかけると、ダンジョン奥深くへと入っていく。
メンバーたちもそれに続く。
その様子をランスは物陰から隠れて見ていた。
「高難易度ダンジョンか。今まで冒険者狩りはほとんどがダンジョンで遂行されている。今日は要注意だな」
ランスは一人そう呟きながらセオルドたちの後を追った。
「うわぁ!」
セオルドたちの後を追う途中。
ランスはダンジョントラップにひかかってしまう。
突如地面が開き、地下へと落とされてしまった。
「いてて」
着地に失敗して尻もちをついたランスは、強打したお尻を撫でる。
するとガサガサ、という何かが擦れ合う音が聞こえる。
顔を上げて周りを見渡すと、ランスはスコーピオンに囲まれていた。
「勘弁しろよ」
ランスはそういいながら腰から剣を抜き去った。
「くそっ、随分遅れてしまった!」
スコーピオンたちをなぎ倒した後、ランスは走ってセオルドたちの後を追う。
途中現れる魔物はその都度、瞬殺していた。
ダンジョンを第1階層、第2階層と下っていき、そろそろこのダンジョンの最終階層となる第5階層へと差し掛かろうとしていた。
最終階層前ともなると魔物も強くなってくるがランスの敵ではない。
第5階層に入り、現れた最初のモンスター。
ワーウルフを瞬殺した後のことだった。
ランスの目線の先に地面に倒れている人が写った。
「おい! 大丈夫か?」
「ゔゔ……ランスさん……なんでここに?」
虚ろな表情をしたポーが応える。
ポーは随分と手傷を負っていた。
「一体どうした? ポー、お前誰にやられた?」
「ゔゔ……セオルドさんに……ゔっ」
ポーはガクッと意識を失う。
脈拍は問題ない。命に別状はないだろう。
やはりセオルドが冒険者狩りであったか。
戦闘不能状態になったものを通常魔物は襲わないはずだ。
ポーをこのままここに残しておくのは心配だが、他のメンバーはもっと心配だった。
ランスはダンジョンの奥深くへと走って進んでいく。
そのまま走り進めていくとダンジョンの最深部。
行き止まりの天井などがかなり高く広いスペースの前に到達した。
おそらく奥がボス部屋と呼ばれるスペースだろう。
その手前の道端。そこでランスは驚愕の光景を目にする。
なんと冒険者狩りの首謀者だと思っていた、セオルドがそこに倒れていたのだった。
「おい、セオルド、どうした?」
「ゔ……お前は……ランスか。ふん、見ての通りの様よ」
「冒険者狩りにやられたのか?」
「冒険者狩り? そうか、あいつが冒険者狩りだったのか……後進の育成をと頑張っていたんだがな」
傷が深いのか時折顔を歪めながらセオルドは話す。
「後進の育成だと?」
「ああ、お前には俺がサーシャやポーを、いびっているようにしか映らなかっただろうな。俺も好きで厳しく接してたわけじゃねえ。弱いやつは食われていく。お前も冒険者稼業が長いだろうから知ってるだろう? 中には酷いパーティーもある。とんでもない魔物もいる。そういう理不尽に遭遇した時に少しでも、俺とパーティーを組んでいた時の経験が生きればと思ってな。もう老い先短いんだ。今更名誉も金も求めちゃいねえ。だが今回は冒険者の厳しさを思い知らされたのは俺の方だったな……」
その時――
「きゃーーーーー」
という叫び声が奥のボス部屋から聞こえてくる。
「助けに行ってやってくれ。お前を追放したのはお前が育成する必要がない人間だからだ。B級なんて嘘なんだろ? 身のこなしを見てすぐにわかったぜ」
どうやらセオルドにはお見通しだったようだ。
ランスは彼のことを随分誤解していたのだと反省する。
しかし、今はそれどころではない。
「ちょっと、待っていてくれ。すぐに片付けて手当に戻ってくる」
「俺のことはいい。若きメンバーたちを頼む」
ランスはボス部屋へと入る。
そこでは目を疑うような光景が繰り広げられていた。
「お願い、命だけは助けて頂戴! なんでもするから!!」
「なんでも? じゃあ、あなたが持ってる全財産を私に頂戴。そうすれば命は助けてあげてもいいわよ」
「ありがとう、ありがとう!」
「ありがとうございます、だろ? まだ口の聞き方が分からねえのか、てめえは?」
「ありがとうございます。ありがとうございます。サーシャ様、ありがとうございます!」
そこには気弱なサーシャの姿はどこにもなかった。
