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第10話 一方その頃、暁の旅団は (2)

「確かゴブリンの集落の近くに、三つ村があるんだよな」

「ああ、ゴブリンの集落に近い順で北からカサンバラ村、ヤムル村、チレーネ村だ」


 暁の旅団は運び屋を雇い、カラカスの街からゴブリンの討伐に向かっている。


「どの村が一番栄えてるんだ」

「それは……たぶんカサンバラ村かな。ゴブリンの集落がなければ、国境に一番近い村でそれなり交易もあるはずだ」

「じゃあ目的地はそこにしよう。田舎臭い村になんざ滞在するのは気に食わんが、田舎臭いのも少しでも和らげたいからな」


 リーダーのランドルフはそう決めた。


「おい、カサンバラ村に向かってくれ」

「承知しました」


 メンバーたちは長い移動に、それぞれうんざりしていた。


「とりあえず村についたら、うまいもん出させよう」

「こんな田舎にうまいもんなんてあるの?」

「いや、さすがにあるだろ。まずいもんなんか出しやがったら、どやしつけてやるよ」


 メンバーたちの認識ではわざわざこんな田舎まで来て、ゴブリンの討伐してやるだ。

 困っている人々を助けたい。

 自分たちにしかできない事を精一杯やる。

 などといった思考は、このメンバーたちには一切なかった。


「到着しました」

 運び屋の男からそう告げられる。

 大体2日間くらいの移動時間だった。


「やっとついたか」

「あー、やっぱ、やべえくらいの田舎村だなー」

 メンバーたちは思い思いに荷台を降り、それぞれの荷物を手に取る。


「すみません、旅のお方。もしかしたらサウス卿に派遣頂いた、冒険者PTの方々でしょうか?」

「ああ、そうだが」

「よく、お越しいただきました」

「早速だが宿の手配と、まずなんかうまい食い物を食べたいので用意しろ」

 リーダーのランドルフは、いきなり命令口調でそう言い切った。

 彼にとって田舎の人間など小間使いに過ぎない。

 例え相手がその村の村長と思われる、年配の人間であっても。


「宿の手配は当然させていただきますが、うまい食べ物は準備ができておりませんのですぐにお出しできるかどうか……」

「ちっ、使えねえな。そっちの都合はどうでもいいが、みんな腹をすかせてるからさっさとしろよ」

「ああ……はい」

 村長の老人は曖昧に返事をした。

 こいつらはいきなり来て、この態度はなんだろう。

 後ろに控えている血の気が多い若者などは、明らかな敵意の目を冒険者PTに向けていた。

 村長はそんな若者を視線で制す。


「宿はあそこだな。飯は宿に持ってこい。後、給仕をする若い女と、酒も忘れるなよ」

 そう言うと冒険者PTたちは宿に向かっていった。


「村長、なんだあいつら! くそ態度悪いぞ!」

「何様のつもりなんだやつら! たかだか冒険者風情が村長に向かって!」

 冒険者PTがその場にいなくなると、村の若者たちから不満が噴出する。


「まあまあ、おまえらの気持ちも分かるが。ゴブリンを討伐するまでは、やつらの機嫌を損ねるべきじゃない。今、村は、存続の瀬戸際にあるんじゃからな」

 もし冒険者PTがゴブリンの討伐ができなかった場合は、村を捨てる事を考えないといけない状況であった。

 ゴブリンたちは日に日に数を増やし、勢力も増やしているようである。

 現在は散発的な衝突で済んでいるが、集団で来られた場合は最悪村が全滅する。

 そうなる前に村を捨てる必要があった。


「………………」

 村の若者たちも危機的状況については分かっているため、押し黙る。

 生きるか死ぬかの状況の今は屈辱に耐えるしかないのかと。


「早速食事を用意させろ。後、給仕の女たちもな。今日は酒を飲ませて、気持ちよく酔わせてやれ。討伐が済んだら、その時に処遇を判断すればいいだけのことじゃ」

 村長の指示で、村のものたちは散りそれぞれの役割に戻る。


(やれやれ、しょうもない冒険者PTのせいで戦う前から不協和音が漂っておる)


 村長が空を見上げると、曇天が広がっていた。

 晴れそうで晴れない曇天が。



「ぎゃーはっはっは! おい、酒をもっと持ってこい! おい、そこの女! 今度はこっちにきて酌をしろ!」

 冒険者PTのメンバーたちの、飲めや食うやの宴会はもう3時間近く続いていた。


「おい、奴ら明日はゴブリンの討伐って、分かっているんだろうな」

 その様を確認した村民から不安の声が上がる。


 村長は頭を抱えた。

 適量の酒を飲ませて気持ちよく。

 というつもりで、希望通り酒を出してやったが。

 明日は討伐だというのに、ここまで羽目を外す、プロ意識のない連中だとは想定外だった。


 ギリギリの所でやっている村民たちは、いつ気持ちが切れて奴らに向かっていくやもしれん。


 戦いが始まる前に、内輪で揉める事だけは避けなければならないのでなるべく、若い連中は冒険者PTに近づかせないように、追加で指示をしている。


 そうして気を揉んでいる最中にも、

「ぎゃーはっはっは!」

 と甲高い奴らの癪に障る笑い声が、宿内にこだましていた。


 奴らが村にとって、最悪の疫病神にならなければいいが。

 村長は脳裏によぎった悪い予感が当たらないようにと願った。

少しでも

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「更新頑張ってほしい!」


と、思って頂けましたら、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価頂けると、作者の大きなモチベになります!


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