よほど強い恐怖を与えられたのか。
気の強いカミュが涙を浮かべながら、必死にサーシャに命乞いをしている。
「サーシャ!」
「ランス、なんでお前がここに!」
サーシャの両手には短剣が握られており、その短剣は鮮血に染まっている。
おそらくその鮮血は人間によるものと思われた。
カミュは全身を切り刻まれている。
「ランス! 助けてぇ!!」
「うるせぇ、カミュ!! てめぇはここで死ぬんだよ!!」
「そんな今、命は助けてくれるって!?」
「ははははは、希望与えてから絶望に叩き落とすんだよ。その方がより楽しいだろ? じゃあなカミュ。てめぇの甲高い声とくだらねえプライドはいつも癇に障ってたぜ」
サーシャはカミュにとどめをさすため、短剣を振り下ろそうとしている。
『瞬神』
ランスはサーシャの元へと一瞬で移動して、その短剣の攻撃を防ぐ。
「んなっ!?」
驚いたサーシャは一旦、ランスとカミュから距離を取る。
「一体どうやって一瞬で……お前、何をした」
サーシャはランスに対して警戒を強める。
「サーシャ、お前が冒険者狩りか?」
「…………そうか、お前がギルドの犬か。さっさと先にお前を始末しておくべきだったな」
サーシャは歪んだ笑みを浮かべながら答える。
「なぜだ? なぜ冒険者狩りなんて真似を?」
「なぜだだと? 決まっているだろう。奪われる前に奪っているだけだ。私はスラム出身だ。生まれてこの方ずっと奪われてきた。食料も、着るものも、住む場所も、体も、そして尊厳もな! 力あるものが奪う! 奪われる方が悪いんだ! でないとなぜ私の友達は死ななければならなかった。なぜ私の弟の命は奪われたんだぁあ!!!!!」
サーシャの絶叫が洞窟内に響き渡る。
「サーシャ、お前を冒険者殺しの容疑で拘束する」
「やれるものならやってみな、ランス! 奪われないように鍛えつづけた、私の真の力を見せてやるよ!!」
サーシャは構える。
そのサーシャを姿を見て、カミュはひぃっと小さく悲鳴を上げる。
よほど強い恐怖を植え付けられたのだろう。
『瞬神』
ランスは一瞬でサーシャの後方へと周り、彼女が気づく間もなく手刀を首筋にくらわせて、昏倒させた。
一瞬のことであった。
辺りは水を打ったように静まり返った。
「それではこちらが冒険者狩りの達成報酬になります」
ランスはギルド員から黙って報酬を受け取る。
会釈を一つして受付カウンターから離れようとすると――
「おい、ランス!」
ギルドマスターが奥からランスを手招きした。
「サーシャはどうなるんだ。やっぱり極刑か?」
「いや、あの娘な、いろいろと情状酌量する要素があってな。まあ座れよ」
ランスは促されるままに応接室の椅子に腰掛ける。
「どうやらあの娘、冒険者狩りをして奪った金銭、そのままスラムの恵まれない子たちに配ってたみたいなんだ。そのままじゃあ大人や強者に食い物にされるしかない子供たちを主に救済していたみたいだ」
「……そうか」
屈折もしていたし、サーシャがしたことは許されることではないが、彼女なりの救いと正義があったということだろうか。
「教会にも減刑の懇願が随分と来たみたいだしな。極刑は免れそうだ。だが政府は彼女の模倣犯、英雄視しての後追いを恐れてる。彼女は島流しとなって、歴史と記録からその名前は抹消される方針のようだ」
「……そうかあ。なんだか、やるせない依頼だったな」
「まあお前には感謝してる。これから先、なんか俺を頼れることがあればなんでもいってこいよ」
「ああ、考えとくよ」
「それでまた別の依頼なんだけどな」
「またあるのかよ」
「しょうがないだろ。頼めるのがお前しかいないんだから」
ランスは人知れず、またどこかで活躍することになるのであった。
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新作を連載開始しました。(2022/11/4)
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魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。
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